R ステージマイク
マイク。声を受け取って電気信号に変化させる道具だ。
一度電気信号となった音声は簡単に加工が可能になるため、様々な装置を通すことで好きなエフェクトをかけたり、音量を大きくしたり出来る。
そのため音質に優れたマイクを使いたくなるが、音質の優れたマイクは構造上繊細な部品を利用している場合が多い。
特に優れているものは軽く落としただけで壊れる。
なんならマイクを叩くだけで壊れる。
なのでマイクは丁寧に扱おう。
今回はそのマイクが出てきた話だ。
ダンジョン産の素材を利用した発電機の試作品が完成したと発表があった。
開発したアメリカの研究機関は他国に牽制するために開示したように見えるが、その性能はすでに既存の発電機を超えていた。
その発電機はダンジョン産の発電する石を組み込んだ2メートル四方の箱のような形をしている。
内部に水を循環させることで水を電気に変換する構造になっており……、その変換する効率が核分裂のそれをはるかに凌駕しているのだ。
これが示すのは、液体の水が持つ総エネルギーを発散させることなく電気に変換しているということであり。
ダンジョンの素材である石は、ただの触媒であるため消耗しないということだ。
まあこれは、はい。
次世代の発電はこれで決まりですね、はい。
国際政治的に言えば、この技術を抑えないと他国に遅れを取ることは確実となったわけだ。
そうなるとたいへんめんどくさいことに……発注が増える。
ダンジョン生産品なのでいくらでも生産出来るが、一度に用意できる量には限りがあり、しかもそれを争奪しあうような状況だ。
そして調査隊はそれぞれ国家を背負って来ているわけで……。
大変横暴な客が増えて困る。
まあ
面倒な客であることには変わりない。
はー、ガチャでも回そ。
R・ステージマイク
出現したのは、いわゆるスケルトンマイクと呼ばれるような、金属の骨組みに覆われたマイクだった。
古いステージの映像でミュージシャンが手で握って歌っているあのマイクだ。
……、出現したときからわずかにホワイトノイズのような音が聞こえている。
ノイズキャンセリングでも仕込んであるのだろうか?
まあいい、とりあえず試してみるだけだ。
配線も何もないということは、このマイクは単独で動作するタイプのものだ。
本来なにかとつながって利用される代物が切り離されて単独で動作するようになっているものはガチャから結構出てくる。
つまりはこれも同じだ。
多分、声を吹き込むと近くから拡大した音として発するような物のはず。
そう思って、私は声を出した。
「 」
声は、出なかった。
違う、確かに喉までは出ているのだ。
それが、口先から……マイクで打ち消されている。
さっき聞こえていたホワイトノイズの正体はこれだったのだ。
自分の耳に声が届かないほど強力なノイズキャンセリングならば、周囲の音を打ち消そうとして出た音がホワイトノイズとして聞こえていたわけだ。
……よりによってステージマイクで!?
これ使ったら放送事故確実じゃん!
後日。兄がハンモックで昼寝するのに、頭のあたりにステージマイクを置いて使っていた。
周囲の音を問答無用で打ち消すステージマイクは、周囲の煩わしい音を消すのに最適な景品であると言える。
人の声を完全に消してしまうほどだ。
その中で眠るのは完全な無音の世界で眠るのとあまり変わらないだろう。
まあ、兄が昼寝しているのはテラスなんだが。
もともと煩わしい音とか無い。
強いて言えば、機神の駆動音だが、これはなんというか、大きさの割には小さいため意識しなければ聞くこともない。
こいつ……。
ただ使いたかっただけじゃん!
使ってみたかっただけじゃん!
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