第208話 否定されし存在(12)

 カベル海将から依頼を受けた冒険者ギルドマスターのグランカスさんは、すぐにキッカさんがオーナーをする酒場から出ていった。

 私とカベル海将は、グランカスさんの後ろ姿を見送ったあと、そのまま席に座ることなく外へと出る。


「すぐに行動していいんでしょうか?」

「本当はすぐに行動を移さなくてもよかったんだが……、患者の受け入れる場所がない以上、まずは受け入れる体制を整えないといけないからな。本当は、総督府で受け入れをしたかったが――」


 歩きながらでも、器用に横目でカベル海将は私のほうへと視線を向けてきた。


「……」


 彼の視線に私は苦笑いを返すことしかできない。

 まるで私が総督府を吹き飛ばしたから、余計な手間を増やしたと言わんばかりの対応。

 事実だけど……事実だけど!

 もう起きてしまったことは仕方ないじゃない。




 歩いて10分ほどの場所。

 そこは見たことのある場所で……。


「ラーブ・ホテル……」

「ああ、ここなら部屋数もあるからな。受け入れ場所としては最適だろう?」

「たしかに……」


 彼の言葉に私は頷く。

 感染経路が分かっていない以上、2次感染・3次感染を考えるなら少しでも患者同士の距離を空けておくのがいい。


 原始的な技術と文明力しか持っていないと思っていたけど、理論立てて動いているのが随時に見られる。

 たぶん、知識ではなく経験から生じた結論から導きだしていると思うけど、それでも賞賛に値するものだ。

 

「ユウティーシア様!」


 カベル海将と会話をしているとアクアリードさんが私の名前を叫びながら走って近づいてきた。


「どうかしましたか?」


 息を切らせている彼女に語りかける。


「ミトンの冒険者ギルドから、エルノの冒険者ギルド宛に早馬が来たのです」

「早馬ですか?」


 アクアリードさんの言葉に私は首を傾げながらも言葉を紡ぐ。


「はい、レイルという方から大至急ユウティーシア様へ報告したいことがあると……」

「私に……ですか?」


 私への大至急の報告。

 それは、とても重要なことだと思う。

 もしかしたら総督府スメラギが何か行動を起こしたのではないのか? と、いやな予感が一瞬脳裏を掠めてしまった。

  

 アクアリードさんから受け取った手紙に目を通していく。

 そこに書かれていたのは私が出立してから数日して、病から回復した人間が現れたことが書かれていて、それは吉報であった。


「よかった……」


 どうやらカベル海将に頼らなくても事態は収集しそう。

 私が安堵の溜息をついていると、後ろから軽く方を叩かれた。


「ユウティーシア嬢、ホテルのオーナーから許可は得た。すぐに……ん?」


 カベル海将は、アクアリードさんを見て「冒険者ギルドの人間だな? グランカスに受け入れはすぐに出来るからと伝えてくれ」と命令をしていた。

 さすがに総督府の長の命令。

 すぐにアクアリードさんは、元来た道を戻っていった。


「それにしても、どうして冒険者ギルドの人間が……」

「――あ、それは……」


 私は手紙をカベル海将に見せると彼は眉間に皺を寄せから私に手紙を返してきた。


「まだ不確定だから何ともいえないな。まずは患者の容態を確認しないとな」

「そうですね」


 カベル海将の言葉に私は頷いた。

 



 この世界には病院という視線がリースノット王国以外には存在していない。

 リースノット王国に存在する病院だって資金は私から出ていた。

 たぶん、私が国から出たあとでも維持のためにウラヌス公爵が、何とかしてくれていると思う。


「ふむ……」


 ラーブ・ホテルの支配人に許可を得て、患者の受け入れが整ったところでエルノの町の住人が運ばれてきた。

 その、どれもが60歳以上の方か10歳以下の若い子供たちであった。

 私は、カベル海将の付き添いというか看護師というか看護婦の立場になって診察の手伝いをしていて気がついた。

 昏睡している人には青年というか若者が存在しないのだ。


「原因に一つ心辺りがあるのだが……」


 カベル海将は、10人以上の患者の容態を見たあと私を見て呟いてきた。



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