第34話
「じゃあ、行くわよ」
一言口にした麗佳は先に更衣室のドアを開け周囲を伺うと、そのまま付いてこいとのジェスチャー。
それに従いそのまま更衣室から脱出する事のできた俺。
ひとまず事なきを得た事にほっと胸を撫で下ろす――――暇もなく、麗佳の背中を追う。
麗佳はどこに向かっているのか、スタスタと歩き続ける。
とてもじゃないが、「どこに向かっているのか」などと聞く気にはなれない。いや、普通に怖いし。なんだったら今の麗佳の戦闘力なら俺、瞬殺できるだろうし。逆らえない。
そして、辿り着いた先は校舎から離れた先にあるクラブ棟――通称、文化部棟だった。
ここは主に文化部の部室が集まっており、今は人気が少ない。
……俺、すっごい悪い予感がビンビンに働いているんですけど。
そんな俺の胸中など他所に麗佳は文化部の四階までスタスタと登る。
そして、
「あーもう! ムカつくんじゃい!!!!!!!!」
という裂帛の叫びと共に後ろ回し蹴りを放つ。
その威力は最早笑うしかないとでも形容すべき、信じられないものだった。
事実のみを淡々と述べると足先にあった部室が上下に”割れた”。
……いや、威力おかしいんじゃない? 神話かよ、これ。まあ神の力借りてる時点でそれも正しいが、人間大の、それも少女が放つそれとしては信じられないものだった。
そんな人間兵器もかくやと形容すべき存在となった麗佳は一言、
「……ごめんなさい。やっちゃった」
「いや!! やっちゃったじゃねぇけど!!!!!?????」
何でお前「ちょっとやらかした」程度の態度なんだよ! なに舌出してウィンクとかかましてんだよ、殺すぞ!!!
今のお前がそんなぶりっ子感出したところで何にも可愛くないわ! どっちかって言うと抱いた感情は恐怖だわ!! だってこいつもう爆撃機が可愛らしい皮を被っているみたいなもんだろ、これ! 生物界で擬態って言われてるそれだわ! 油断させて殺しに来る新手のモンスターにしか見えねぇぞ!!!
「そのね、円城瓦君。魔が差したの、ホント。つい、ね」
「ついのレベルでやるにしてはスケールがおかしいだろ!!」
ノリで人類の災厄クラスの状況起こしてんじゃねぇぞ!!
そして、周囲に物凄い音が響き渡る。そりゃ、まあ建物一つが真っ二つに割られでもしたら、ただじゃ済まない音がなるだろう。
「な、何が起こったぁ!?」
騒ぎを聞きつけたのか、どこからともなく人が集まってくる。
「あーもう! ひとまず隠れるぞ!!」
俺達は姿を発見される前にたまたま鍵の空いていた部室へと飛び込む。
そして、気配から察するにさっきまで俺達のいた場所には幾人かの生徒や教師が集まっているようだった。
……これ、マジでどうなるの。と俺が心配したの束の間、
「……さっきの音、大体ここから聞こえていたはずだが。…………特におかしなところはない、な」
と集まってきていたうちの一人が呟く。その後、何事か会話が交わされた後、徐々に気配は消えていった。
どうやら神様による”修復”が行われた事で、事なきを得たらしい。実にデタラメだな、ホント。
「あー、びっくりしたわ。危なかったわね」
たはは、とバツの悪そうな表情を浮かべる麗佳。
……こいつ、さっき自分の事を『学校ではクールで颯爽とした格好良い女の子』とか言ってたよな? よくそんなとんでもウソ付けたな、ぶっ飛ばすぞ。
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