3-9 最後の希望は小夜啼鳥の唄

蓮丈院 AP-100 VS マイリー AP2500



「これでラストターンだ! ドロー!」



 依然優勢の上に、いつでも勝負を切る権利を行使することができる美澤が、悠々と最後を宣言する。



「脚部に〈カラミリタリティー ガンマウントシューズ〉をコーデ!」



 今まで派手な上半身とは違って、ずっと味のないスクールソックスとローファーを維持していた脚部にもようやくコーデが施された。


 今までの現代歩兵の軍服を模した上と異なり、黒一色のブーツにも似た靴。


 しかし、質素で艶のある表とは裏腹に、踵周辺や靴底には、攻撃的な杭やらスパイクらしい錨がぎらついている。



「先に説明しておくわ。このシューズは〈カラミリタリティー〉ブランドのコスチュームが効果を発動する際、相手はミュージック・アクシデントの発動を許さない効果を持っているの。でも、今のあんたは身を守る伏せカードすらない。ここは単にAPの底上げとして場に出させてもらうわ」



 今のコーデでAPは2950まで到達している。


 せっかくの効果が無駄になっているとはいえ、いよいよ厳しくなってきた。



「その代わり、あたしはこのカードを準備してスタンバイ!」



 やはり、よほどの慎重でない限り、この状況下で終わりを宣言しない方が可笑しいだろう。


 俺が同じ立場でも、やはり宣言する。


 丸裸の上、マイナスもぶち抜いているような奴が相手なら。


 与えられた猶予は一ターンのみ。


 この状況を巻き返せる手段はあるのか?



「俺の……ターン……」



 新たに加えられたカードと、残った手札を交互にみる。


 やはり、一ターンだけで巻き返すのはどう考えても不可能だ。


 トップの座はくれてやるとはいえ、やはり負けるとなるとどうにも悔しい。



「遊月さん! 相手はギリギリの2950ポイントですよ!」


「そうだ、相手は寸前までAPを高めているぞ」



 逆境に追い込まれた俺を、セイラとマーサが応援というか何かを伝えてくる。


 ギリギリ?


 寸前?


 俺は改めてマジカルwithアイドルズのルールを思い出す。


 そして、俺よりも遊月のことをよく知っている二人の言葉から察するに、遊月のデッキには、この状況に対応できる狙えるカードが用意されているということだ。


 もう一度、手札の四枚を眺める。


 勝利への方程式を形成するピースは、今ので手札に舞い込んでいたのだ。



「俺は〈ブラッデルセン エヴォルナイトゲールワンピ〉をコーデ!」



 こいつが俺の新しい鎧。


 遊月の扱うコスチュームである以上、出たての色は仕方ないが、おそらくサヨナキドリと偉人ナイチンゲールの二つを兼ね備えた羽に飾られた看護服のような衣装だ。



「来てたんですね! 遊月さんの第二のエース!」


「よし、あれを着たなら勝ったのも同然だ!」



 解説の通り、こいつにも同じ手順で目覚めさせる必要がある。


 そのために、変わらず襟部分には針刺しの突起が備わっている。



「【飾血】――目覚めよ、〈エヴォルナイトゲールワンピ〉!」



 与える着主の血を吸った衣装は、嬉々として活力を取り戻し、元の色へと自ら染め上げる。


 相変わらず進化する鳥の名を冠しているのに、全部焼いて無視するかのごとく布面を焔色へと色づけてゆく。


 翼に変わって透明な陽炎の翼となって一帯をはためかし、着者とともに対決に臨む。



「効果を得た〈エヴォルナイトゲールワンピ〉の効果! 1ターンに一度、このカードにチャージカウンターを持たせる!」


「カ、カウンターだって!?」



 カードゲームにおいて、〈エヴォルナイトゲールワンピ〉のように、トークンとは別に効果によって得られる目印が存在する。


 例を挙げて簡単に説明するなら、パワーをあげる源を一つ得られると考えればいい。


 他にも得ることで様々な効果を得られるが、それはカードの内容次第。



「〈エヴォルナイトゲールワンピ〉は、乗せられたチャージカウンター一つにつき、APが200ポイントアップする。つまり、一つ乗ったことで、このコスチュームのAPは1400ポイントとなる!」



 胸元に両手を添えると、開いた掌同士の空間に粒子が集い、徐々に光の弾へと成長してゆく。



「たかが1400! おまけにあんたが無駄遣いした効果のせいで、元々のAPが下がってることもわすれないでよね!」



 言うとおり、効果を使っても俺の総点は、美澤に遠く及ばない。


 だが……もう一つ、カウンターを乗せるタイプの効果には、バンプアップとは別にさらなる能力が備わっている。



「〈エヴォルナイトゲールワンピ〉の特殊効果は、単にパワーをあげる源を生み出すだけじゃない。このカウンターを、相手にぶつけることだってできる!」


「――!」



 カウンターを乗せるタイプのカードが持つ、真価ともいえるもう一つの特徴。


 それはカウンターという燃料を消費することで解き放たれる効果が発動させること。


「さぁ、ラブレター代わりだ。受け取ってもらおうか!」



 相手が近代兵器ならこちらは魔法。


 今まで食らった弾丸の代わりに、俺は美澤に向かって貯め込んだ魔法の一発を放った。



「今更何をしようが無駄! アクシデント発生〈シャワークラッカー〉!」



 ここで美澤が、最後に伏せていた防御札を起き上がらせる。



「相手がこちらに影響を及ぼす効果を発動させたとき、その効果を無効にしてランドリーにおく――」


 勝ちを確信して誇らしげにカードの説明をしている間に、立ち上がった肝心のそのカードは、いきなり爆音と灰色の煙をたてて消滅した。



「そんな……どうして、不発!?」


「相手が発動に失敗したカードの存在を忘れるとは、詰めが甘いな」



 懇親のダメ出しを不発に追い込ませたのは、俺が伏せていた1枚のカードの発動によって。



〈ダメージハンデ〉



 自分の総APとステージ上のカードに記されたAPの合計値がかみ合わない場合、相手のカード効果を無効にして破壊する。


 発動条件が違ったせいで失敗どころかチョンボまで晒してしまったが、おかげで良い懐刀となってくれた。


 これでもう、撃ち放ったチャージ弾を止める術はない。



「言い忘れてた。チャージカウンターを乗せた〈エヴォルナイトゲールワンピ〉がカウンターを取り除いた時、どちらかのプレイヤーの総APを200ポイントアップさせる効果を持っている」



 カウンターを取り除いて自分の数値を上げても意味がない。


 だが、このゲームの場合は相手の方に塩を送るほうがより効果的だ。



「ご立派な銃を揃えても、暴発にはご用心だ」



 銃弾や光線よりも遅い速度で進む魔弾が美澤に触れた刹那。


 特撮番組でやられた怪人の死に様の如く、大爆発が起きた。


 仮装映像による効果とはいえ、アイドル同士のカードゲームで用いるには、あり得ない規模の爆発だった。



蓮丈院 AP950 VS マイリー BURST

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