よく晴れた日は、いい天気。「短編集」

The Fool

ある女性がネットで人気がある

占い師に相談に来ていました。

都市部にあるけれど

薄暗い細い路地先にある

一件の小屋のような場所でした。

その占い師は、他の人とは

少し違う回答をくれる人でした。

女性：

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自分とはこの世に産まれてから

ずっとずっと一緒に生活し

毎日の行動・言動・思考を

見てきました。

だから、

自分自身はどんな性格で

どういう人間なのかは

よく知っているんです。

自分には何もできない…。

ドジでぐずで行動力が無く

何の才能もありません…。

なりたい職業もこれと言って無く

あったとしても…。

その職業になることなんて

できないんだと思います。

もし、人生をやり直せるなら

一からやり直したいんです。

やり直す方法を

教えてもらえませんか？

－－－－－－－－－－－－－－－

占いという枠を超えた

女性の心の中の悲鳴と

言うべき内容だった。

そうとは分かっていたけど

女性は本当に苦しんでいた。

25年の間、この苦しみの中

生きてきた事が切実に

伝わってくるようだった。

その女性は話しをしながら

ずっと涙を流していた。

占い師は話しを聞き終わると

タロットを切り出し

女性に5枚のカードを

引かせたのであった。

占い師：

－－－－－－－－－－－－－－－

今、あなたが引いたカードを

見てみましょうか。

お～！とても素敵なカードが

あなたの前に表れましたよ。

このカードがあなたに

生まれ変わるヒントを

与えてくれるでしょう。

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そう言うと占い師は

ある１つのカードを指さした。

それは、なんだか陽気そうな

人間が描かれていた。

女性：

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なんだかすごく陽気そうで

私とはかけ離れてますね。

もしかして、

良いカードなんですか？

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女性の目には希望というような

小さな輝きが宿っていた。

占い師：

－－－－－－－－－－－－－－－

そうですね。

あなたを見る限り

このカードはあなたにとって

『素敵なカード』と

言えるでしょうね。

このタイミングでここに現れた。

人生はタイミングが大切ですからね。

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占い師はそう言うと

女性の目を力強く見て

一言、こう言った。

占い師：

－－－－－－－－－－－－－－－

本当に生まれ変われるなら

あなたは、どんなことにでも

挑戦する勇気はありますか？

【自分が知らない自分】に

出会うための方法を

これからお伝えいたします。

もしかすると、

最初は意味が理解できなくて

混乱するかと思いますが

とても有効な方法です。

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女性はその言葉を聞くと

大きくうなずいた。

占い師：

－－－－－－－－－－－－－－－

このカードはタロットでは

【０ THE　FOOL（愚者・狂人）】

というカードです。

いかがですか？

とても素敵なカードでしょう？

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それを聞いて女性は

無表情＆無言になってしまった。

そして、

恐る恐る占い師の方を向き

一言、こう言った。

女性：

－－－－－－－－－－－－－－－

もしかして先生は

私の事を、愚者・狂人と

仰られているのですか？

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それを聞くと、占い師は

大きな声で笑い出した。

占い師：

－－－－－－－－－－－－－－－

いえいえ、違いますよ。

そんなことはありません。

先程もお伝えしたように

このカードがあなたに

生まれ変わるヒントを

与えてくれるんです。

それに、

今日からがあなたにとって

生まれ変わる第一歩に

なるかもしれないのです。

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女性は少し申し訳なさそうに

小さくなっていた。

占い師：

－－－－－－－－－－－－－－－

まず、このカード番号は

【0】です。

『0』は終わりであり

始まりを表す数字です。

今までのあなたは【終わり】

新たなあなたが【始まる】

こういう事を表しています。

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女性は身を乗り出して

一字一句逃さぬよう

真剣に聞き入っていた。

占い師：

－－－－－－－－－－－－－－－

それと、とても大切な事

このカードの意味。

【愚者・狂人】です。

愚者というのは

狂人の事を指しているのですが

狂人というのは

まさしく『狂った人』のこと。

私たちが狂人と聞いて

思い浮かぶように

精神的におかしくなって、

普通の人のように

社会生活ができなくなった人。

それが狂人です。

