R 竜肉切り落とし500グラム

 食肉にも色々ある。

 例えばロースは肩から腰に掛けての部位の肉で、ローストするのに適した肉という意味だ。

 これは生き物の部位によって味わいが異なるからである。

 よく動かされ、力が込められる部位には筋肉が増え、あまり動かない部位には脂肪が蓄えられる。

 また、動作に必要な筋繊維の走り方によっても味わいが異なる。

 当然それらを同じものとして扱うわけにはいかない。

 場合によっては他の部位と比べても飛び抜けて美味しい部位が存在する可能性もあるからだ。


 今回はそんなことに関係なく、ドラゴンのクズ肉が出た話である。



























 経緯はともかく、金を手に入れた兄はまず市場の調査を始めた。

 そこで何が売られているか、何が食べられているか。

 そしてどのように売られているか。

 それを知ることはその社会を知ることになる。


 ただ……まあ専門家ではない兄と私である。

 ざっと見たところで「知らないものが売っているな」とか「えらく肉が多いな」ぐらいしかわからない。

 強いていうなら屋台形式の商店が多い。

 おそらくは定期的にこの場を入れ替える必要があるために移動可能な店舗が中心になるように発展したのだろう。

 屋台の背後に並んでいる建物は倉庫のように見える。


 そこまでして街道を広くしておく必要があるということだ。

 それも不定期に広くする必要がある。


 そんな用途、一体どこで……と思っていると。

 鐘が鳴り出し、それと同時に屋台がすごい速度で撤収を始めたのだ。

 そして屋台が去ったあと……ガチャガチャダンジョンの方からそれはやってきた。

 巨大な家のようなものが、自走している。

 履帯のようなものを履いているのか、地面をえぐるように前進している。

 そしてその背には、竜の死体を背負っているのだ。


 聞けばあれは冒険者の所有物の中の1つであり、ダンジョンでは年に数度出てくる産出品だそうだ。

 あれを搬出するのに街道を広くする必要があるのか……。

 それにあの背負っている竜の死体は、解体して食肉にするんだと。

 豪快だなぁ。


 さて。

 ガチャが唸っているので回すとしよう。


 R・竜肉切り落とし500グラム


 出現したのは白いパッケージに載せられた肉だった。

 スーパーなどで売っている豚肉や牛肉のパッケージをイメージすれば丁度いいだろうか。

 それの中に、ボロボロな肉が入っているのだ。

 パッケージの表記に従えば、竜の切り落としが、である。


 うーん竜の肉。

 ワイバーンの肉なら兄に食わせたことがあるが、あれは硬い。

 とにかく空を飛ぶ生き物なので筋肉質なのだ。


 そしてこの竜の肉もそれに外れず、かなり筋っぽい。

 薄く脂肪が入っているのが見えるが、それの周囲に筋が走っているのだ。

 薄切りになっていてもだいぶ固そうに見えるのは相当である。


 さて、どうするかな……。

 牛肉なら一人で食べてもいいが、これは竜の肉である。

 得体のしれないものなのは変わらない。


 というか、本当に食って良い肉なのかもわからない。

 なにせ竜である。

 種類にもよるが、毒を持っているものも少なくない。


 食肉加工されているから行けるか?

 でもガチャの景品だしなぁ。


 こんなに悩むのには理由がある。

 ドラゴンの肉は、ものによってはとても美味いのだ。

 調理の技術が要求される場合も多いが、それに見合うだけの暴力的な旨味を秘めている事が多い。


 最も毒も旨味も創作上の話であって……この竜肉がそれに当たるかは微妙なところではある。

 そもそも切り落としはクズ肉だ。

 本当に竜の肉が旨くてもこの部位が美味いとは限らない。


 うーん……。

 やっぱやめよう!

 得体が知れないものを食べて腹を壊すかもしれないしな!



























 後日。兄が竜肉をビーフシチューに投入しやがった。

 実質ドラゴンシチューと化したビーフシチューを、何の説明もなく家族に振る舞う兄。

 もし毒があったらどうするんだと思ったが、この兄、先に竜肉を少しだけ焼いてつまみ食いしている。


 だからといって説明もなくドラゴンの肉を投入していい理由にはならない。


 で、味?

 やはり硬くて噛みごたえがあったが、噛めば噛むほど旨味が出て美味しゅうございましたァ!

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