セ○ム?

 商店を後にして、車に乗り込み、元来た道を戻り、俺の家となる一軒家の庭に車が止まる。

 そして、車から降りると、江角さんは家のチャイムの横にあるボタンの説明をする。


「ここのボタンを押すと警戒モードに入ります。これで侵入を防げます」


 白いボタンが赤く光る。セ○ムが付いているのか? こんな田舎町にも必要なんだと感心していると、江角さんの話の雲行きがおかしくなってくる。


「いいですか。夜暗くなってきたら、出歩かずに必ずこの警戒ボタンを押してください。でないと敷地内に獣が入り込んできて荒らされます。家の中には入りこまないはずですが、念のためこれは絶対押してください」



 ん、んん? 獣が家に入り込んでくる? ここらへんの獣はそんなに飢えているのだろうか。山もあり自然は豊かそうだ。まあ、畑は農家さんの自衛の電気の杭で侵入することはできないんだろうが。


「山内さん。絶対ですよ! 詳しくは明日の見学の際に詳しく説明しますね」


 笑顔で江角さんが車に乗り込み去ろうとする。

 いや、待ってほしい説明が足りなすぎて眠れない。この町には危険が溢れているということではないか。


「ああ、言い忘れましたし、外し忘れていました」


 江角さんは再びセ○ムボタンを押すと、赤い光が消え白いボタンに解除と表示される。


「外出する時は解除モードにして下さいね。じゃないと塀の外に出る時に感電死しますから」

「えっ!!」

「ああ、ここの敷地の周りに強力な電気を張り巡らせているんです。ほら、四方に杭が見えませんか?」


 江角さんが差す方を見てみると、大きな木の影になっているが、腰あたりまで杭が見える。


「あの杭から、家の屋根に付いている杭まで電気が走るんです。なので外からも入れませんが、中からも出られません」


 話がよく分からん。分からんぞ。感電死のリスクを背負ってまで、獣除けしなければならないのか。

 いや、確かに熊や猪は危険だと聞く。会ったら死んだフリしても襲われるんだったな。

 俺は残念ながら、撃退なんてできるスキル持ち合わせていない。小学校の時に少し習った合気道くらいか……。通用しないだろうな。

 それよりもボタン一つで家の四方を通電ってどういうシステムだ。

 頭をフル回転させるが、何も答えは出なかった。


「それでは、また明日9時にお迎えに来ますね」

「はい」


 俺はとりあえず返事をして、重いレジ袋を両手に持って、家の中へと入った。


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