第75話 夢と苦悩と

 シュトロハイム公爵邸の別館で私が襲撃を受けてからすでに3日が経過していた。

 私の部屋には、魔法陣が描かれていたらしく、それは遠距離移動系の魔法陣だったみたい。

 でも私が部屋を留守にしていたのは1時間程度だと思うし、その間に部屋に誰かが立ち入って書く事も難しいと思う。

 仮に使用人の人が魔法陣を書こうにも上級魔法師以上の魔法力を魔法陣に含ませておかないと発動はしないらしい。

 上級魔法師は、現在のリースノット王国での3大公爵家か王族に連なる血統くらいにしかいない。

 それに、魔法陣にそんな大規模な魔法を込めようとすれば魔法師ならおかしいと思うらしい。

 だから容疑者は判明していない。

 実行犯であるアンネローゼの父親は、クラウス殿下が騎士団に引き渡したらしいけど、共犯者は女性としか分からないらしい。

 


そして私と言えば……私は、別館ではなく本館の自分が育った部屋で一人膝を抱えたまま蹲っていた。

 最近は、眠れずにいた。

 おかげで、ずっと寝不足のまま。

 食事も両親や妹と取らず部屋でスープとパンだけ口にしていた。


「共犯者は女性……つまりは、魔法陣を描いてアンネローゼの父親を刺客にして私を暗殺しようとしてきたのは、シュトロハイム公爵家に自由に出入りが出来て高い魔力量を持っている魔法師……」


 私は一人呟きながらも自分の頭の中で容疑者を考えていくけど、思い当たる容疑者は思い浮かばない。

 私は、溜息をつきながらベッドの上で横になる。

 何もやる気が起きない。

 でも、何かをしたいという気持ちも起きない。

 

 私は、ベッドの上で横になりながら思い出す。

 クラウス殿下が使ったのは逆転移魔法と呼ばれる物で、使い魔は自分が守る対象が危険にあり守りきれないと判断した時に、自分の存在力を消費して使い魔の主を召喚する物らしかった。

 つまり私はずっと、守っているつもりが守られていたと言う事になる。

 どこまで滑稽なのか……本当に情けない。

 それなのに、今でも私は一人、部屋に篭ってこの3日間ただ無作為に時間を浪費してばかり。

 私がする事と言ったら――。

 アンネローゼの父親を殺害するくらいしか思い浮かばない。

 私は、そんな事を無意識に考えていた自分に対して頭を振る事で、悪い考えを頭の中から追い出す。

 騎士団にもう引き渡されたのだ。

 今更、私が王国法で裁くのを待つ人間を感情に身を委ねて殺すわけにはいかない。

 そんな事をすれば王国法を犯した事になってしまう。


 そんな事をしたら、法を破るような事をすれば、それこそ問題になる。

 だから――。


「ばれなければ……犯罪ではない?」

 

 いやいや……絶対バレるから。

 そんなの法を守らない時点で正当性を失ってしまうから。

 私は、ベッドの上で横になりながらいつもどおりの自問自答を繰り返しながら目を閉じた。


 ――私は一人、誰もいない世界でシュトロハイム公爵家の別館を歩いていた。


「ここは……? 夢の中?」


 なんとなく自分が今居る場所が夢の中だと理解できてしまった。

 私は通路を歩きながら自分の部屋に入る。

 すると、そこには部屋の床に絵を書いている女物のローブを着ている女性が居た。

 女性は私が部屋に入ってくるのに気がつくと顔を上げてきたけどローブで顔を見る事はできない。

 そして女性は――。

 

「あら? もう時間なの?」


 と、夢の中だと言うのに女性は私を認識しているのか話しかけてくる。

 

「初めまして、草薙雄哉の記憶を持つ者。貴女が自分の課せられた使命を果たす事を忘れているから、教えに来てあげたわ。私達のメッセージは届いたかしら? はやく持って来なさい、貴女の中にある物を――そうしないと回りの人はもっと不幸になるわよ?」

「不幸に?」


 私には女性が何を言っているのか理解が出来なかった。

 でも、目の前の女性からは聞いた事があるような声が聞こえてくる。


「そう、不幸になるわよ? 今回は精霊化した犬だったけどね。今度は貴女の両親? 家族? それとも――私が死んでしまうかもね!!」


 ローブを剥ぎって見せてきた女性は、アリシア……妹であった。


「はぁはぁはぁ……」


 私は、ベッドから起き上がる。

 息が上がっていた。

 先ほどまで夢の中で見ていた光景が、記憶に鮮明に焼きつけられている。

 額を拭うと驚くほど、冷たい汗に私は身震いした。

 この3日間、ずっと同じ夢ばかり繰り返して見ている。

 私が家族と一緒に食事をしないのも――。

 一人考えごとをしていると部屋の扉が数度叩かれた。

 そして――。


「お姉ちゃん、今日は食事に来られるの?」


 毎日のようにアリシアが私を心配して様子を見にくるけど、私にとってはそれは苦痛でしかなかった。

 だからいつものように。


「大丈夫よ、でも一人で食事を摂りたいからアリシアもお父様とお母様と一緒に食事をとりなさい」


 私はいつものように、アリシアを遠ざけるように言い含めるように伝える。

 すると、いつもは立ち去っていく妹がドアノブを回して中に入ってきようとした。

 

「お姉ちゃん……大丈夫?」


 心配して部屋に入ってきた妹に対して私は枕を投げついた。

 そして。


「入ってこないでって言ってるでしょう! どうして言う事が聞けないの!」


 私は言いきった後に、ハッとして妹を見ると妹はキョトンとした顔をした後、涙目になって謝って部屋から出ていってしまった。

 そんな後ろ姿を見ながら――。

 

「私は最低だ」


 妹は悪くないのに、私は自分の不注意からルアちゃんを亡くして、その怒りの矛先を妹に向けてしまい八つ当たりしてしまった。

 私はなんて最低な人間なんだろうか……。

 


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