だらしな嫁とのぐーたらいふ

てきーら

第1話 だらしな嫁と料理

「太った」

月がパソコンに眼を向けたまま突然言った。

「そうか」

「そうかってなにさ、そうかって」

「いや、お前のような女でも体重は気にするんだなって思って」

月はむっとした顔をする。

「確かにそういわれればそうなんだけど…」

俺は本から視線を離し、彼女の方をふり向いた。

「まぁ、そりゃあ滅多に外出もせず一日中パソコンでゲームしてりゃ、太って当然だろう」

月が何も返答をしなかったので、俺はまた本に視線を戻す。


 しばしの静寂の時間の後、背後から「ちっくしょー!なんだこのクソゲー!」という叫び声とともに、ゲーミングチェアから勢いよく立ち上がる音が聞こえたので、俺はそっちの方を向いた。

 やはり可愛い、とは思う。

 栗毛のセミロングヘアー(寝ぐせが少々見受けられる)に、小柄で細身の体型(当の本人は太ったと先ほど言っていたが)、ぱっちりとした二重の眼に(若干目の下にクマがある)長いまつげ(彼女は滅多に化粧もしないため、地だろう)、すらりと通った鼻と柔らかそうな唇。

 パーツは整っているが、その寝間着姿と相まって、どうもだらしのなさが全面から湧き出している。


 これが俺の嫁、月(るな)だ。

 3か月ほど前に親によってお見合いをさせられ、流れで籍を入れ、こうして今や一応夫婦ということにはなっている。

 だがこの嫁、筋金入りの引きこもりであった。

 俺の家に転がり込んできてまずしたことと言えば、実家からゲーミングPCやらごっついチェアなんかを運び込んできて、どかりと座り込んだと思えば、

「ネット、繋いで」

と仏頂面で言い放った。本当にいい神経をしている。

 俺もそれなりに稼いでいるし、パーソナルスペースに踏み入ってもこないので、特に不便もなく生活は行えているので、まぁいいかと俺は思っている。


「あんたが美味しすぎるご飯を作るから悪いんだよ」

 家事はと言えば、洗濯は自分ですることになっている(そこは気にするらしい)以外は、確かに俺が行っていた。

 凝り性の俺は、一人暮らしのうちにあらゆる家事スキルを身に付けていたし、日ごろからやりこんでいたので、やはり不便はなかったのである。

 炊事においても、一人分も二人分も大して作業は変わらないので(月は小食であった)、やはり俺が行っているのである。

「凄い言い草だな、おい」

 というか話まだ続いてたんだな、と俺は心の中で思った。

「何さ、あれ。反則じゃん。わたしにおかわりをさせるなんて。光栄に思いなよ?」

「なんでそんな上から目線なんだ…」

俺は一つため息をついた。そしてふと気になったので、

「そういや、月は料理、できるのか?」

と聞いてみた。

 月は目を横に流しながら、

「ま、まぁ一応…」

とぼそぼそと言った。

 なんだか意外に思った俺は

「へぇ、じゃあ作ってみてくれよ。なに作れるんだ?」

と聞いてみた。

 月はやはり目をそらしたまま、

「ちゃ、チャーハンとか…」

と言った。

「チャーハン。いいじゃないか。もうそろそろ昼飯にしようと思ったところだし、作ってみてくれないか?」

「っ…」

「ん?どうした月?」

月は観念したように、

「あぁぁ、もぉぉ。わかったよ!」

と息巻くように言った。


 「こっち見ないで!」とエプロン姿の月に言われてしまった俺はすごすごとリビングに戻って本を読んでいた。

 背後からたまに「うわっ!」「こんちくしょう!」「目がぁ!目がぁぁ!!」などと聞こえてきたが、大丈夫だろうか…。などと考えていること30分。

 月がこっちに歩いてきて、「で、できたよ…。」と俺を呼んだので、食卓の方へ向かうこととした。

 そこにあったのは、紛れもないチャーハンであった。

 玉ねぎが若干こげていたりはしていたが、そんなものは些細なことでしかない。

 俺は席に着き、「いただきます」と声に出してスプーンを手に取り、一口を含んだ。

 少し味が濃い気もしなくはないが、滅茶苦茶おいしい。

 月が「ど、どう…?」と不安げにこちらを見ているので、

「滅茶苦茶おいしいぞ、やればできるんだな、月。」と心の底から笑みを浮かべて褒めると、

「そ、そう…よかった…。」と月は安堵の表情を浮かべ、食卓に着いた。

 若干嬉しそうに見えるのは気のせいだと思う。


 食後に俺が洗い物をしていると、月が後ろから「どうしてあんなに作ってほしそうにしてたの?」とまじまじと聞いてきた。

 「うーん」と俺は少し悩んだあと、「やっぱり、女の人に料理を作ってもらうってのは男のロマンだし、俺も嬉しいと思うからな。」と言った。

 月は、少し苦笑いをした後、「そっか、そっかぁ。」と噛みしめるように言った。

「次食べさせる時にはもっと上達しておくから!」と言った後、「上手くなるまであんたが作ってよね!」と満面の笑みを浮かべた。

「はいはい」と俺は苦笑いを浮かべながら皿の水気をタオルで拭っていた。

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