第37話

 後輩である舞島がバトルロイヤルの参加者であると判明した以上、早急に情報の収集と対策を検討しないといけない。


 そこで例のごとく麗佳との作戦会議をする事と相成り、さらに乃雪が心配だという例の理由により、その場所は俺の家で行われる事となった。


 ただし、まだ陽の明るい内という事から俺と麗佳は別々に家まで向かう事にした。理由は当然、麗佳のフォロワー低下を防ぐ為。俺と一緒のところを学内の連中に見られるのはフォロワー低下を招きかねない。


『そこまで気にする必要はないと思うんだけど……。ま、貴方がそれで納得するならそれで良いわ。私は乃雪ちゃんへのお土産も買っていくから少し遅くなるからね』

 そのような内容のメールが俺の下に届く。あいつもあいつでお土産なんて買う必要はないと思うのだが……。律儀な奴だ。


 そして、学園から徒歩二十分の場所にある自宅マンションへと到着する。

 

 麗佳がまだのようだが、先に上がって待っていても構わないだろう。それに、俺が乃雪の世話で手が放せない時に備えて、合鍵も渡してある。俺は十一階にある自宅へと急いだ。


「ただいま」


「にぃ〜〜」

 家の玄関を開けた瞬間、奥から聞こえる愛らしくも、情けない声。


「ど、どうしたんだ!?」

 その声に何かあったのかと部屋の奥へと急行する。

 

 そこで見たのは、


「本当に申し訳なかったの」

 冷たい鉄板の上で泣きながら正座しつつ、なぜか裸になっている愛しい妹の姿だった。


 えぇ……なにしてんの、こいつ……。


「状況を説明してもらえる?」


「そのね、ノノの作った通信機が原因でピンチになっちゃったから反省を体中で表現しているの……」


「それがどうしてこうなった」


「まず謝罪の基本は正座からなの」


 正座しているのまでは理解できる。そこまでは人類による思考回路だ。おーるおっけー、お兄ちゃんついて行けてる。


「そして、普通に土下座するだけじゃ足りないと思ったの。だからあっつあつの鉄板の上で正座すればいかな極悪非道のにぃでも許してくれるって考えた」


「そんな事したら別の理由でくっそ怒るけどな」

 しかもパクリじゃん……。さらに言えばやった奴、再起不能になる奴じゃん……。


「でも、断念したの」


「成程。小学校の頃は国語で毎回十点以下を取っては『国語は出題者の気分で答えが変わるから問題として適正じゃない』『アメリカ人に英語の授業は無いのに、日本人に日本語の授業があるのは日本語に欠陥があるからで、ノノは悪くないの』だのとイキリ反論しまくってた乃雪にもようやく理解力が備わったか」

 あと、そんだけ小憎たらしい反論ができるなら、小学校程度の国語ならせめて平均点以上は取れるよね?


 しかしながら妹が成長したと感動する俺に対して、乃雪はかぶりを振る。

 

「違うの。鉄板を熱々にしようと思って台所のコンロを使おうとしたら、火が点けられなかったの」


「そこからかよ」


「IHってなんなの……? 英語を使ってシャレオツ気取ってんじゃねーぞ」


「口悪っ」

 一部の知識を除いて小学生程度の頭しかないであろう乃雪には、まだ早かったらしい。


「それによく考えたら、乃雪がこんな重い鉄の塊、コンロの高さまで上げられるはずがないの。構造的欠陥だった」


「……じゃあその鉄板は一体どっから持ってきたんだ?」


「通販で頼んだあとは、たまーに来てもらっているハウスクリーニングの人にここまで運んでもらった。勿論、指示はメールだけで、ノノは一切顔見せない。現代は引きこもりに優しい世界なの」


「だ、代金は?」


「鉄板とハウスクリーニング代で二万。ハウスクリーニングの人は『ホントに鉄板運んだだけで帰って良いんですか?』って狼狽えてたの」



「無駄遣い甚だしい!」

 土下座しているし丁度良いから、頭潰してやろうかこいつ――という衝動をなんとか抑え、ひとまず説明の続きを促す。

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