第225話 波乱万丈の王位簒奪レース(14)

「ユウティーシア殿。それは、どういうことですかな?」


 商業ギルドの方が、椅子から立ち上がる。


「お話した通りのことです。現在のミトンの町は、衛星都市スメラギの総督府に座している代表者から一時的に離脱しているに過ぎません。それは私という抑止力があり尚且つ、麦などの物資供給などもアルドーラ公国が居るからこそ、町の運営が回っています。それは事実であることは、商工会議に参加して頂いている方々でしたらご存知のはずです」


 商店を取り纏めている長が、私の言葉を聞いた後、手を上げると「そんなに急がなくてもいいんじゃないのか?」と、意見を出してくる。


「たしかに、私がこの町に来てからスメラギと敵対して町を運営してからは、そんなに日にちは経過していません。性急かと思われるかも知れません。――ですが、諸外国を招くことになる王位簒奪レースですが、多くの国々から有力者が来る可能性があります。その際に、スメラギの領土の一部が他国と通じていて別の勢力の支配下にあると知ったら、さすがに海洋国家ルグニカも体面があるでしょうから何か手を打ってくる可能性も無いとは言えないのです」

「だが、それは可能性に過ぎないだろう?」


 建築ギルドの長が私の話に突っ込みを入れてくる。

 

「はい。たしかに、その可能性もありますが自分の領土に不穏分子が居るなんて他国に知られれば、それは海洋国家ルグニカの面子に関わります。そして、王族や貴族は面子や体面に拘る体質なのです」

「なるほど。それでユウティーシアは、どうするつもりなんだ?」


 横に座っていたレイルさんが私に問いかけてくる。

 

「まず王位簒奪レースの特性に注目してください」

「注目?」

「はい。海洋国家ルグニカは、元々は海賊が作った国です」

「それは全員が知っていることだが?」


 彼の言葉に頷きながら私は指を2本立てた。


「まず、王位簒奪レースに参加するための条件は船を持っていること。そして、参加の為の資金を出せること。この二つにあります」


 私は指を折り曲げながら説明をしていく。


 商業ギルドの長が「それは、そうだが……。資金は捻出できるかも知れないが船の確保は無理だぞ? 相手は王族だ。正規の軍艦を相手に出来るだけの船を造るなんてとてもじゃないが無理だ」と、 深い溜息をつきながら言葉を紡いでくる。


「そこは私に考えがあります」

「考え?」


 商業ギルドの長の言葉に私は頷きながら言葉を紡ぐ。


「はい。別に最初から沈めたら行けないという規約は無いですよね?」


 私の言葉に全員が「――え?」と、言う表情を向けてくる。

 どうやら、私が言った言葉を理解してくれなかったみたい。


「ですから、王位簒奪レースの規約にゴールに到着した順序で王位や領主が決まるという取り決まりはありましたけど、別に最初から相手の船を攻撃して沈めたら行けないという規約はないですよね?」

「ま、待ってくれ! そ、それは、あれか? 王位簒奪レースが始まった直後に攻撃を仕掛けて相手の船を全て撃沈して抵抗が無くなったあと、我々の乗る船がゴールするということか?」

「はい」

「ユウティーシア殿、それは……誰がするので?」

「もちろん私がします。たぶん、楽しみにしている方や諸外国から悪く言われる可能性がありますが、商工会議のメンバー全員で参加しておけば、問題ないと思いますので」

「ユウティーシアは、それでいいのか? 一応、国を挙げての一大イベントだぞ? そういう方法を使えばルグニカだけではなくミトンの町にも居づらくなると思うぞ?」


 レイルさんが、心配そうな表情で私に語りかけてきてくれたけど、私としては、この方法が一番自然に町を出ていく方法だと思ったから提案したに過ぎない。

 それに私が要ることで誰かが病に苦しむのは見たくないし。


「はい。商工会議の方が国を治めるのでしたら、少なくとも長年利権に浸かってきた貴族や王族などよりも、いいと思います」

「だが……、我々は商人や各ギルドの長の集まりだぞ? レイル殿も国を治めるまでは、とても……」


 鍛冶師ギルドの長が意見を出してきてくれる。


「分かっています。その事に関しましては解決案を考えています。私としては衛星都市エルノの総督府に居られるカベル海将様に打診して国を回す手助けをして頂ければと思っています」

「それは、カベル海将様へ話をしてあるのか?」

「いいえ」


 レイルさんの言葉に否定しながら頭を振る。

 正直、私としてはカベル海将にいい感情は抱いては居ないけど、彼が民衆を思っていることは、エルノの町に行った時に痛いほど伝わってきた。

 彼だって私の力がどれだけのモノなのか理解できない人ではないだろう。

 それでも、私に町から出ていくように言ったのは、きっと彼にとって民は守るための大事なものだから。


「きっと、説明して頂ければ理解してもらえると思います。少なくとも奴隷制度がある現在の海洋国家ルグニカを変えようと思っているのなら力を貸してくれるはずです」

「皆様もどうですか?」


 私の提案に全員が複雑な表情を浮かべていた。

 それでも根気よく説明して、全員に納得してもらった時にはすでに日が沈みかけていた。

  



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