よく晴れた日は、いい天気。


1人の男性がある街に

転勤のために

引っ越してきた。



その男性は転勤後も

部屋の片づけもできないほど

慌ただしい日々を送っていた。



まさか、


自分自身がこれほど

忙しい状況になるなんて

思ってもみなかった。




男性は引っ越してから

半年が経った時にやっと

部屋から段ボールが消えた。





段ボールは無くなったが

部屋が殺風景な状況には

あまり変わりはなかった。


来る日も来る日も仕事で

男性の体は限界に近づいていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

それから3カ月後のこと。



男性はついに過労で

倒れてしまった。



医者の判断では

心と体の回復のため

4ヶ月は必要との事だった。




(まさか、自分が…。)


そんな思いが頭を巡っていた。




新しい街に来てから

家と職場の往復だけで

休日は部屋の片づけか

一日寝てるか…。


そんな生活だった。





新しい街には

友人は1人もおらず

恋人も存在しなかった。


男性は孤独に陥っていた。





仕事も休むことになり

1日中部屋に引きこもって

テレビを見ていた。


外出する心の力は

出てこなかった。




「どうすればこの状況から

抜け出せるのか?」


という事が四六時中

頭の中をよぎっていた。





そんなあてもない日々が

2週間過ぎていた。





そんな、ある日の事。




「あ、牛乳がないじゃないか…。

これじゃぁコーンフレークが

食べられない…。」



とことん自分はついてない。

そんな事を思っていた。



男性は重い腰を上げコンビニに

向かうことにした。





その日は快晴で、街全体を

清々しい空気が包み込んでいた。






自転車でコンビニに

向かっていたのだが


清々しい空気に誘われて

街を散策したくなったのだった。





引っ越してきてから

街を堪能することが

初めてだったことに

男性は気がついた。



大きな街ではないが

色々なお店が並び


小さな商店街もまだまだ

活気は失われていなかった。




男性は楽しくなってきて

そのまま散策を続けていた。





頭の中には『牛乳の事など』

これっぽっちも残っていなかった。






「お!登り坂があるな!

体力が残っている事を

登り切って証明してやる!」


男性はそう自分に言い聞かせ

目の前に広がる坂道を

自転車で登り始めた。





その坂は、最初はなだらかで

自転車でも苦もなく進めたが


途中から一気に急勾配になり

自転車では辛くなった。





仕方なく男性は自転車から降り

押しながら坂を登っていた。



「俺は何をやっているんだ…。

確か…。あ、牛乳…。」


男性は急な坂を登りながら

自分の目的を思い出した。





お昼過ぎに家を出たが

街の散策に夢中で


気が付けば夕方に

差し掛かろうとしていた。





坂を登る事は誰からも

強制されたわけではないのに

男性は登り切る事しか

考えられなかった。



息を切らしながらついに

男性は坂を登り切った!





頂上には小さな公園があり

小さな展望台からは

街を見渡せるのだった。




展望台から街を見下ろして

勝利の雄叫びをあげてやろうと

思っていたのだが



それとは全く違う言葉が

自然と口から言葉が漏れた。






「な、なんてキレイなんだ。」






そこには、



街全体が夕焼けに照らされ

今まで見た事もないような

素晴らしい景色が広がっていた。






「自宅からそう遠くない所に

こんな素敵な場所があったとは…」






男性は気が付いたら泣いていた。






景色の素晴らしさに自然と

涙が溢れてきたのだった。






ただ、景色が美しかっただけでなく



自分自身が目の前の雑事にだけ

意識が向いてしまっていて



自分の周りに広がっていた

素敵な世界の存在に

気が付かなかった事に対して

後悔していたのだった。







「自分自身の小さな世界から

一歩踏み出すだけでこんなにも

素敵な世界があるなんて…。」






男性は今までの自分が

洗い流される感じを受けた。






景色を堪能した後。


男性は自転車で一気に坂を

下って行った。





それは、最高の気分だった。





街に戻ると日が暮れて

営業開始する飲食店の明かりが

辺りを包んでいた。


男性はかなり空腹だった事に

その時、気が付いた。





家にあるコーンフレークの事が

頭にふと浮かんだのだが

自分の小さな世界の事は

忘れることにした。






この街に引っ越してきてから

初めての外食だった。



男性はあまり1人では

飲食店に入る事はないのだが


今までの小さな自分は捨て

一軒の小さくオシャレな

スペインバルに入っていった。




まさか、



その場所で運命の出会いが

静かに待ち受けていようとは

男性は知る由がなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る