謎は深まる

 モニタールームへ戻ると、美菜さんがコーヒーを用意してくれていた。香りにホッと一息ついていると、美菜さんが足を組みなおしながら、チラッと俺に視線を向けた。


「海斗くんお手柄ね。奏多の貞操が守られたわ」

「本当ですよ。僕今日こそピンチだったんですから」


 食い気味に奏多と呼ばれる優男が俺の手を取る。そして、頬擦りしてきた。男に懐かれても嬉しくはない。

 そんな様子を見てか江角さんが美菜さんと視線を交わして笑っている。そしてふと口元に手を当て目を見開く。


「あ、海斗さんこちら奏多さんです。自己紹介がまだだったんじゃないですか」

「それもそうね。回収頼んじゃったから忘れてたわ」

「そうですね。僕もとんだ初対面だったので失念していました。僕、奏多っていいます。この島に来てもうすぐ半年になります」

「移住者の先輩だったんですね。俺、山内海斗です。よろしくお願いします」


 奏多は手から頬を離し、今度は握手してきた。初対面からフレンドリーで距離感が掴めない。

 そして、男に擦り寄られてもいい気はしない。恐らく引き攣っているだろう俺の顔を見つめてくる小動物のような優男をどうすればいいのだろうか。


「そうですよ。この島の未知なる生態系に興味を持って移住を決めたのですが、なかなかハードで……」

「あんたの場合は懐かれすぎるのよ」


 奏多の言葉に美菜さんはため息をつきながら、コーヒーを啜る。

江角さんも笑って頷き、同意している。


「始めの頃は慕ってくれる少女ばかりでしたからね。そこからあそこまで皆さん知力をつけて奏多さんの取り合いになってしまうとは思いませんでした」

「本当にここの獣達はどう進化を遂げるか見ていて飽きないわ」

「僕を出汁に生態系の観察しないでくださいよ。本当に生きるか死ぬかの瀬戸際の毎日なんです」

「貞操くらい捨ててなんぼじゃない」


 ポツリと美菜さんに言い捨てられた奏多は驚愕の表情をしてから俺の手を取ってきた。


「貞操くらいって今聞きました? 僕が獣達に〜!」

「……やたらに狙われ続けるのは大変でしょうね」

「そうなんです。というわけでこれから猪のほうの餌やりが……」


 ドカンと美菜さんの鉄拳が奏多を襲った。奏多は頭を押さえて半泣き状態だ。


「見学者に仕事を勝手に出さないの。海斗くんはあくまで見学なのよ。今回はか弱い私じゃ引き戻せないと思って頼んだけど、今回だけよ」

「そうです。今日はこの島の特徴を一目でわかっていただくためにお連れしたんですから」

「そ、そんなあ」

「あんたは次の餌やりの準備してきなさい」

「はあい」


 奏多は半泣きのままトボトボとこちらを見ながら、壁のスイッチを操作して去っていった。

 女性陣がため息をつく中、俺は今まで起きた事についてぼーっと考えをまとめていた。

皆の話を聞くに、茶髪でショートカットの少女、しっぽがついていたからアレが獣ってやつなんだろうけど、普通に会話してた。

 名前まで聞かれて来いと言われれば来るしかなくなるとかまで言っていたな。

それだけ会話が出来るってことはかなりの知能指数だ。そんな獣がこの島にはたくさんいるって言うことなのか。それともこの施設だけなのかまだ不明だ。まだまだ皆に質問したい事がたくさんある。


「さあ、海斗くんそろそろ別のフロアも行ってみましょうか? ガラス越しに見ていく感じだから動物園とかわらないよ」

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