R 姿勢制御モジュール

 姿勢制御モジュール。人工衛星のような、宇宙で活躍する機械に搭載されることの多い部品の一つだ。

 その機能は機体の向きを保つことである。

 宇宙空間には空気抵抗もなにもないため、しばしばバランスの崩れた力がかかると回転運動に変化してしまうことがある。

 これを打ち消し、本来の向きを維持するために姿勢を制御するモジュールが必要となるのだ。

 また昨今はドローンのような、なにもない空中でバランスを取る必要がある機械が増えてきている。

 これらにも利用され、その需要は大きくなっていくことだろう。


 今回はその姿勢制御モジュールが出てきた話だ。








 はわわわ。

 エルフがやってきた。

 そのエルフは徒歩でやってきて、機神の前に傅いている。


 あいや、なんでエルフがいるの!?

 と思ったのだが。

 それは向こうから語ってきた。


 世界樹の小世界は上から順番に番号は振られている。

 管理の都合で便宜上そういう名称にしてあると言うだけではあるが。

 第7の枝セブンスブランチで生まれたと主張するエルフたちは、巡礼のために徒歩で機神が安置されているここ……第9の枝ナインスブランチまで来たというのだ。

 その距離ははっきり言ってめちゃくちゃ遠い。

 まだ自然動物もモンスターも少ないが植物だけは大量にあるので食料には困らなかっただろうが、道は整備されていないため遠いとかそういう次元ではないはずなのだが。


 え、ええー……。

 エルフ、自然発生する生き物なのか。

 巡礼に来ているエルフは皆少女のように見える。

 これは顔が良すぎて性別がわからないという意味である。


 兄は案の定見落としていたので住人票を作成しなければと考えを巡らせていると。

 エルフたちがテラスにいる私を見つけて祈りの声を大きくする。


 なんか私のことを大地と慈愛の神とか言われてるんだが……ええ……。


 神扱いが堪えたのでエルフのことは後回しだ。

 ガチャを回そう。


 R・姿勢制御モジュール


 出現したのはフレームで出来た四角い箱だった。

 内部でディスクのようなものが数枚高速回転している。

 あとそれと。

 テーブルの上で、角だけを接地した状態で直立しているのだ。


 なんかこれ、ちょっと前に見たことあるな。

 確か宇宙開発の技術発表で展示されていたやつだ。

 ネットで話題になっていた記憶がある。


 なんというか、おもちゃ……だな。

 ガチャから出てきたから余計そう感じるのか、もともと技術展示用の物であるために用途がないからそう思うのか。

 微妙なところだ。


 とりあえず、移動させようと触ったときだった。

 指先が振れただけで、全身にかかる力が支配された、そう感じた。


 全身の力がおかしい。

 現状を維持しようとしている。

 手を伸ばすために若干前のめりだった姿勢そのままで、バランスが取れてしまっているような、異様な状態。


 姿勢制御モジュールをつまんだ腕を動かすが、その反動は他の部位にまで伝わらず。

 立ち上がるが体幹はブレず。

 踏み込んだつま先立ちのまま、全身のバランスが釣り合う。


 いや、ほんとどうなってるの?

 右手を掲げて、左腕をだらりと垂らし、右足はつま先立ちで、胴体は前のめり、左足は後ろ向きに伸ばされた状態で。

 なぜか全く倒れる兆候がない。


 し、姿勢を……制御されている……。

 筋力を操られている感じではない。

 かかる力だけが制御されている、そんな感じだ。


 しかもその姿勢制御モジュールも指先に角がくっついているだけで逆向きにしても落ちない。


 これはもしかして……結構面倒なものが出てしまったのでは……?





 後日。兄が、姿勢制御モジュールを使って浮いていた。

 姿勢制御モジュールは体の部位を動かそうとしない限り、その位置に固定しようと力を掛け続ける装置だ。

 それをうまく利用すると、こうなる、と言いながら。


 柱に髪の毛の先を着けた状態で、横向きに浮いている兄が。

 何だそれは。


 というか、器用に髪の毛を動かしながら柱を登っていく兄。

 何をやってるんだこいつは……いやそれ本当にどうやってんの!?


 順調に怪物化しているような気がする兄。

 いや、違うな。

 ノーライフキングと鬼人がすでに幹部にいて、機械化した天使を配下に従える存在……。


 うーん魔王。

 もしかして早めに討伐しておくべきかな?

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