ノーム③
「こんにちは、はにわさん。何もしませんので出てきてくれませんか?」
草むらに見つけた不自然な花の一群の前にしゃがみ込んで、呼びかけました。
「すこしお話できると嬉しいのですが」
しかし返事はありません。彼らは言葉を話さないので当たり前ではありますが。
けれど彼らもヒトの言葉をすこしは理解をしているんですよ。
草花に話しかけながらお世話するおばあちゃんはいつの時代もいらっしゃいますし、そうしてなんとなく覚えていったのでしょう、なんて言われてます。真実はわかりませんけれど。
わたしは落ちている木の枝を拾い、花の根元を優しくつついて呼びかけ続けます。
——それでも反応はありません。
いくら会いたいからといって、彼らを地面から引きずり出そうだとか、掘り出してやろうだなんて乱暴は、絶対にしてはいけません。
彼らが怖がって逃げだしてしまった土地は、たとえ僅かだとしても確実に枯れていってしまうのです。
何もしませんので、というのが警戒されているのでしょうか。もしかして勘違いだったりして。うーん。
いいえ、きっといます。この花たちは不自然な咲きかたしていますから。簡単には諦めませんよ。
「あ。そうだ」
思い出しました。
「わたし、いいものをもっていますよ。出てきてくれたら少し分けてあげましょう」
バッグの中に、この子たちが欲しがるものがあることを。
——カサッ。
花が一瞬だけ揺れました。風はありません。
ふふ。奥義、ものでつる。ちょろいものです。
「いいもの。」
再びカサカサと花が揺れました。土の中から期待感が窺えます。
「なんだと思いますか?」
ちょっと意地悪したくなります。
「でも出てこないとあげられないですね」
揺れた花がピタッと止まります。
「残念ですね」
意地悪してしまいました。
花が少し傾いて、なんとなしに伝わってくるしょんぼり感。
相変わらず素直な性格だこと。表現も豊かなかわいいやつです。
もっと遊んでいたいのですが、仕事の途中です。出てきてもらわないといけませんね。
「冗談ですよ、いいもの、差し上げます」
言いながら、バッグの中の水を取り出しました。
「お水です。あなたの花に少しまいてあげます」
そう伝えて、花に水を振りかけます。
「だから出てきてくださいね」
ガサガサ——花が大きく揺れ、丸みを帯びたものが地面から見えてきました。
少しずつ上がってきて、かと思えば一瞬止まり……
すぽんっ。
勢いよく、土の中から花をテッペンに挿したノームが一匹、飛び出てきました。
すたっ。
きれいな着地を決めた後ろ姿は、どこか誇らしげです。
でもねはにわさん、わたしは反対側ですよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます