第2話 だらしな嫁とゲーム
「あんたってゲームするの?」
「あんまりしないな。どうしたいきなり?」
「いや、なんとなく」
月が画面を見ながらそんなことを問いかけてきた。
「にしてもこのご時世、ゲームしないってなかなか珍しいような気がするんだけど」
「そんなもんかね」
「そんなもんだよ」
俺は首をかしげながら月の方を向き、その少し猫背気味の背中に問いかける。
「そういや、なんで月はそんなにゲームをするようになったんだ?」
「…暇だったからだよ」
「そんなもんかね」
「そんなもんだよ」
なんだか触れてはいけないところに触れてしまったようで、沈黙が流れる。俺はこれ以上踏み込まないことにし、話を逸らして続けることにする。
「まあ、子供の頃に友達の家に遊びに行った時くらいはやってたよ。」
「へぇ。どんなゲーム?」
「スマブラはやってたな。」
「定番だね」
「うん64で」
「64!?」
月がガバッとこちらを振り向く。その顔は驚愕のあまり口が大きく開かれていた。数秒彼女が固まったのち、「あっ!」という声と共に慌てて画面に目を戻す。だがその数秒の間に彼女の操作していたキャラクターは敵によって倒されてしまっていたようだ。
彼女は小さく肩を落としまたこちらに振り向いた。その目はじとーっという音が今にも聞こえてきそうな顔をしている。
「あんたのせいで負けたじゃない」
「さすがに言いがかり…いや、そうだな、すまん」
俺はその表情に素直に負けを認め、詫びを入れていくことにした。早めにこうしておけば、諍いは発生しないのだ。些細なプライドなどそこいらの狗にでも食わせておけ、というヤツだ。
「にしても64って」
「友達に歳の近い兄がいるやつがいてな、そうじゃなくても普通に世代だし」
「これがカルチャーショックというものか…」
「こっちの台詞だよな、それ」
「やっぱりオッサンじゃん」
「おっさ…いや待て、実際それはそうだが、そうなんだが、直接言われると結構凹むやつだぞ」
俺の心にグサリと何かが突き刺さったような錯覚を受けた。
気を取り直して、「今日は随分と言葉がストレートだな、何かあったのか?」と聞いてみる。
「そ、それは…」といきなり月が焦りだした。
もしかしてまた地雷でも踏んでしまったのかと思い、「あ、言いづらいことなら言わなくていいぞ」とフォローを入れておく。
「い、いや…そういうわけじゃないんだけど…」
「そ、そうなのか?」
「う、うん…」
彼女が目を逸らし、なかなか目が合わない。その頬には少し赤みがさしている。俺はそのまま彼女の顔をじっと見ながら、言葉を待った。
彼女はしばらくの間、こちらの顔をちらちらと伺うようにしていたが、やがて、そのままぽつりぽつりと話し出した。
「いや、わたしってほら…ありていに言って運動不足じゃん…?だからさ、なんかさすがに少しくらい運動した方がいいなぁ、ってさ、さすがに思うわけですよ。わけなんですよ。だから、最近流行ってるゲームしながら運動するやつやってみようかなって思ったんだけどね…?」
いったん彼女はここで話を切り、顔を下に向け、一つため息をつく。
「いや、絶対わたし長持ちしないだろうなって…。だ、だからさ、わたしがさぼらないように、さ、見張ってくれる人が欲しいわけなんだよ。というか、わたし一人だと絶対に投げ出しちゃうから、一緒にやってくれる人が欲しいなぁ、なんておもうわけなんですよ。…ってことで、一緒にどうかな…?って思って…」
俺は驚きのあまり口をポカンと開けてしまった。そして、「お、お前が運動…?大丈夫か、熱でもあるのか?」とまくしたてた。
「わ、わるい?」
「悪いってわけじゃないけど…いや、そうだな。やろう。ちゃんと付き合うよ。」
「そ、そっか…」
月は胸をほっと撫でおろし、言う。
「じゃあ、買って?」
「お前、本当の狙いはゲームを買わせることを常態化することか…?」
「ぎくり」
俺は苦笑をする。だが、月との距離が少し縮まったような気がしないでもないので、悪い気はあまりしないのであった。
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