R ジャージ

 ジャージ。ジャージー織という生地を利用して作られたトレーニングウェアを指す言葉である。

 スポーツやトレーニングを行うのに使用される衣類であり、気軽に着られる衣類のため部屋着に利用されることもある。


 今回はそのジャージが出てきた話だ。















 兄がついに目的の冒険者を引き当てた。

 その引き当てた冒険者だが、これがまた可愛らしい少年の魔法使いだった。

 まさか、兄にはその趣味が……? と一瞬思ったが容姿で選んでいたのならあんなに大量に冒険者ガチャを回さない。

 というかあの雇用システムでは性別を指定できるのに、男女と合わず出現していたのでそういう目的というわけではないと言い切れる。


 そこまでして手に入れたかった冒険者とはなんなのか。

 それはこの少年冒険者が持つ【旅歩き】という固有能力である。

 冒険者はそれぞれ固有の能力を持っているらしく、その大半が戦闘力の上昇か、傷の回復速度の上昇である。

 しかもその固有能力は職業や能力に関わらず完全にランダムで付与されているらしく、戦士の冒険者に魔法の威力アップがついていたり、盗賊に裁縫の出来が上がる能力がついていたりしたそうだ。


 そこで兄はあることを思いつく。

 それは、冒険者の迷宮踏破速度……というより、移動速度の上昇能力を持つものがいないか、ということだ。

 サメ機人シャークボーグの全力移動による速度がだいたい時速50kmだが、それでも10層最深部まで行くのに3~4時間かかってしまう。

 こうなってくると行って帰ってくるだけで時間がなくなってしまう。

 兄はそれをどうにかできる人員を探し出すために冒険者ガチャに手を出したのだ。


 もっとも手を出した時点で本当に出るかどうか、全くわかっていなかった状態であの行動を始めているので大分ヤバい人だ。

 それで念願の少年魔法使いを引き当てているので否定もしづらい。

 この【旅歩き】、所有する冒険者の実力に応じて非戦闘時のパーティの移動速度が上昇する効果があるため、うってつけというわけだ。

 兄のことだからしばらくはパワーレベリングしてるだろうな。

 なお、冒険者を連れ回すには護衛依頼を出せば簡単にできる。


 さて、すでに回してあるこのガチャを開封しよう。

 久々に妙に軽いカプセルで不安がいっぱいだ。


 R・ジャージ


 出現したのは純白のジャージ上下一揃いだ。

 ドロが跳ねたらあっという間にシミになりそうな白さの、不安になるジャージである。

 装飾らしい装飾も一切なく、めちゃくちゃ潔いせいで、余計汚すのが怖くなる。


 しかしこのジャージ、サイズが私にぴったりだ。

 誂えたかのように手足の長さや腰まわりの大きさなど、恐ろしいほどしっくり来る。

 なんだ……?

 手足に馴染む、身体が自由に動く……。


 って、明らかに身体能力が上がっている。

 身体に軽く力を入れた感覚がすでにおかしいのだ。

 ギアが入っているというか、今なら全力の向こう側にたどり着けるというか。

 というか、元の足よりも速く走れそうというか。


 身体能力が上がっているとしか言いようがない。

 流石に鬼の角ほどの怪力が得られているわけではないが、今なら一人で本棚を移動させられるぐらいの力は出せそうだ。

 本当に身体が軽い。

 軽く走るだけでも身体の具合が違うことが分かる。

 腕立て伏せなんか普段10回も出来ないのに30回ぐらい平気で出来てしまう。


 ならばやることは1つだな。

 助走をつけて……。


 ガチャポンマシンに飛び蹴りだオラァッ!















 後日。全身筋肉痛になった。

 どうもあのジャージは身体能力を引き出すだけだったらしい。

 限界を超えた力を発揮し続けた私の筋肉は、当然のように限界を迎え、全身に強烈な筋肉痛を残したのだった。


 なお兄はジャージのサイズのせいで着れなかった。

 ……すまない、嘘である。

 あの人は「着てさえいればいいんだろ着てさえいれば」という理屈で、ジャージを体に巻き付けたのだ。

 正直めちゃくちゃ不格好だったのだが、それでジャージは効果を発揮したのでだいぶどうかしている。

 私よりも体格のいい兄が使うと、相当身体能力が引き上げられるようで、垂直跳びで3m飛んで着地に失敗しかけたりしていた。


 その後? 少年魔法使いに巻きつけて経験値増加アイテム扱いされてるよ。

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