ノーム⑤ (完)

 それから十分くらい、非言語ノンバーバルコミュニケーションに向き合っていたでしょうか。

 彼のとるアクションひとつごとに質問を投げかけ、答え合わせしながら、スケッチブックに幾つものはにわさんを描きました。

 見た目も動きもいちいちかわいいものですから、描いていて楽しくなってしまいました。


 総括すると、大雑把に次のとおりです。


 むこうの道の土は渇いていた。

 あんなに水分が少ないところに花があるのは可哀想である。

 だから、土壌に水分がある草むらへ花を移した。


 それだけ?……と思いますよね。

 ええ、わたしも一瞬そう思ってしまいました。

 いえ。それだけ、というのは失礼でした。


 土と植物はパートナーで、彼らノームからすればとても大事なことなのですから。

 土の精霊たるノームがそうするべきだと判断してそうしたのですから。

 ヒトが考えるよりも事態の深刻化の兆しを感じとっているのかもしれません。

 

 ――そういえばここしばらく、雨が降ってない気がします。

 雨はいつから降っていなかったでしょうか。

 いま草むらにあるこの花は、昨日はむこうの道に咲いていたものを、わざわざノームが運んできました。

 段々と、このあたりの雨不足が心配になってきます。

 雨不足に陥ると確証があるわけではありません。杞憂であればそれも良しです。このあと果樹園のおじさんと、集落のひとたちにも雑談がてら伝えてみることにします。


「はにわさん、ありがとうございました」


 お話を聞かせてくれたはにわさんに感謝を伝えながら、彼を指で軽くつつく。


「ただ、このあたりの水不足の解消はわたしたちには難しいのですが……」


 つつかれて揺れながら、彼はしゅんとしました。そんな気がしました。


「また、お水持って遊びにきますね」


 そう伝えると、彼は何度かくるくるまわって、花の群れにズボッと帰っていきました。


 くるくるまわる。ノームが喜びを表す動きです。

 わたしが来るのを楽しみにしてくれるだなんて、なんだか嬉しくなっちゃいます。


 ——ああ、もしかして水のほうだったりして。


(ノーム 完)

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