公爵令嬢は結婚したくない!
なつめ猫
第0章 プロローグ編
第1話 転生したら男から女に生まれ変わった。
ぼんやりとした意識の中、「お生まれになりました!」と言う女性の声がやけにはっきり聞こえた。
ただ、とても眠くて俺の意識はそこで途切れた。
赤ん坊と言うのは、基本寝てはミルクを飲んで、寝てはミルクを飲んで出すものを出してから寝るというサイクルを繰り返す。
俺は俗に言う異世界転生と言うものを経験してしまったようだ。
社会人時代に培った膨大な前世の知識が赤ん坊の脳を圧迫していたらしく脳に記憶が書き込まれるたびに意識が強制的に落とされる事を繰り返していたようで、自分の自我がきちんと目覚めるまで2年ほどかかった。
その為、赤ん坊時代の事はほとんど覚えていない。
きっと覚えていたら羞恥心の関係上、精神的に死んでいたかも知れないから逆に良かったかも知れないが……。
それにしても今日は、やけに意識がはっきりしている。
部屋の中を見渡す限り、どうやらこの部屋は女の子の部屋らしいという事が分かる。
ボンヤリと見える部屋の壁は薄いピンク色に塗られており白い花柄の絵がアクセントに描かれている。
大きなクローゼットにタンスがあり、たくさんの動物のぬいぐるみや姿見まで置かれている。
それらを見て、どこをどう考えたら男の部屋に見えるのか? まずはそこを知りたい。
そしてもしかしたらという恐怖がある。
部屋の中には誰もいない事を確認してベッドから降りる。
もちろん、足が届かない事もあり枕を絨毯の上に落としてから落下場所を確保する。
あとは、ベッドから降りればいいだけだ。
俺は、慎重に慎重を重ねてベッドから降りる。
そして姿見の方へ走っていく。
姿見に映った姿は、美幼女であった。
目は円らで大きく、顔の各パーツも神の采配のように配置されていて庇護欲を駆り立てられる。
髪の色は黒く、肩まで伸ばされている。
きっと前世の俺が見たら、飴玉買ってあげようか? と言って捕まることだろう……って捕まっちゃうのかよ!
それよりも問題があるな。
どうやら俺は性別が女として生まれてしまったようだ。
ふむ、どうしよう……。
凹んでいると、部屋のドアが開けられる音が部屋内に響き渡る。
俺はとっさにドアの方へ視線を向けると、そこにはブロンドの髪を後ろで束ねた20歳前後の女性が俺を見て固まっていた。
「だーっ!」
おはようございますと呟いたつもりだが、出てきたのは幼女語であった。
ふむ、どうやら俺にはまだ人間語は早かったようだな。
「お嬢様が目を覚まされました!」
女性は突然、大きな声で叫んだ。
女性の声は甲高いと思っていたが、幼い俺にとってその声は思ったより大きく思わず尻もちをついてしまうほどだ。
そしてすぐに2人の男女が姿を現した。
「ティアが目を覚ましたのか?」
男は部屋に入ってくるなり俺へ視線を向けてきた。
20歳半ばの黒髪、黒目のイケメンであり服装もかなり良い物を着ているように見える。
そして続いて入ってきた女性を見てびっくりした。
女性は赤い瞳に白銀の髪を背中に伸ばしている美女であった。
男は俺をしばらく見た後に部屋から出ていってしまう。
ふむふむ、何かあったのだろうか?
男が出て行ったドアを見ていると、白銀の髪の美女が俺を抱きしめて持ち上げた。
匂いから自分の母親だと言うのが何となく分かる。
俺はすぐに眠くなりうつらうつらしてしまう。
「ティアはお父さんと遊びたかったの?」
あれが俺の父親なのか? ふむ、それにしては素っ気なかったな……。
まあ、男に抱かれても気持ち悪いだけだからな。
俺は頭を振って否定する。
「そ、そうなの……?」
母親の言葉に俺は頷く。
「まるで言葉が分かっているみたいね?」
おっと!やりすぎたか。俺は頭を傾げる。
「そうよね!まだ2歳になったばかりだからね」
と母親と思われる女性は語っている。
やはり俺の年齢は2歳でいいらしな。
問題は、幼少期ってどこのくらいで言葉が話せるようになるものだろうか? 分からないな。
こんな事なら幼児育成の本を読んでおくべきだったかも知れない。
「奥様、そのくらいにして寝かせませんと……ユウティーシアお嬢様は、高熱で1年近くずっと眠っていたのですから」
なるほど、俺はずっと高熱で寝ていたのか?
もしかしたら現代知識を脳に書き込む際の知恵熱だったのかも知れないな。
「治療魔法師の話では、すぐにお言葉を話すのは難しいと仰ってましたししばらくは療養されていた方がよろしいかと」
なるほど、俺の名前はユウティーシアと言うのか。
母親だと思われる美女は俺をベッドに寝かせるとそのまま部屋から出ていってしまった。
それから数日が経過し部屋でボーっとしながらここ数日で集めた情報を思い出す。
俺の父親は、バルザックという名前で母親はエレンシアという名前らしい。
父親は、姿見を見ていた日からは一度も俺に会いにはこない。
主に来るのはメイドと母親のエレンシアくらいだろうか?
考え込んでいると部屋のドアが開けられ30歳前後の男性が部屋に入ってきた。
後ろからは、父親であるバルザックも部屋に入ってくる。
30歳くらいの男性は俺を見るなり。
「この娘が、お前が言っていたユウティーシアか?」
「はい」
父親は男の質問に端的に答えている。
俺は、絨毯の上に座りながら目を直接会わせないようにしながら二人の会話を聞くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます