第77話 狙われたユウティーシア(sideエイル王子)

 私の名前は、エイル・ド・リースノット。

 リースノット王国第二王子にして第二王位継承権を持つ王子、お母様は亡くなられた前妻の後妻という形で王家の体裁を保つ為だけに、嫁がされた。

 嫁がされたと言っても困窮に喘いでいた男爵家からしたら、かなりの支度金が支払われた事もあり悪い条件ではなかったとお母様は言っていた。

 ただ我慢ならない事があった。

 それは。魔法師のとしての才能がまったく無い無能な王族クラウスが私を差し置いて第一王位継承権を持っている事であった。

 私は、母方が優秀な魔法師を迎え入れていた事もあり才能を受け継いだのかは知らないが魔法師としての才能があった。


 しばらくして、私はクラウスの事を、王維継承権を持っている無能だと自尊心を満たすために心の内側で中傷していた。

 そしていつか、私が王になると――そして王になりこの弱小国を強国にすると。

 強国にすれば、お母様のように恵まれない婚姻をする事もなくなると。

 そういう人間を減らせると。

 だが、そんな思いも突然の出来事で消えた。

 ある日、いつものようにお母様を診まわった後にクラウスが子犬と遊んでいるのを見て、その幸せそうな様子を見て苛立った私は思った。

 どうして、何も持たない無能が笑っていられるのかと。

 私は、魔法の才能があるのにどうして――こんなにいつも辛い思いをするのかと。

 どうして何の才能も無いのに皆がお前に媚びへつらうのかと。

 苛立ちが募った私は、クラウスが犬から離れた瞬間、【ウィンドカッター】の魔法で子犬の体を切り裂いた。

 血しぶきが庭園の中を汚していく。

 私はその様子を見て、自分の手が震えている事に気がついた。

 そして私の視線の先で子犬を抱きしめて泣いてるクラウスを見て思った。

 魔法で相手を従属させるのは何て素晴らしいのかと。

 でも、私の愉悦はそこまでだった。


 庭園に一人の少女が姿を現してクラウスに何かを渡しているではないか。

 私はジッと様子を眺めていると少女と何事か話したと思うと、魔法をロクに使う事ができなかったクラウスが突然、魔法を使った。

 その魔力量は上級魔法師すら超えるほどの力。


「いったい……何が……」


 私は一人呟きながらも目の前の出来ごとを理解するごとに信じられないという思いが胸中に沸き上がってくる。

 私が魔法で傷つけた子犬の傷が完治していた。

 

「バ、馬鹿な?」 

 

 私は窓枠から身を乗り出した。

 そして、魔法師は魔法師の存在を認識する。

 ご多分に漏れず、クラウスの魔法師としての魔力量は中級魔法師クラスであった私を遥かに超えて上級魔法師をも超えてるように感じた。

 一体何が……。


「くそっ!?」


 私は、上級魔法師が発動する回復魔法の光を見て集まってくる王の家臣を見て溜息をつきながらその場を後にした。

 そして、調べた結果――クラウスが少女より渡された魔法石は、魔力量を急激に引き上げる力を持っているらしい。

 それから数年して、私は王族の血筋を引いてるからという理由で白色魔宝石を使う機会を得られた。

 クラウスが特級魔法師ならば、元からの才能がある私ならさらなる高みを望めるのかもしれない。

 私は期待を胸に、白色魔宝石を使ったが上級魔法師になれるだけで他に効能はなかった。

 

 これでは国を強くするどころか、クラウスに勝つ事すら出来ない。


「どうしてだ。どうして……」


 納得できない。

 それでも現実は非情であった。

 そして、クラウスの婚約者が白色魔宝石を作った人物だと言う事を私はようやくつきとめた。

 白色魔宝石、人間の最大魔力容量を人為的に引き上げる石だ。

 それを作る事が出来る人物とクラウスは婚約者として迎え入れようとしている。

 そんな人間がクラウスの傍についたら私が国王になれる可能性が無くなってしまう。


 だが、クラウスの魔力量は私より上だった。

 そして座学では私と同格。

 魔法の打ちあいになれば勝つ事は不可能だろう。


「くそっ……どうしてクラウスなんてゴミに私の夢が……「お力を貸しましょうか?」……誰だ!?」


 私は自室で自問自答していた所で声をかけられた事で椅子から立ち上がると声がした方へ視線を向ける。

 するとそこには女物の淡い緑色のローブを着た人間が立っていた。


「初めまして、私の名前はスピカ。在る方に使えている従属神になります」

「従属神? 馬鹿らしい」


 私は女に対して返答を返しながらも女がどうやって王宮内のしかも王位継承権を持つ王子の部屋に入ってこられたのか不思議で堪らなかった。

 少なくとも4人の近衛兵を突破しないと入ってこられないはず。

 それなのに、私に気がつかれずに入ってこられた事に私は驚いていた。


「まぁ、細かいことは省きましょう。エイル王子、あなたはこの国を手に入れたい。そのためにはユウティーシア公爵令嬢がほしい。それで間違いはありませんね?」

「何を……言って……」

「取り繕う必要はありません。こちらも協力は惜しみませんので――そうですね、協力の証としてクラウス王子とユウティーシア公爵令嬢の婚約を破談させてみせましょう。それならご納得いただけると思いますので。そしたら信用頂けませんか?」

「……」


 私は無言のまま頷く。

 いや、頷かされた。

 そして――数年後、クラウスとユウティーシア公爵令嬢との婚約破談は成った。

 私はその様子を聞いた時、信じられない思いと同時にうすら寒い思いを抱いた。

 兵士が私に事の顛末を伝えた後に部屋から出ていくと同時にスピカは姿を現した。


「おひさしぶりです。エイル王子、今度はエイル王太子と言った方がいいでしょうか?」


 私はスピカの前ぶりの長い話に眉元をよせながら口を開く。 


「一体どうやって……婚約破談させ……いや、アンネローゼはお前達の仲間だったのか?」

 

 すでに俺の手の者が婚約破談の原因はアンネローゼとの仲が原因だったと真相を掴んでいる。

 ただ、問題なのが近衛兵に捕まってからのアンネローゼにクラウスとの逢瀬の間の記憶が無い事だ。

 つまり、こいつらは何らかの魔法を使って暗躍していた事になる。

 だが、こいつらは使える。

 人の記憶に干渉できるなら、上手く利用すれば国王を殺して私が王となる事も可能だ。

 ただ、裏切られるのは面倒だが……私なら上手く利用できるはず。

 あの無能のクラウスとは違い俺は有能だからな。


「お前達の事は信じよう。だが、私を裏切ったら許さないぞ?」

「そんな愚かな事はしません」


 私の言葉に即答してきたスピカをまっすぐに見ながら話を続ける


「分かった。それでユウティーシア公爵令嬢は私にくれるんだろうな?」

「はい、もちろんです。ただ――」

「ただ?」


 私は首を傾げながら質問を返す。

 するとスピカは面白そうに笑いながら。


「ユウティーシア公爵令嬢を殺してください。使い魔にすれば年は取りませんしそれでも十分、石は作れますから」


 私はスピカの言葉を聞いて絶句したが、その言葉にも一理あると思い頷いた。

 遠くから見た限り、あれだけの美貌だ。

 私の妃として利用できるなら十分有用できるだろう。



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