つまり、

あなたは今日から

【狂人】として

生まれ変わるんです。

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女性は唖然として

占い師を見ていた。

女性：

－－－－－－－－－－－－－－－

先生、申し訳ないのですが

仰られている意味が

理解できないんですが…。

－－－－－－－－－－－－－－－

占い師は女性の言葉を

お構いなしに話しを続けた。

占い師：

－－－－－－－－－－－－－－－

【狂人になる】ということ。

この社会においての狂人になる。

という意味ではありません。

【あなたの人生にとっての狂人】

になるんです。

あなたは最初にこう言いました。

「自分自身はどんな性格で

どういう人間なのかは

よく知っているんです。」

自分自身の事は知っている。

つまり、『自分の世界』を

理解しているということです。

『あなたの世界において』

正しい事・まともな事・

こうでなくてはならない事。

なんかを理解している。

今まで生きてきた自分の経験を

通してそういうものが

創り上げられているはずです。

ずっと自分を見てきたんだから

今、私が言っている事を

なんとなくでも分かるはずです。

－－－－－－－－－－－－－－－

女性は顔を下向きにし

小さくうなずいた。

占い師が言わんとしている事を

全て理解したようだった。

占い師：

－－－－－－－－－－－－－－－

今まで創り上げてきた

『あなたの世界』は実は、

まやかしの世界なんです。

そんな世界はどこにも

存在しないんです。

私たちは

自分が見た事。

自分が聞いた事。

自分が経験した事を通して

気が付けば自分だけの世界を

創り上げているんです。

そして、

それが『この世の全て』

だと思い込んでしまう。

【狂人になること】とは

【あなたの世界においての狂人】

に、なるという事。

今、あなたの中にある

自分のルールに縛られずに

自分の常識の枠をぶち壊す

【狂人になるんです】

－－－－－－－－－－－－－－－

気が付けば女性は泣いていた。

占い師の言葉が彼女の心に

突き刺さっていたかもしれない。

女性：

－－－－－－－－－－－－－－－

先生の言わんとしている事

よく分かります…。

でも、私にはそんな事する

行動力がないんです…。

－－－－－－－－－－－－－－－

その言葉を聞いて

占い師は笑いながら言った。

占い師：

－－－－－－－－－－－－－－－

ほら、『今の決めつけ』も

自分の世界の常識ですよ。

【行動力がない】なんて常識を

さっさとぶち壊しましょう。

というか、あなた。

今日、この時点で自分の常識を

１つ壊しているでしょう？

－－－－－－－－－－－－－－－

女性はそう言われると

ハッとした表情をした。

女性：

－－－－－－－－－－－－－－－

そ、そうでした。

確かにそうです。

私の中で【占い師に相談する】

という常識はありませんでした。

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占い師はまたも大笑い。

占い師：

－－－－－－－－－－－－－－－

【狂人の世界にようこそ！】

あなたも立派なあなたの世界の

【狂人になれたんですね！】

もう一度、自分を見つめ直して

自分の世界を見て下さい。

そして、

狂人になって

その世界をぶち壊しましょう。

今までのあなたの世界が【終わり】

新たなあなたの世界が【始まる】

その結果。

『あなたは生まれ変わる』

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女性は流れる涙を拭きながら

納得の表情をしていた。

女性:

－－－－－－－－－－－－－－－

私に、できるでしょうか…。

ぶち壊せるのでしょうか？

－－－－－－－－－－－－－－－

占い師は大きくうなずいた。

占い師：

－－－－－－－－－－－－－－－

最初は、小さな常識から

壊していけばいいんですよ。

例えば、あなたの中で

「コンパには行かない」

という常識があれば

それをぶち壊して

『コンパに行けばいい』

でも、この時大切なのが

コンパの結果がどうこうは

全く気にする必要がない

という点は覚えておくように。

男性と全然喋れなくても

コンパが楽しくなくても

関係ないんだからね。

重要なのは

『コンパに行った』という

新たな世界が誕生したこと。

『日曜日は自宅でゆっくり』

という自分の常識があるなら

それを、ぶち壊して

『友達と外出しまくる！』

なんかでもいい。

自分の世界をぶち壊して

新たな世界を創る事を

楽しむんです！

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女性は占い師にお礼を言い。

帰宅の途についた。

それから、半年後。

女性は生まれ変わったように

清々しい表情をしていた。

まるで、

世界が変わったように

彼女は生まれ変わったのでした。

今までの自分の世界をぶち壊し

新たな世界を創り上げました。

ある日、彼女は占い師に

お礼を言いに行きたいと

思いましたが

占い師の小屋があった場所は

大きなコンビニが建っていて

痕跡は残っていませんでした。

あきらめて帰ろうと思った時

道端にメモらしきものが

落ちている事に気が付きました。

それを見た時、

女性はニヤッと笑っていました。

【狂人の世界にようこそ！】