第四章 リースノット王国 離脱編

第61話 15歳になっても私の日常に大差はないのです

 私の朝は早い。

 特に今日はリースノット王国の王城へ行かないといけないから。


 日が昇るのを感じて私はベッドから這い出る。

 まだ一月と言う事もあり、リースノット王国は盆地でもある事から寒い。


 そしてベッドから出ると一緒にベッドに入っていた白い子犬が後ろからついてくる。

 姿見の前に座ると子犬は私の膝の上に乗ってきて小さな寝息を立てながら寝てしまう。


 私が子犬を撫でていると、女子寮に住みこみで働いている? ブラウニーさん達が、腰まで伸びている黒髪をブラシで撫でるように整えてくれた後に、一部を三つ編みにしていく。

 私はそれを見ながら欠伸をした後に、クラウス様から譲り受けた白い子犬を撫でる。

 何故か、この子犬はクラウス様よりも私に懐いているようで、クラウス様が来ても私から離れない。


 ――とっても不思議。


 私が、呆けている間に髪のセットが終わったみたい。

 黒い髪の毛は太陽の光を反射して天使の輪のように光っている。


 そして、最後にブラウニーさんが、私の髪に花の形をしたコサージュをつける。


 次に女性用の下着を穿いていく。

 まったく躊躇なくなったあたり私も、この体と、この世界に順応した気がする。


 そのあとは、リースノット王城へ行くためのドレスをブラウニーさん達に手伝ってもらいながら着ていく。

 

 10歳の頃は、上から下までスカスカだった私の全面まな板体系は、わずか5年の間に大きく成長していて胸がすごく大きくなってしまった。

 しかも腰も細くお尻は大きく、簡単に言えばとても女性的で魅力的な体型になってしまって、すごく憂鬱。


 体が女性として成長するにつれ、周りの男達からやたらと見られるようになったのはとても困ってしまう。

 もうすぐ……あと数カ月で成人と卒業と言う事もあり、実家のシュトロハイム公爵家からは、クラウス様といつ結婚するんだ? という話が来たりしている。


 リースノット王国のグルガード国王陛下とは、婚約はなかった事と言う事で通達は頂いているけど、お父様とお母様がすごくクラウス様の事を褒めていたから、面と向かって婚約破棄になりましたとは言えなかった。

 グルガード国王陛下から言ってもらおうと思ったけど、そうすると色々と言われそうだしと思いお父様とお母様には婚約破棄になりましたと言う事は保留にしていた。


 そして、明日こそは言うよ! と思いながら……。


 ずるずると4年以上経過してしまった。

 あと3カ月で貴族学院を卒業になるのに私は自分の優柔不断な所がすごく困っている。


 リースノット王城へ登城するためのドレスを着終わった後は、姿見の前で身だしなみをチェックしてから――。


「ブラウニーさん。妖精さん達に御食事の時間だと伝えて来てくださいね」


 私は、髪の毛を整えてくれたブラウニーさんにお願いする。

 もちろん、その際に微量の良質な魔力を心付けとして渡す事も忘れない。

 誰しも心付けには弱いものなのだ。


 すぐにブラウニーさん達は壁をすり抜けて廊下へ飛んでいく。

 私は、その様子を見ながら思う。


 壁をすり抜けできる妖精って幽霊とどう違うんだろう? と……。


 部屋内で素足だった私は、スリッパに履き替えて部屋から出る。

 妖精さん達がいるこの女子寮は、私がグルガード国王陛下と取引をして婚約破棄の話をしてからずいぶんと勝手が変わった。


 まず寮内では原則として上履き、スリッパの着用を義務づけた。

 ローファー。つまり靴を履いたまま寮内を歩かれると、寮内がすぐに汚くなってしまう。

 すると、掃除をする妖精さん達が頑張ったから魔力を! 魔力をください! と、ボーナス支給を求めてきて大変面倒であった。


 そういう大人の事情もあって土足厳禁にした。


 私が玄関まで歩いていくとすでに妖精さん達が集まっていて――。


「あれ? また増えてない?」


 主に、ブラウニーさん達が20匹くらい増えている気がする。

 手のひらサイズのブラウニーさん達と言えど、度重なる増殖により1000匹近くになると、玄関ホールは広いといっても手狭に感じてしまう。


「これは、そろそろ解雇通知を出さないとダメでしょうか? とくにブラウニーさんとかブラウニーさんとか……」


 かなり本気気味に言うと、ブラウニーさん達は絶望的な真っ青な顔をして私を見てきた。

 そして体中に纏わりついてきて、「ご主人様! 解雇は! 解雇は止めてください!」と必死に懇願してくる。


 私も鬼ではないので――。


「仕方ないですね。寮の周辺の草むしりも追加でしてくれるなら解雇通知はしません」


 ――と、さりげなく呟く。

 するとブラウニーさん達は一斉に頷いてくれる。

 どうやら商談は、上手くいったようでよかったです。 

 そしてブラウニーさん達は、私から魔力をもらうと一斉に寮の外に出ていく。

 朝から、必死な顔をして仕事に励むブラウニーさんは、労働者の鏡ですね!


 そんな私とブラウニーさんを呆れた顔をしてケットシ―とケルピーは見ている。

 まったく、なんか私がブラック企業の社長みたいな感じで見てくるのはやめてほしいですね。


 2匹にも賄賂として多めの良質な魔力を渡す。

 すると2匹とも何も言わずに、そのままホールで蹲って番犬の役割を始めた。

 でも、二人とも猫と馬だから。

 番猫と番馬でしょうか?


 よくわかりませんね。


 そして数年前から移り住んできている、白い髪と赤い瞳を持つインプと呼ばれる手のひらサイズの妖精さん達。

 彼女らは、スプリガンさん達と仲があまり良くないみたい。

 でも、寮を守ると言う事と、人には危害は加えないと言う事を了承してくれたので警備を手伝ってもらっている。


 スプリガンとインプは寮の警備をする為、魔力を与えるとすぐに持ち場に戻って行った。

 私は、魔力を与えた後、クラウス様から預かっている白い子犬を見る。

 

 名前は、私が名づけ親になって良いと言われたので、ルアカーゼと命名。


 私が常日頃から、妖精さん達に魔力を与えていた影響からなのか、空を浮かぶ魔法を使ったりする事もあるので、普通の犬の定義から外れてきている気がする。


 ルアカーゼを抱き上げて、くりんくりんな丸い瞳を見ながら――。


「ルアちゃんは、今日は何が食べたいですか?」


 ――と、聞くと。

 ルアカーゼは、小さな右足をお肉保管庫に向けている。


 ふむ。

 さすが犬ですね。

 お肉を朝から食べたいなんて……。

 立派な狩猟犬になりそうですね。


  

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