第95話:その頃彩乃は (下)

美咲の忠告を聞かずにちょっかいを出し始めた菱沼に対しひーくんは物凄く不機嫌そうな顔をしながらゆっくりとだが起き上がり


『朝から佐々木と喧嘩でもしたのか?』


『………………』


「私今からこの人に謝りに行かなきゃいけなんだよね? なんかさっきよりも不機嫌度が上がってる気がして仕方ないんだけど」


「まあ間違いなく菱沼のせいでひーくんのご機嫌斜め度は上がっただろうね。それもかなり」


『彩乃ちゃん関係だからっていうのはあるかもしれないけど、よーくんがここまで露骨に不機嫌になることなんて今まで一度もなかったのに…本当に何をしたのさ?』


(全ては私の友達が原因です)


『おいおいおい、なにもう一回寝ようとしてんだよ。っていうか人が話し掛けてんだからイヤホン外せよ』


『うるせえ、少し黙ってろ』


『はあ? うるせえも何もお前がしてるイヤホンってノイキャン機能が付いてるやつだから絶対に俺の声なんて聞こえてねえだろうが。バーカ……ほらな』


『確かによーくんには聞こえてないかもしれないけど、彩乃ちゃんにはバッチリ聞こえてることを忘れてない?』


そんな明日香の言葉を聞いた瞬間菱沼が『あっ、ヤベッ!』みたいな顔をしたが時すでに遅し。ということで一言文句でも言ってやろうかと思った瞬間ひーくんは思いっきりで中指を立てながら


『チッ』


『ええっ⁉ いきなり中指を立てられた挙句舌打ちまでされたんだけど、これってもしかしなくても全部聞こえてた感じっすか⁉』


「ええっ⁉ なんかこの人のせいで更に怒ってるみたいなんだけど、本当に今から謝りに行くの? さっきとはまた違った怖さがあって正直教室にすら戻りたくないんですけど」


(はぁ、新学期早々からこれとかこの先が思いやられるんですけど。お願いだから今後は彼に変なちょっかいとか出さないでよね、ほんと)


(………ご機嫌斜めだけど場所が悪いせいで私に素直に甘えられない。みたいなひーくんも可愛いからたまになら許してあげなくもないけど)

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