第280話
するといよいよ事態は切羽詰まった物になってきたと思って間違いはないな。
「何かあればいいんだが……」
俺はアライ村の村長宅から失敬してきた地図を広げてみるが近くに町があるという表示は一切ない。
もともと地図というのは、古来より戦略上、重要な物であり村の村長が持つ地図では隣国の細かい情報まで乗ってる方がおかしい。
それにアライ村から持ってきた地図は、アライ村が所属するアルネ王国内の情報すらあやふやに書かれており、書かれているのは周辺の3つの村と、イルースカ侯爵家が治める首都イルティアくらいなものだ。
つまり、どれだけ地図を見ても隣国の町が書かれていると言う事は無いわけで。
俺は地図をたたんで懐に仕舞うと――。
「ユウマさん、近くに【メモリーズ・ファミリー】と呼ばれる花が咲いています」
――と、ユリカが俺に話しかけてきた。
俺は帆馬車の中へ視線を向けるとユリカは視線を帆馬車が向かう北西からやや西よりの西北西のに向けている。
「その【メモリーズ・ファミリー】と言う花は、何の花なんだ?」
「はい、話に聞いたかぎりでは記憶と言う花らしいんです。でも詳しい話は、思い出せなくて……でも、たしか【メモリーズ・ファミリー】は村や町跡に咲くと聞いた事があります。もしかしたら……」
なるほど……つまり……。
「その花が咲いてる町か村なら野生化したといっても野菜がある可能性があると……そう言う事か?」
「はい……たぶん……」
ユリカは自信なさげに頷いてきたが、今はそれは朗報とも言える。
「なら、【メモリーズ・ファミリー】がある方角へ向かってみるか」
俺は、帆馬車の進む先を西北西へと変えた。
西北西の方角へ帆馬車を走らせ始めてから数分後に、草原にはポツリポツリと高さ30センチほどの薔薇に似た赤い花が咲くようになった。
厳密に言えば、赤い花ではあるが縁の部分が淡く青い。
「ユリカ、この花が?」
「はい、この花がメモリーズ・ファミリーです」
ユリカが欠伸をしながら答えてきた。
ここ一週間ほど、移動続けとはいえ先ほどまで目が冴えていたユリカとは思えないほど目がトローンと寝むそうにしている。
「これは、早めに向かった方がいいかもな……」
俺は馬の手綱を強く握ると帆馬車を引いている馬を少しだけ早く走らせるようにした。
周囲の【メモリーズ・ファミリー】が増えていき、草原の草の割合が花の方が増えた頃――ようやく視線の先に城壁が見えてきた。
「ユリカ、城壁が見えてきたぞ」
「……は……い……」
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