第28話


アルフォンスがいない間は、リリとランに頼み込んで、有里は彼女等と一緒に夕食を取っている。

初めは「恐れ多い!!」と騒いでいた双子だが、女子会での彼女等の暴言?を盾にとり、頷かせたことは言うまでもない。

正直、一人で食べる食事は味気ない。「誰かと楽しく食べた方が美味しいのだから」と言えば双子は顔を見合わせ「しょうがないですね」と嬉しそうに笑うのだった。


夕食も終わり寛ぎながら雑談していると、フォランドが訪ねてきた。

「お休みの所、すみません」

何時もの堅苦しい服装ではなく、幾分かラフな格好で現れたフォランドの姿は有里にとってはひどく新鮮で、思わず見惚れたように凝視してしまう。

「なんか・・・いつもより好感度二割増しって感じ」

ポツリと有里が溢すと、フォランドは片眉を上げ「おや?」と少し黒い笑みを浮かべた。

「心外ですね。それだと普段の私は、好感度が全くないような言い方のようですが?」

「えぇっ!いやいやいや!!普段から好感度溢れまくりです!だけど、今の畏まってない服装だと、新鮮でいつもより素敵だなーって」

率直な感想を言えば、フォランドは目を見開き口元を手で覆いそっぽを向いてしまった。

「フォランド?」

いつも呼んでいる愛称ではなく、名前を呼ぶ有里にフォランドは「はぁぁぁ~~~」と、どこか諦めにも似た溜息を吐いた。

「貴女という人は・・・・無意識に周りの人間を虜にする、人誑しも大概にしてほしいですね」

「なにそれ!ひどっ!!人を誑し込んだ覚え無いんですけど。このに皆、騙されてるんじゃないの?」

「・・・・自分で言っていて、悲しくないですか?」

「非常に悲しいです・・・」

「はぁ・・・・まぁ、その天然誑しっぷりは陛下専属でお願いしますね」

「天然?よくわからないけど・・・わかった」

取り敢えず頷いた有里の頭をポンポンと撫で、本来の目的を果たす為、まずはリリとランが支度してくれたお茶を飲み一息つける。

「先ほど伝達役が来まして、明日、捕らえられた者達が先にこちらに送られてきます」

有里は背筋を伸ばし、気を引き締めてフォランドの話を聞く。

「一旦は城内の地下牢に収監されます。尋問の後に、城から少し離れた監獄に送られますが・・・彼等が地下牢とはいえ、城内に居る間はあまりウロウロしないでくださいね」

「わかった」

神妙に頷く有里に、フォランドは困った様に笑みを浮かべ、彼女の眉間を人差し指で突いた。

「皺が寄ってますよ。そんな顔をしなくても大丈夫です。あくまでも万が一の為ですから」

「うん・・・」と頷きながら、フォランドに突かれた眉間を皺を伸ばすように撫でた。

「それと、陛下がその翌日、明後日には帰ってこれるようです」

途端に有里の顔が輝いた。

「ホント!?」

その反応に満足げにフォランドが頷いた。

「えぇ。セイルを早朝に発ってくるようなので、夕方近くなると思います」

「そっか。お天気が良いといいんだけど」

今日の昼頃から曇り始めた空は、今にも泣き出しそうなほどに雲が厚さを増してきていた。

「そうですね。本降りにならなければいいのですが」

二人で心配そうに窓の外を眺めていたが、不意に有里が何か考えるように顎を撫でた。

「ねぇ、あんまりうろつくなっていうけど・・・私に何かできる事無いかな?明日、騎士の人達も何人か帰ってくるでしょ?迎える準備とか、色々あるんじゃない?」

「そうですね。食事やら怪我人の手当てやら、人数が人数なだけに忙しいですね」

「なら!私も手伝う!!」

「却下」

「えぇ!!何で!?」

「先ほども言いましたでしょう。捕らえられた者達が来ると」

「聞いた。でも、牢の中に入っちゃえば大丈夫でしょ?」

「それは、そうですが・・・」

「私、マナーもダンスもがんばったよね!?」

渋るフォランドに有里は身を乗り出した。

「それは、皆が無事に帰ってきて楽しい慰労会が待ってるって思ったからだよ。なら、疲れて帰って来た彼等のお世話したっていいでしょ?」

ぐいぐい押しまくる有里だが、あまりいい顔をしないフォランド。

「みんなの前に出るのが駄目なら、厨房でみんなの食事作るとか。厨房でならいいでしょ?」

彼の手を握りじっと真っ直ぐに、訴えるかのようにその目を見つめる有里に、フォランドは疲れたようにため息を吐いた。

「わかりました。厨房なら許可します」

「やったぁ!!」

小躍りして喜ぶ有里に、フォランドは「た・だ・し!」一語一語区切って確認する。

「厨房と部屋の往復のみです。明日一日は我慢してください」

有里はにやける頬を手で揉みながら頷いた。

「正直なところ、常に貴方の周りを騎士で囲んでおきたいくらいなのですから」

「・・・・いや、アルがいなくなってから、ずっとそんな状態なんだけど・・・」

ちょっとうんざりしたような表情の有里に、フォランドは「甘いですね」と鼻で笑った。

「いっその事、この部屋に監禁してしまいたいくらいですよ。あなたを狙って次から次へと色々送り込んでくる隣の大陸の馬鹿共達には、正直うんざりしてるんですから」

「・・・・・そんなに?」

「そんなに、ですよ。あまり貴女に不自由はさせたくないので、そこそこ自由にしては貰っていますが」

「でも、護りに自信があるから自由にさせてくれてるんでしょ?」

「まぁ、リリとランも騎士団に負けないくらいの腕はもっていますし・・・ただ、何事にも絶対という事はないですからね。気を付ける事にこしたことはありません」

「えっ!リリとランってそんなに強いの!?」

双子は有里の侍女兼護衛と言うのは知っていたが、まさかそれほどとは思っていなかった有里は、目をキラキラさせて二人を見た。

「えぇ、まぁ」

「わたくしたちは、エルネスト様に師事を仰いでいますので、そこそこ強いと思います」

「侍従長が、お師匠様なの?」

「凄い!」だの「憧れるわ!」だのと、双子を散々褒めちぎる有里にフォランドは呆れたようにため息を吐きつつも、小さく笑い肩を竦めた。


この能天気さに救われている気がするのは、気の所為ではないのでしょうね・・・


何時も、何だかあれこれ気を回しているのが馬鹿らしくなってしまうほどに、最後には笑顔で締めてくれる彼女。

緊張感が無いのは困りものだ・・・と初めは思っていたが、今は彼女はこのままでいいとフォランドは思っている。

だからこそ、その笑顔を曇らせないよう、護りきらなくてはならない。


さてと、明日からまた忙しくなりますね。


フォランドは立ち上がるとリリとランに目配せをした。

二人は無言で頷き、頭を垂れる。

「では、私はお暇します。リリとランの言う事をよく聞く様に」

まるで子供に言い聞かせるように有里にいえば「わかった!」と、これまた神妙な顔で頷く。


本当にこの人はあちらの世界で年上だったのだろうか・・・と、溜息を落としながら、ポンポンと有里の頭を撫でた。


「では、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

「「おやすみなさいませ」」


フォランドが部屋から出て行くのを確認すると、有里は双子にくるりと振り向いた。

「ねぇ、二人に聞きたいことがあるの!」


その笑顔は何かを企んでいるような、これまでに何度か見たことのあるフォランドとどこか似た爽やかなもので、リリとランは一瞬、天を仰ぎつつも諦めたようにため息を吐くのだった。


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