第115話

 俺の言葉にエルスが眉元を顰めてくる。

 そしてしばらく思考したと思うと、重々しく口を開いてくる。


「ここはユゼウ王国なのは、ユウマも知っていると思う。ユゼウ王国は、エルアル大陸の4国の中でももっとも多い3つの迷宮を抱えている。そのうちの一つがユゼウ王国の東側位置する死霊の森になる。面積は広大で隣国のアルネ王国まで続いている。生身で超えることはまず不可能と言われていて東方の隣国であるアルネ王国までは海岸線沿いを船で航海して一週間ほどの旅になる」

「ふむ……」


 俺の頷きにエルスは話を続ける。


「だから、ユウマは死霊の森で倒れている時は驚いたんだ。まさか死霊の森に挑む者がいるなんて思ってもみなかったからな。今日ユウマとパーティを組んでいた奴らから話を聞いた限りでは、ユウマは腕の立つ弓士だったんだろうとアタイ達は考えている」

「わかった。前振りはいい。それでこの国の情勢はどうなってるんだ?」


 俺の言葉にエルスは額に手を当てたあと、語るように話し始めた。


「ユゼウ王国の先代の国王は殺されたんだ。その時に王位継承権を持つ人間は全員殺された。ただ、外部から王家の一員として入れられた王女だけが残った。だが、王女は王位継承権をもってはいなかった」

「王位継承権をもってない?」

 

 俺は首を傾げる。

 王位継承権は、生まれた時の母親の実家の爵位や生まれた順序で継承権の順位が変わる事はあったとしても持ってないと言うのはあり得ない。

 外部から入ったとしても……そんな事がありえるのか?

 

「ああ、ユゼウ王国の王家は他国と違って特殊なんだ。そこで王家の血筋であったアルド公爵家当主エルンペイアが王位を継ぐ事になったんだ。その後、圧制を敷き民に重税をかけたのだ。もちろん王女も……いやなんでもない。つまり今は国が荒れているという事なんだ」

「なるほどな……」


 つまり国王になった奴が圧制を敷いたから国内はゴタついているって事か?

 なら俺にとってはそれは逆に好機なんじゃないだろうか?

 身分を証明できる物がない現状としては、国が荒れている方が動きやすいだろう。

 なにせ、身分照会をするための通常のインフラが動いてない可能性もありそうだしな。

 それに内乱状態なら、最悪落としたとか適当な村をでっちあげて身分証を作る事も可能だろうし。


「だいたい理解した」


 俺はエルスに礼を言う。

 礼を言われたエルスは照れていたが、あまり身を隠していても意味がないからな。

 俺は、エルスが寝付いたのを確認してから【防音】の魔法を使いながら家を出た。

 すでに深夜帯と言う事もあり周辺はとても暗く見通すこともむずかしい。


 俺は、エルスの家を見張っていた人間を誘導するように移動する。

 【探索】の魔法で、俺を監視していたのは分かっていたからだ。

【身体強化】の魔法を発動しながら南西に数分走った後、追跡者がくるのを待つ。

 

 そして、追跡者が追いついてきたのを確認する。


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