第8話 村開拓再開
現在僕は現実世界のリサイクルショップにて寝泊りしている。
異世界には電子レンジと冷蔵庫を10個ずつ持っていく事に成功している。
1つの誤算は山賊を魔法のような武具と魔物のような右腕で殺してしまった事だ。
あの感覚を忘れる事が出来ない。
いくら魔物のような右腕だったとしても、その右腕は生きている人間をグシャと殺したのだから。
もう僕は普通の思考では許せなくなってきている。
ベッドの中でもがき苦しむ、すぐそばに山賊達の亡霊がいるような気がする。
はっとなって目を覚ますと、深夜の2時だった。
リサイクルショップの外に林介が1人で木刀を握って素振りをしていた。
その構えは剣道ではなくて、まるで戦争で使われる剣術のようだ。
僕はそこに向かった。
階段を下りながら、スリッパを履くと、林介がこちらを見ていた。
そういえば子供の頃から林介は運動神経抜群だった。
「兄貴、どうした」
僕は何から話をしてよいか考えながら、ゆっくりと重たい口を開いた。
「僕は異世界で人を殺したんだ。殺さない方法がなかった」
林介はこちらを睨みつけるのではなく、優しい眼で見ていた。
「悪い奴等を殺したなら、沢山の人を助ければいい、きっと親父ならそう言う、よし兄貴、チャンバラごっこをしよう」
「いいぞ」
深夜の2時から朝方の7時まで、
リサイクルショップの何もない駐車場には2人の大の大人の笑い声と気合の声が響いた。
「兄貴、倉庫に色々と資材を追加しておいた。あれがあればいろいろと研究ができると思う、あと、リサイクル品だが兄貴がいない時にお袋が買取しているよ、お袋も年齢が年齢だからさ、そろそろ考えないといけない、そこで、お袋に楽させようと思って、インターネット買取を始めようと思う、俺は自分の仕事が忙しいのにこんなことをしているなんて偉いだろ」
「は、はは、偉いね、助かるね」
「よしよし、このインターネット買取はこちらで任せてくれ、仕入れた家具とか道具は異世界にでも持っていけばいい、その代わり、異世界から色々と持ってこい、そうしないと赤字になるからな」
「そうするよ」
「じゃ、兄貴、やることあんだろ?」
「そうだな、林介も無理するな」
「もちろんだとも」
林介は外に出るととてつもなく高そうな車にのって道路を走って消えていった。
向かっている先は石狩方面かと心の中で思った。
母さんは食事の準備をしていた。
僕は母さんと二言三言話すと、リサイクルショップの為なんだと呟いて倉庫に向かった。
母親は文句を言わないけど、結構無理している事が伝わる。
母親から笑顔が消えていくことに僕は気づいていた。
これは早く考えないといけない、単純に助けるとか殺した事で悩んでいる場合ではない。
巨大倉庫から異世界扉を開いて、異世界に旅立つ事とした。
岩のような山の隙間にこの出口がある。
まぁ入り口にもなるのだが、そこから出ると村に向かって走る。
そこにはいつもの村人達が元気良く働いている。
あるものは木材を伐る木こりのように、あるものは畑で作物の種を植えて10分後に実が実るまで待ち収穫する、それを何回も繰り返す。
いつしか作物だらけになり、冷蔵庫が活躍している。
畑仕事をする人はさほど時間を要するわけではない、村人のネッティーが畑仕事のプロフェッショナルとなっている。
鍛冶屋ではジービズという老人が毎日のように武器と防具と農具を作る修行をしている。
そもそもジービズは腕の良い鍛冶屋であった。
しかし僕が持ってきた農機具、つまり鎌や桑を見て絶句したという、なぜならジービズが製造した桑や鎌は僕が持ってきたものより遥かに劣っているのだ。
ジービズはあまりのショックで考えに考えた。
その結果さらなる修行を積む事となった。
デニという10歳の女の子がいる。
いつもデニの面倒を見ているビニという老婆は僕にデニのことを教えてくれた。
まるで昔話をするように、両親は数日前に餓死で死んだのだと、デニは時折いなくなる。それは両親を探しているからだと、だからもしデニを見つけたら助けてあげてほしいと。
僕はその事について頷いた。
ビニはとてもにこにこしていた。
後この村には1人だけ気を付けないといけない人間がいる。
リンゴーンという名前の偏屈爺さんだ。
その爺さんはお金のことばかりを考えているようで、僕が持ってきた冷蔵庫と電子レンジを分解しようとした。
それを止めた村人のネンネに殴りかかろうとして、村人達に止められたそうだ。
リンゴーンは現実世界日本で言う所の卑怯で金の事しか考えない、最悪な大人の部類に入るのだろう。
そういった彼等の生活姿を眺めながら、その足取りはおのずと村長宅になる。
最近では毎日この世界に来ているし、いつも夕方、または夜中にはあの岩にある扉から現実の日本に戻っている。
ネンネは青いベンチに座って、青い空を眺めていたようだ。
こちらが近づいてくる事にあまり気付くそぶりをせず、僕がゆっくりと前にやってくると、彼女はこちらをにこりと笑って見つめてくれた。
ピンク色の頬っぺたは健康の証だった。
女性に失礼かもしれないけど、ふっくらとしてきた。
この村人達は飢えで苦しみ、1人また1人と餓死して死んでいった。
もし僕がこの世界に来るのが遅れていたら。
ネンネ村長も亡くなっていたのだろう。
とても悲しい事だと思った。
「おはようございます、ネンネさん、この村はとても居心地がいいです。昨日の山賊の一件はすみませんでした。嫌な思いをしたのではないのですか」
「気にしないでください、あのままだと、女性として立ち直れないでしょうけど、今はそれを助けてくれたあなたがおります。わたしはあなたに尽くすのみです」
「それはありがたいお話です。ですがあまり気にしないでください」
「ならあなたはわたしの事が好きではないということですね? そうですよね、あなたのような人が村人の村長になんて」
僕は戸惑って、一瞬で彼女の右手と左手を合わせて、
両手で包み込むようにする。
「僕は童貞です」
「は、はい」
「そして女性経験のない相当なバカです」
「そんなことは」
「こんな僕でいいのですか? あなたはすごい美人だ」
「そそんな、私はあなたを恋愛対象として見ています」
「あなたの恋愛対象なら僕はとてもうれしいです」
「は、はい、今後もお付き合いのほどをよろしくお願いします。わたしの夢は花嫁になること、とてもとても心の広い人と」
「僕はそんなに心が広いわけでもない、そして君の夫になれないだろう、僕は別な世界からきている。そこに君がいけなければ」
「ならこうしましょう、わたしはこの世界のあなたの付き添い人、そしてあなたは現実世界でも別なお嫁さんを作ればいい」
「僕はそんなにモテルタイプではないから、安心してください」
「女のわたしから見たら、あなたはすごく魅力的です。嫉妬しちゃいそうです。そうですね、これからもよろしくお願いします。ではご用件を聞きましょう」
「実は僕の実家はリサイクルショップを経営しているんです」
僕は村長のネンネさんにリサイクルショップの概念など、意味などを30分かけて説明した。彼女はそれを理解するまでとても時間がかかった。
「つまり使っていたものを再利用するということですね、それを商売にしていると」
「そうなんだ。ちょっと事情を説明する」
「はい、お願いします」
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