影の仕事はカフェの店長見習い 第二章 キメラ

一葉(いちよう)

第23話  出会いと「ミッション」

<<徐々に第一章に戻していきます、この23話は第一章23話と同じです。>>


 回想(第一章から読まれた方は-----------の間の部分は飛ばしてください。

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 これは試練なのかな、幸い手には浄化の滝の水が入った如雨露

《じょうろ》を持っている。


 長い山道を浄化しながら歩いてきた事もあってかなり疲れていた、如雨露が重く落としてしまいそうで両手で何とか抱えている。


 濃い霧に閉ざされて身動きできなくなったこの場所は、数日前に無数の悪霊に水の中へ引き込まれ水底に沈められそうになった場所。


 そうだこの場所こそ清めなくてはいけない。

 恨み妬みの留まっていたこの場所を。


「ぎゃていぎゃてい はらぎゃてい はらそうぎゃてい ぼじそわか」


 自分でも何を言っているのか分からない、お父さんがお経を唱えている時に聞いた気もするが意味も言葉もさっぱり分からない。


「ぎゃていぎゃてい はらぎゃてい はらそうぎゃてい ぼじそわか」

 同じ言葉を何度も唱えながら如雨露で裂け目に水を撒く、

(恨みを流してください、苦しみや悲しみを水に流してください)

 そう祈りながら水を撒き続けた。


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 「葛の葉」人が来れない場所にある喫茶店。

 山から戻って来てコーヒーを煎れてもらったら少し元気になった。

 

 女マスターは狐のお社の神様!だから。

 でも人と変わらない体を持っている、本人もある事情で(第一章参照)記憶がなく何故人の体に宿っているのか、つい最近まで自分が何者かさえ覚えていなかった。


 店員見習のアルバイトをしているので座ってばかりはいられない、と言っても私が居た間はお客様ゼロ、もちろん此処に人が来たことはない、神様とかあやかしの来るお店、今日は拭き掃除や食器を磨きましたとも。


 狐横丁から出るとまだ夕方近くの様子、少ない通行人の中に同じ中学の人達がまばらに歩いていた。


 一人の男子と一瞬目が合った、通りの向こう側を同じ向きに歩く、その子はすぐに反対側の店の方を向いたがなんかワザとっぽい、同じ中学の一年の校章を付けているので同学年だけど私の記憶にはない。


 商店街の出口近くでチラッとこっちを向いて交差点を左へ曲がって行った。



 今まで気にしていなかったけどこの商店街を通学路にしている同じ中学の子は割といる様で、5時6時に狐横丁から出た時にはたいてい数人の姿を見る。

 

 そう言えば私が出てくるところはどう見えているんだろう、いきなりポンと現れたらそりゃあ驚かれるだろうけど、今まで変な顔をされたことは無い。

(気を付けると言っても出るまでは商店街を見る事が出来ない)




 今日はこの前目が合った子と接近遭遇してしまった、狐横丁を出た所に彼が立っていたのだ。

 ただ彼はこっちを向いていなかったらしく私の気配でこっちに振り返った様だ。


 慌てて向きを変え急いで道の反対側に歩いて行き雑貨屋さんを覗く様子で立ち止まった。


(とりあえず探りを入れてみよう)

「こんにちは」

「こ、こんちは」

 とても焦っている。


「私の事知っていますか?」

「う、うん二組かな、名前は知らないけど」

五來善繡ごらいぜんしゅうです、ごめんなさい私この頃よく見るなあって位しか記憶になくて」

「あのっ、こうさか、三組じゃあまた」


(こうさか、高い坂かな、なんか慌てて行っちゃった、私がどんな風に現れるのか聞きたかったのに)


 私が見える狐横丁は一メートルくらいの幅の道が入って直ぐに右に曲がっている、つまり商店街の隣に平行に並んでいる事に成っているが、実際は家と家の隙間道でここに住んでいる人しか通らない様な路地とも呼べない程のただの隙間だ、まあ此処から人が出てきても不思議がるほどの事も無いか。




