第7話 大坂夏ノ陣⑥ 🌼敗戦、真田家はちりぢりに
翌5月7日――
大坂城の籾蔵で、豊臣秀頼とその母・淀ノ方が自害し、夏ノ陣は終結した。
伝え聞くところによると、真田左衛門佐信繁は、最後の舞台となった天王寺岡山の戦いに、女だてらに白鉢巻き姿で参戦した二の側室・芳野や、その父・高梨内記を初めとする信濃上田以来の忠臣を伴って家康本陣に突入し、当の家康本人に二度までも自害を覚悟させるなど、文字どおり八面六臂の活躍を遺憾なく発揮した。
遅ればせに戦場へ急ぐ行軍中に報告を聞いた薩摩藩主・島津陸奥守家久をして、
――天晴れ、日ノ本一の
とまで賞賛せしめた信繁は、命運を共にしてくれた愛馬・月影の遺骸に合掌したあと、深手を負った身体を休めていた天王寺の安居神社で
すでに道明寺の戦いで負傷していた15歳の長男・大助は、
「嫡男のそなたは、わしの代わりに最後の最後まで右府(秀頼)さまを見届けよ」
父の命を忠実に果たすべく、天王寺岡山から大坂城に駆けもどると、
――われこそは真田左衛門佐信繁の倅なり! 最後まで右府さまのお供を奉る!
声を限りに咆哮して、壮絶な切腹を遂げたという。
危機一髪で大坂城を脱け出た正室・輝葉姫と13歳の3女・あぐり姫、11歳の7女・おかね姫、3歳の9女・阿菖蒲姫の母子3人は、かつての縁故を頼って紀州九度山附近に身を潜めていたが、紀伊藩主・
のち許されて剃髪し、竹林院を号した輝葉姫は、尾張犬山城主・石川貞清の正室となった7女・おかね姫のもとに身を寄せた。3女・あぐり姫は、祖父・真田昌幸の5女の夫に当たる旗本・
母・輝葉姫のもとで育てられた9女・阿菖蒲姫は、腹ちがいの姉・阿梅姫の縁を得て出羽白石の資産家の町人、青木次郎右衛門に嫁したが、夫に先立たれ、のち、義兄・片倉重長の家臣・片倉定廣に再嫁した。
わずかな家臣に守られて逃げ延びた4歳の次男・大八は、残党狩りのほとぼりが冷めかけたころ、腹ちがいの姉・阿梅姫を頼って白石城に落ち延びた。
主君・伊達政宗の許しを得た重長により同城二ノ丸で手厚く養育され、元服して片倉久米介、のち守信を名乗った。御公儀の詮議を憚り一時は控えていた真田姓も次代で復活させ、今生の別れで阿梅姫が父・信繁に契ったとおり、奇縁に導かれた出羽の地に脈々と真田の血脈を伝えていくことになる。
京嵯峨野の祖母のもとに身を寄せていた一の側室・波瑠姫は、戦後、姉の嫁ぎ先の梅小路邸に匿われていたが、残党狩りの追手から逃れ、目立たない町屋で3男・之親を出産した。
町娘に変装して居所を転々としているところを捕らえられた12歳の6女・御田姫は、亡父・信繁の兄・真田信之の計らいで処罰を免れ、江戸城大奥の女中として召し出された。
流転の母子の再会は捕縛から3年後のことだった。
大奥女中の任を解かれた御田姫は、出羽亀田城主・岩城宣隆の継室として嫁し、20歳年長の夫の庇護のもと、剃髪して隆清院を号した母・波瑠姫を引き取った。
弟の幸信(之親)も岩城氏に仕えた。
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