第113話 商工会議を設立しましょう!(3)リースノット国王side

「ふう……今日も何事もなくすぎたな……」


 私は、一人呟きながら椅子から立ち上がる。

 そして室内――リースノット王国の王城の執務室からバルコニーに出て右へ視線を向けた後に私は額に手を当てた。

 何度みても慣れない……2000年以上も歴史がある事が唯一の自慢であった王城が綺麗に3割ほど吹き飛んでいる事に。


 私は、少しだけ涙腺が緩くなったのを感じながらウラヌス卿が提出してきた資料に目を通す。

 そこには、【ユウティーシア発見器】と書かれた図面が書かれている。

 もちろん、それを作ったのは我が息子クラウスである。


 私はさらに、涙腺が緩くなるのを感じる。

 どうしてエイルといい、クラウスといい私の息子は問題しか起さないのだろうか……。


 しかも極めつけにはユウティーシア公爵令嬢に至っては城まで吹き飛ばす始末。


 あれか? あれなのか? 私の代の王は何かに呪われているのか? と思わずにはいられない。

 ただ、ユウティーシア・フォン・シュトロハイム公爵令嬢に至っては、福祉・教育・研究・開発とかなりの才覚を見せており捨てるには惜しいし、膨大な魔力を持っていることから王族として迎え入れて次世代の王を産んでもらいたい。

 それがリースノット王国の繁栄に繋がるのだから。

 それにしても……だ。


「はぁー……クラウスの馬鹿が浮気などしていなければ、こんなややこしい事態に発展する事なぞなかったものを……とにかく、しばらくはエイルの事もあったことだ。ユウティーシア嬢には後日、何とか王族の血筋を引く者と婚姻して貰えないか頼むしかないだろうな」


 私は一人呟きながらも考える。

 最悪の事態としては、ユウティーシア公爵令嬢が他国に亡命した場合だ。

 一人国軍並みの戦闘力を誇るユウティーシア公爵令嬢が他国へ移動し、リースノット王国に戦争を仕掛けてきたら善戦することすら出来ず国ごと消し飛ぶ。

 それは、何としてでも避けなければならない。


「とりあえずだ……」


 私は、執務室に戻ると椅子に座り3週間近くはユウティーシア公爵令嬢が公爵家の別宅で休暇に近い休みを取る書類に目を通して、しばらくは、リースノット王国も安全だろうと一息つく。


 本当に今日も一日平和に過ごせたな。

 私がそう思っていると。


 執務室の扉が力いっぱい開かれる。

 私はその様子を見て溜息をつく。

 また、何か問題が起きたようだ。


「どうした? 何か問題でも発生したのか?」


 だが、私はリースノット王国を束ねる国王。

 臣下の前では弱みを見せることは許されず常に冷静でいる事が求められる。

 目の前の近衛兵が敬礼をした後。


「ユウティーシア公爵令嬢が船に乗った後に、船が沈没し行方不明になったと報告が入って参りました!」

「なんだとおおおおおおおおおおお」


 私は思わず声を荒げてしまう。

 船に乗っているということもそうだが、沈没して尚且つ行方不明になるとは。


「どういうことだ? どうしてシュトロハイム公爵令嬢が船に乗っていたのだ?」

「ハッ! 諜報員が調べた情報によると、貴族学院の学院長の手引きにより身分証明書を偽造。名前をティア・フラットとした後、海洋国家ルグニカへと船で向かい、嵐に会い船は沈没し行方不明になったということです」


 私は、体中から力が抜ける。

 リースノット王国の今の経済力、国力、軍事力の9割は白色魔宝石により支えられており数年は、ユウティーシア公爵令嬢が作り置きしておいた白色魔宝石で国の経済を支える事が出来るが、それが過ぎれば一気に国の経営が傾いてしまう。

 産業の移行もまだ10年単位でかかる。

 白色魔宝石を経済基盤に置かない国の運営を模索していた所だけに、ユウティーシア公爵令嬢が行方不明になったのは大事件。


 その時、手に持っていたクラウスが設計した【ユウティーシア発見器】が目に入る。

 あまりにも馬鹿らしくあほらしいと一蹴してしまったクラウスの設計図だが、今はこれに頼るしかない。


「すぐに、魔法研究所にいるクラウスを連れてくるように手配してくれ」

「ハ……ハッ! すぐに手配いたします!」


 近衛兵は、一礼した後すぐに部屋から出ていく。

 それから、すぐにクラウスが執務室に現れた。

 私は、あまり様子が変わってないクラウスに少しだけ安堵し。


「クラウス、ひさしいな」

「はい。国王陛下も壮健で何よりです」


 私は、クラウスを見ながら少しだけ分別がついたのか? と思ったが【ユウティーシア発見器】などを設計している時点でやはり駄目だなと自身を窘めた。


「うむ、それでクラウス――お前に聞きたい内容は、ウラヌス卿から提出された【ユウティーシア発見器】なのだ」


 私の言葉を聞いたクラウスは目を光らせると。


「さすがは国王陛下! 分かってくれましたか! それはティアが魔法を使った際に、その魔法の特性を設計図に書かれている魔法陣が白色魔宝石を通して方角を示す画期的方法を取っておりまして――プラウスマ理論とリンドルド理論を応用したサブリナル効果と新理論であるアウタラー効果を併用する事で――」


 クラウスが、饒舌に話しを始めて身ぶり手ぶりと、どれだけ【ユウティーシア発見器】が素晴らしい物かと言う事を語っている。

 「もういいから!」と、言う言葉を何度も言ったがクラウスの説明は止まらない。

 私は、その様子を見て思った。

 魔法研究所――ウラヌス卿にクラウスを預けたのは失敗だったなと。


「と! 言う訳なのです。どうでしょうか? 【ユウティーシア発見器】が、どれだけ素晴らしいか理解頂けましたでしょうか?」


 どうやら、ようやく話しが終わったようだ。

 執務室のバルコニーから外を見るとすでに日が昇りかけているではないか。

 一体、何時間……理論を聞かされたのだろうか。

 

 正直に言えばもう寝たいが、そうもいかない。


「だいたいの事は理解した」

「だいたい?」


 クラウスが私の「だいたい」と、言う部分に反応し説明を始めようとした。


「いや、もう完璧に理解したから大丈夫だ」

「さすがは国王陛下。ウラヌス卿に説明しましたら中々、御理解頂けず3日ほど御理解に時間がかかりました。最後には、このような大事な物は国王陛下にと言われ研究所を出て行かれたのです」

「なるほど……」


 あとでウラヌス卿が来たら問いつめるとするか。


「それで、シュトロハイム公爵令嬢が魔法を使えば、計器に反応する。それでよいのだな?」

「ハッ!」

「よし! ならばすぐに【ユウティーシア発見器】を作るのだ!」

「わかりました!」

 

 私の命令にクラウスはすぐに部屋から出ていく。

 その後ろ姿を見送ったあと、私は椅子に深く座る。

 もう、疲れた。

 しばらくはゆっくりと休みたい。

 

 とりあえずは、ユウティーシア公爵令嬢を見つけ次第、裏から援助をして信頼度を上げる事に邁進するとしよう。 

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