 日が変わって今日は神様に頼まれた山道浄化七日目最終日、なんだかとても疲れていた。

 喫茶「葛の葉」で一休みしてから(信太さんは元に戻って元気になった)狐横丁を出た。


 出た所でちょっとフラッとした、出口の角の空き家に手を着いて体を支える。

 <ビクン>空き家に触れた時に背中に電気が流れた。(何か有る)


 空き家から離れたかったのに体が動かない。

 家にもたれた姿勢から膝に両腕を支えて前かがみになって深呼吸。


五來ごらいさんどうしたの」

(この前の誰だっけ、ダメだ頭が働かない)

「私時々体が言う事を聞かないの、直ぐ良くなると思う」

「えっと誰か呼ぼうか、どうしよう」

「あのパリ(喫茶店)のおばちゃん知り合いなの、連れて行ってもらえない?」

「えっ、えっと、、、」


 いきなり連れて行けと言われて困っているから腕を掴んで、

「引っ張れる?」

「う、うん」


 私が彼の肩に腕を回して支えてもらった。


 喫茶パリまで来ると自動ドアが開いておばちゃんが出てきた、彼と二人で私を中へ入れてくれる。


 喫茶「パリ」と言っても中も外も日本のひと昔前、平成の前の何とかと言う時代の様な雰囲気、東京タワーと少し違ったタワーの写真が一枚飾ってあるだけ。


 イスに座って一呼吸してから、

「おばちゃんそこの角の家なんかおかしい、動けなくなった」


 おばちゃんは水とお絞りを私たちの前に置いたけどxx君(まだ思い出せない)が、

「あの僕お客さんじゃないので、、、」

 そう言いかけたので、

「あのお礼です、好きなもの注文してくださいふう」

(ほんとに机にごろんとしたい)


 そしておばちゃんも、

「そうそううちの善繡を助けてもらったお礼だよ、スペシャルカレー食べて頂戴」

「えっあの夕飯前なので、えっと飲み物で良いです」

「そお、じゃあここから選んで」

 とメニューを渡しそして私に、


「角の家がどうかした?」

「うん疲れていてフラッとしてね、ちょっと家に手を着いたら体が動かなくなってしまったの」


 xx君がメニューを指さしたので、

「ミックスジュースだね、うちのは果汁100パーセントだから美味しいよ」


 一旦奥へ行ってジュースを持って戻って来た、厨房に居るおじさんに手を振っておく。

「はいお待ちどう、善繡は?」

「わたしは、、、生オレンジ、疲れた時には、半分に切って」

「オレンジ切ればいいのかい」

「うん」


 皿に盛った半切りにしたオレンジを持ってきてもらった。


「疲れていたせいで動けなくなったんじゃないのかい」

「疲れていたけどあの家に手を着いたら背中がゾクッとして金縛りの様になったの、そこを助けてもらったの」

「あの家はねごうつくじじいの家なのよ、人に貸していたけど爺が死んだから出て行って長く空き家になったままなのよ、悪いものが憑りついているかもねえ」


「ごうつくじじいってお稲荷さんを壊した人?」

「そうそう、あの人憑りつかれて死んだからねえ、まだ家に残ってたのかねえ、ああ恐ろしや」


 全く怖そうでないけど。


「憑りつかれたってどういう事?」

「昔にこの通りの横に狐横丁が有ってお稲荷さんが有ったんだって、それをここはワシの土地だってその爺さんがお稲荷さんを壊して家を建てたの」


 おばちゃんが引き継いで、

「家を増築したんだけどね一年も経たないうちに元気過ぎるじじいがぽっくり逝っちちまったの、お狐様の祟りに違いないってみんな言ってるさ」

「それで五來さんは」


「わたしその爺さんの家だと知らなかったけど、あれはヤバイ、あんなにぞくっとした事なんて初めて」

「その爺の家だけどもうすぐ取り壊されるってよ、柱とか腐って危ないんだってさ、三十年程でガタが来るなんて普通じゃないわさ」

「じゃあお稲荷さんの後とか残っているかな」

「どうだろうねえ、そんなに立派なものじゃなかったから跡形もないかもねえ」


 私は神棚に向かって手を合わせる、この神棚には捨てられてあった手のひらサイズのお狐様がまつってあるのだ。

「あっミッション頂いた」

「ミッション?」

「何のことだい?」

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