R ドラムスティック

 ドラムセット。複数のドラムとシンバルなどを一人の演奏者が演奏できるように配置したものである。

 その関係上、これ、といった組み合わせは存在しない。

 中には木魚が組み込まれていた話まで聞く、楽器そのものの自由度が高い楽器だと言える。


 今回はそのドラムのスティックが出てきた話だ。




















 兄が20層のドラゴンを袋叩きにした。

 サメ機人シャークボーグは、どれだけ戦おうが疲労することはない。

 そして異常なほどにパワフルである。

 一体でならドラゴンに一方的に破壊されるかもしれないが、サメ機人シャークボーグは恐ろしいことに能力に似合わず集団戦を得意としているのだ。


 集団戦自体は兄が仕込んだ戦術ではある。

 だがサメ機人シャークボーグは全身が機械仕掛けで、自身の学習内容を他のサメ機人シャークボーグに伝送することが出来るのだ。

 自我があるかどうかは自己主張しているところを見たことがないのでわからないが、伝送能力によってサメ機人シャークボーグは1つの意識を共有していると言える。


 そして、頑丈な盾を持たせて複数体で相手の攻撃を受けることを覚えさせるだけでドラゴンの攻撃をしのげるようになったのだ。

 正面から受け止めるサメ機人シャークボーグが緩衝となり、周囲のサメ機人シャークボーグがそれを支える。

 人間がやれば腕がイカれてすぐに死んでしまうことも、サメ機人シャークボーグの怪力でなら実現できる。

 実にスマートなゴリ押し戦術である。

 あとはドラゴンが死ぬまで槍で刺し続けるだけだ。


 そうやって兄は20層を攻略した。

 ノーライフキングのリチャードさんが言うには40層まであるからこれで折り返しだな。

 普通に遠い道のりである。


 兄のおもちゃのことは置いておいて、ガチャだ。

 いやガチャも兄のおもちゃであるといえばそうではあるが。


 R・ドラムスティック


 出現したのは棒だ。

 棒だ。

 春先に生えているつくしのような形状をしている棒だ。

 アーケードゲームの太鼓の奴に、本来のバチの代わりに置いてあったりするやつが一本だけ出てきた。


 いやまあドラムセットについているスティックだとはわかっているんだが、一本だけ出てきたものだから、変な言動になってしまった。

 片方しかないのではただの棒でしかないのでは?

 そもそもドラムセットがないから鳴らすものがないんだが。


 ほとんど何も考えず、スティックで適当にテーブルを叩いてみるが、なんというか手応えがいまいちだ。

 ペチペチ、と浅い音を立てていて、ただ木材同士が当たっているだけという印象。

 叩けば音が音が出るかと思ったんだが。


 適当に10分ほどいろいろ叩いてみたが、やっぱりダメ。

 楽器じゃないと駄目なパターンかな。

 うちにはないから試しようがない。


 そう思って飲みかけのコップをテーブルに置いた時だ。

 バン、とスネアドラムのような音がした。

 コップから。


 は?

 確かにテストの最中にコップをスティックで叩いて見てはいた。

 まさか叩いていたスティックで反応しないとか想像つくか普通?


 スティックで叩いたものが楽器になる、ただしスティックで叩くと元の材質で音を出す、ってところか?

 わけわかんねぇ。




















 後日。兄がドラムセットを作った。

 作ったはいいが、構成されている物がアレだ。

 平皿4枚、茶碗2つ、お椀2つ、背の高いコップが2つ。

 これから何をするつもりですか? と言いたくもなる組み合わせのドラムセットを、なんと箸をスティック代わりに演奏しだしたのだ。

 激しく頭を上下させながら、食器を箸で叩く兄の姿が、とても見苦しい。


 思わずチョップを入れてやめさせた。

 お行儀が悪いのでやめなさいよね、ホント。

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