R 肉肉しい苗木

 木とはなにかをならせるものである。

 果実や花、あるいは葉……。

 木という存在が存続するため空に向かってその枝を広げその先に種の生存に必要なものをならせるのだ。

 その中でも人は食用が可能なものをならせる木を選んで育ててきた。

 多くの果物はそうして作られたものである。

 より美味しいものをならせるため交配させ、大切に育て……それを繰り返してきた結果である。


 今回は肉がなる木の苗木が出た話だ。












 北限迷宮の5層にはかつての発掘ダンジョンと同じようにボスと呼べるモンスターが存在していた。

 骨を削り出した部品で作られたドラゴンだ。

 その竜種とも球関節人形ともとれるが、そのどちらもでもないモンスターがそれ以上の進行を阻む。


 兄が言うには、ダンジョンにはその場所から動かせなくなる代わりに、強力なモンスターを召喚する手段があるという。

 その手段で呼び出されたモンスターは誓約に見合うだけの特殊な能力を持ち合わせている。

 配下のモンスターを強化する能力であったり、多段変化する能力であったり、擬似的な不死であったり。


 配置されたドラゴンが持つのは周囲の材料を利用しての欠損修復能力だ。

 しかもこの周囲の材料というのは、生きているものすら対象とする。

 つまり……サメ機巧天使シャークマシンエンジェルも取り込まれてしまう。

 よりにもよって極上の素材として。

 取り込まれたら取り込まれただけパワーアップして襲いかかってくる。


 それに対して兄はどうしたかというと。

 吸収されない程度に距離をとってひたすら魔法を撃ち込み続けた。

 ダンジョンの壁や床が吸収できなくなるまで消費させ、モンスターの核を露出。

 それを魔法の狙撃によって破壊したのだ。


 対策が早い。

 前衛だったサメ機巧天使シャークマシンエンジェルが全部材料として取り込まれてすぐそれに気がつくのはこう……どういう発想だ。

 そう聞いてみると別のギミックがあるならまたその時に対処するつもりだった、と兄は答えた。


 結局のところ、数で圧殺できそうならする、いつもの兄だった。


 まあ見ていても仕方ないし、ガチャを回してしまおう。


 R・肉肉しい苗木


 出現したのは肉だった。

 脈打つ剥ぎ出しの肉、と形容するのが正しいだろう。

 なんとなく苗木に似た形をしているが、皮を剥がれた肉が表面を覆っている以上、これは肉だろう。

 なんの肉かはわからないが。


 で……これはなんだって?

 肉肉しい苗木?

 これを苗木だと呼ぶのか?

 この枝の形になっているだけの肉塊を?


 ……まあガチャがそう言っているのならそうなのだろう。

 用途が間違っていても、そのものの名称が間違っていたことは……なかったはずだ。

 用途がバグっているだけで、名称自体は間違えない。


 なので私は……余っている木材とボンドでプランターを作り、それに苗木を突き刺した。

 盛られた土から飛び出す肉塊にしか見えない。

 こころなしか震えているように見えるのが余計ひどい。


 うわー……育っても育たなくても嫌すぎる……。









 後日。苗木は2メートル程度まで成長した。

 その肉肉しい見た目はそのままに、肉の葉をつけ、内臓のような花を咲かせているのだ。

 グロい。

 あまりにもグロい。

 それだけで済めば良いのだが。


 なにか果実のようなものをつけているのだ。

 脂肪のような皮を纏っており、白い部分と赤い部分が入り混じっている。

 どことなく霜降り肉に見えるのがろくでもない。


 まあ兄は全く気にせずそれを収穫したのだが。

 2つに割ってみると中身はまるで内臓。

 分厚い肉に包まれて、内蔵のミニチュアみたいなものが入っている。


 兄はそれを躊躇なく焼いて、実験用モルモット代わりのサメもどきに食わせていた。

 せめて……せめてそんな得体のしれない肉を食わせるのを躊躇して……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る