第114話 黙りなさい!

リンディエールは講堂に来ると、ここには来たこともないのに、思わず笑った。


「いや〜あ、懐かしなあ〜っ」


前世での体育館や講堂と見た目が同じだったのだ。


ざわざわと落ち着きない雑談の声が聞こえるため、興奮しながらも声を抑えれば生徒達には聞こえない。


「どこの世界も、学校の講堂は一緒かいっ。嬉しいやないのっ」


舞台があって、この上に演説者や司会の立つ演台がある。その演台の前面には、校章が描かれていた。


それを見て、リンディエールは少しだけ違和感を覚えた。


「わざわざ校章が描かれとるとかっ。カッコええなあ。けど、なんやろ……何かが気になったんやけど……まあ、ええかっ」


今は重要ではないだろうと直感し、頭の隅に追いやる。


「ふふふ。リン嬢はいつでも楽しそうですね」

「面倒な事とか嫌な事の前は、とりあえず勢いつけることにしとんねん。そのまま駆け抜けるんが吉や!」

「なるほど。参考にさせてもらいます」

「いや……未来の王様は、慎重さを持って欲しいねんけど……」


これはあくまで一般人の対応として聞いてほしいものだ。


マルクレースはクスクスと笑いながら手を差し出した。


「さあ、行きましょう。ここでリン嬢の紹介をしてしまった方が面白っ……やりやすそうですから」

「……そこまで言うたら、面白そうやって最後まで言いや」

「ふふっ。失礼しました。ついリン嬢の前では楽しくなってしまって」

「ええけどな……」


どうも、リンディエールと一緒にハメを外したがる人が最近多くなってきているようだった。


舞台袖に入ると、学園長がどう切り出そうかと悩んでいる様子だった。それはマルクレースも見越していたのだ。


「学園長。私に任せていただけませんか? 生徒総会としてしまえば、問題はないでしょう」

「あ、ああ……では、お願いする」

「お任せください。リン嬢。先ほどの映像を使わせていただくかもしれませんが」

「構いませんよ」


学園長達が居るため、リンディエールは口調を変えた。それに気付いてマルクレースやスレインが微笑ましそうに見つめてくるが、気にしたら負けと、何でもないように続ける。


「では、こちらをどうぞ。既に映像を流せる魔導具にセットしてありますので、あとは、この記憶玉に魔力を少し流すだけです」

「では、そちらは私が」


スレインが受け取った。


「では、始めましょう」


マルクレースとスレインが舞台に姿を現すと、ざわめきが一気に小さくなる。


「静粛に。これより、緊急の生徒総会を始めさせていただきます」


そうして始まったマルクレースの話。この学園の生徒としてあるまじきものがあったのだと説明する。


「身に覚えのある者は手を挙げてください」


しかし、手が挙がるのは少数だ。やられた貴族の子ども達ではない者も、周りを気にして手を挙げない。


「そうですか……では、証拠をお見せしましょう……これが教室の様子です」

「「「「「っ!!」」」」」


多くの生徒達が顔を青ざめさせた。バレないと思っていたのだろう。誰かが見ただけならば、家の力で口を塞げば良いと思っていたはずだ。


だが、これは映像。音声も入った確かな証拠だった。


「これは、皆さんのご両親にも是非見てもらいたいと思っております」


そうなるだろうとはリンディエールも予想していた。このままにしていては、この学園の意義を失ってしまうのだから。


何より、今だけではないだろう。彼らの父母世代も同じだった可能性がある。だからこそ、民のため、国のためと言っても素直に動けないのだ。


数年後に控えた大氾濫に対応するには、今の考え方ではいけないのだから。


「おっ、お待ちください!! これはっ、この日たまたま起きたことです!」

「そうです! わたくしも、いつもこんな事を言っているわけではありませんわっ」

「たまたま、今日はそれが目に付いたから、注意をっ。注意をしたのです!」


言い訳合戦が始まった。


舞台袖で見ていたリンディエールは、マルクレースとスレインが今にもブチギレそうになっているのが分かった。


「うわ〜、これは……まったくあかんな。ほれ、よお見てみい。言い訳するんは、みっともないやろ? 『人の振り見て我が振り直せ』言う言葉があんねん。きちんと覚えときい」

「……はい……っ」

「「「……っ」」」

「「っ……」」


生徒会のメンバーだけでなく、学園長や副学長も胸を押さえた。反省しているようだ。


一方、マルクレースとスレインは我慢の限界が来ていた。


「ッ、黙りなさい!! どこまで恥を晒すつもりだ!! この学園に通う意味も理解していないのが良く分かった!」

「Aクラスの者も、他人事ではありませんよ。その様子からすると、一部の者たちは該当するでしょう。授業の時は、私や殿下が居るからと、意識しているだけのようですね」

「っ、そ、それはっ……」

「も、申し訳ありません……っ」


優等生クラスと思いきや、全部がそうとは限らないようだ。


「まあ、反省するだけ良さそうやな」


どんどんヒートアップしていくのを耳半分で聞き流しながら、落ち着くのを待つことにした。


**********

読んでくださりありがとうございます◎

また来週です。

よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る