第164話 出張手当はつきますか?(2)

 商工会議のメンバーが全員立ち去ったあと、私は「疲れたー」とテーブルの上に寝そべっていた。

 正直、私を通さないで町の運営を言い合うのは楽でいいけど――。

 そこには、利益分配という物も存在するわけで……


「――会議は踊る、されど進まずってやつですね……」

「何だ、それは?」


 私の隣に座っているレイルさんが書類を纏めながら、私に突っ込みを入れてきた。

 

「なんだか、レイルさん。事務職が板についてきましたよね……」

「どこかの誰かさんが政策だけ提案して放り投げるからな、各方面の手配が大変なんだよ」

「――あ、はい……」


 何も言い返せないです!

 

 だって仕方ないじゃないですか……。

 公爵家令嬢として生まれてきて、王族や貴族としての知識や立ち振る舞いは教えてもらったけど、一般市民の中に入り込んでの営業というか調整とか、未知の領域ですし……。


 ――で、でも!

 一言だけ言うなら!

 

「でも、私が交渉するって言ったらレイルさんが止めたじゃないですか……」

「お前……交渉相手にファイアーボールをぶちかましていただろ?」

「……それは、私の胸をわざと触ってきたわけですし……それに、お店が半分吹き飛んだだけで、誰も怪我人はでなかったわけですし……」

 

 私の言葉に、レイルさんが大きく溜息をつく。


「一応、お前は小麦の女神って事になっているんだぞ? 暴力沙汰なんて、もってのほかだ!」

「それはそれ! これはこれです! 天罰……いいえ、神罰という形にすれば――」

「なんでも神罰を使っているほうが問題だ!」

「あ、はい……」


 私は部屋の片隅に移動して、体育座りしながら頷く。

 そんな私を見て、「もういい」と言ってレイルさんは片付けを続行。


 ――やれやれですね。

 怒ってばかりでは皺が寄ると言うのに……。


「何か言ったか?」


 レイルさんの言葉に私は頭を振る。

 本当に、エスパーか何かなのかな?

 



 ――ミトンの町

 代官が一時的に間借りしていた建物。

 現在では、商工会議が利用している。

 そして、そんな部屋の一室。

 

「おい、仕事しろよ!」


 レイルさんが書類を手に持って部屋に入ってくる。

 そして、机の上でぐたーと休んでいた私に仕事をしろと言ってくる。


「もういやです! 8時間を越えました! 一日8時間までしか仕事したくないです!」

「お前、俺なんて2日間も寝てないんだぞ!」

「それは、レイルさんが仕事の効率を考えずに仕事をしているからですね!」


 まったく、自分が仕事が出来ないことをすぐに人のせいにするんだから!

 これだから、いい大人してだめだって言われるんです。

 やれやれ、少しは私を見習ってほしい物ですね。


「ほう? お前が本来やるはずだった難民受け入れのための書類対応を全部行うと?」

「……レイルさん! 今日もかっこいいですね!」


 難民というか、移住選別のための書類対応などが1000枚以上。

 それを全てレイルさんに任せてあるおかげで彼は殆ど寝てないらしいです。


 男女平等という言葉を使う気はない。


 じつは、まだ16歳になってない私は、夜とか深夜に起きてるのがとても辛い。

 きちんと寝ないと睡眠不足で大事な書類を書いてる途中に、寝ぼけてウネウネ文字になってしまう。

 そうするとレイルさんだけではなく商工会議の代表者たちも怒ったりするのだ・


 ――と、いう言い訳をしておいて仕事を殆どレイルさんにお願いしている。


「私、思ったんですけど……」

「なんだ? 馬鹿なことを思いついたなら、怒るぞ?」


 私が同じ部屋で仕事をしているレイルさんに向けて、眠気覚ましに話すと辛辣な言葉が飛んできた。

 最近のレイルさんは、どんどん私に対しての遠慮が無くなってきてる気がする。

 

 何というか、私にやさしくないというか……。

 コイツは馬鹿だから、また何か起こしそうだぜ! ヤレヤレと言ったような目で私を見てきたり対応してきたりする。

 

 そんな感じがするけど、気のせいだよね?

 

 一応、私とか、そこそこ尊敬されてるよね?

 一応、可愛いし!

 

 普通に、男の人が道端であったら100人が100人とも振り返るくらいの容姿だと自負したり自画自賛したりしてるし!


「――ん? これは……」


 レイルさんが、書類を整理していると茶色い封筒に入った紙を手に持ってきて差し出してきた。


「ユウティーシア宛に届いている」

「私宛に?」


 手紙には差出人の名前が書いてない。

 

「空けてみないとなんともいえないですね」

「そうだな……」


 レイルさんも、私の言葉に頷いてくる。

 私は、ペーパーナイフを使って慎重に手紙を切り中に入っている手紙を手にとり目を通した。


「何て書いてあるんだ?」

「エルノにある冒険者ギルドからの要請というか依頼みたいです」

「衛星都市エルノか? 態々離れた場所からの要請というのが解せないな」


 レイルさんの言葉に私は頷いた。



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