R 電子カイロ

 カイロ。寒い冬に体を温めるために使う、小さな熱源のことだ。

 主に鉄の粉と木炭を配合した使い捨てのものが主流である。

 しかし、使い捨てはもったいないとのことで、電子レンジで温め直せる保温材が入ったものや、モバイルバッテリーを使って発熱するものなども近年には発売されている。


 今回はそのカイロが出てきた話だ。





 そう言えば、ようやくと国連への加盟が完了した。

 竜鮫機神国ドラグシャークとかいうあまりにも額面の圧が強い名称で登録することになったので完全に浮いている。

 本当に国かこれ?


 まあ国としての実体はともかく、これによっていろいろな権利が認められて色々やりやすくなったわけだ。

 具体的には一方的に輸出し続けることで無駄に集まってきている金を放出すること。


 いやほんと、世界経済に影響を与えるだけのヤバい資源を大量に持っていて、しかもそれを快く売ってくれる存在なわけだこの国は。

 当然それを買うには金が必要なわけで。

 ただでばらまくわけにも行かないから資源価値に見合うだけの値段を付けているのだが。


 これが問題なのだ。

 売ることはするが、なにも買わない。

 必要なものなどなにもないから、なにも買わない。

 すなわち無限に金をため続けることになる。


 一箇所に金がとどまると経済が死に始めるので可能な限り吐き出したかったのだ。

 マジで大国を殺せる量が集まっている。


 なので投資したり投資したり投資したりして浪費したかったのだが……。

 国としての主体がなかったのでどうしようもなかったんだよな。

 そっち方面で使える人手もなかったし。


 でもこれでおおっぴらに投資できるようになった。

 投資すればそれだけ経済が回せる。


 これで世界はまた一つ良くなった……はずだ。

 今日の分のガチャ回そう。


 R・電子カイロ


 出現したのはモバイルバッテリーのようなものだった。

 卵にも似た柔らかい楕円形をした、薄い本体はポケットに忍ばせるのに丁度いい大きさをしている。

 それに、電源を入れていないというのにすでにほのかに温かい。

 素材が特殊なのだろうか?


 で、だ。

 何よりも目立つ、表面に浮かび上がったLEDで表示された操作盤だ。

 温度を示すであろうLEDが点灯しておらず、その代わりに電源ボタンのようなマークが浮かんでいる。

 全体的にちょっと暗く表示してあるのは電源を入れていないからだろうな。


 ただ……温度を示すLEDの穴……というか影が、やたら多いのはなんだろう。

 そんな細かく温度調整することあるか?

 ただのカイロで?


 まあグダグダ悩んでいても仕方ないか。

 電源のマークに触れるとそれと同時に温度のランプが灯る。

 それにプラスとマイナスの記号……。


 とりあえずプラスに触れてみる。

 すると温度のランプが一つ隣に動いた。

 先程よりもより赤い。


 カイロ自身の温度も、すでに使い捨てのものと同じほどに温まっているのだが。

 まだ8段階ぐらい温度を上げられる。

 減らす方向でも10段階は下げられそうという。


 やっぱ多いよなこれ!?

 どう考えても限界を超えて加熱するやつじゃん!

 しかもより下げるボタンとか考えたくもねえ。

 数からして、ざっくりマイナス30度ぐらいまで下がりそうである。


 普通に危険物だ。

 興味本位でいじると普通に火傷してしまう。


 ふ、封印!

 片付けてしまおう!





 後日。兄が素手でカイロを握りしめながら最高温度にまで上げた。

 瞬間的に周囲の気温が50度まで上がり、カイロは焼けた石炭のように赤い光を放っている。

 まともな生物ならばそれだけで火傷し、うだる暑さによって体調も狂う環境。

 だが兄は尋常な生物ではない。


 その肉体に限っては超高レベルに至った超越者である。

 おおよそ地球上での温度変化でダメージは……受けるけど問題ない範囲だ。


 あと、そのクソフィジカルを使って最低温度まで引き下げる……と瞬間的に周囲の空気が凍りつく。

 あらゆるものに霜が降りて冷え切っているようだ。


 過剰すぎるな……あのカイロ……。

 明らかにまともな人間が触っていいものではなかった。

 瞬間的な加熱と冷却は危険すぎる。


 兄はまともではないので普通に触っているが……。

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