第074話 抜かりナシかい!!

リンディエールは、既に今でも十歳にしては小さな体をしている。食べていないからなんてことではないのは、この場の誰もがよく分かっていた。確実に影響は出てきているのだ。


「男と違ぉて、女は身長が低うても、それほど気にならん。体が年齢より小そおても、マイナスにはならんのよ」


この世界では背の高いモデルさんという需要もない。寧ろ、小柄で小さい方が好まれる。


「跡取りとも違うよって、急いで結婚する必要もあらへん。一般的な婚期を逃しても、見た目が若いんやったら、それも問題あらへんやろ?」

「た、確かに……見た目が若ければ、結婚を望まれる可能性はとても高いわ……」


ヘルナの言葉に、大人達が頷いた。男の方が歳上ということは多々ある。だが、逆はいい顔をされない。そこからしても、見た目は重要だ。


「まあ、もちろん子どもを産むなら、見た目だけやなく、肉体的な若さが必要や。やから、婚期ゆうもんがあるねんけど……肉体も若返っとるで、そこも問題あらへん。『不剛』では、百歳で母親もおかしないしな」

「あ、えっと……『不剛の迷宮』ね。レベル三百くらいの人たちの里だって……そう……百歳で母親……そうなのね……」


百歳が近い年齢であることもあり、ヘルナが少し強めの衝撃を受けているが、それで納得できたらしい。


「その辺まとめて考えた結果! 寧ろ、学園に通うようになる頃までに、五百を目標にしとるんよ。学園に入ったら、思うように時間が取れるか怪しいでなあ。学生の本分は勉強やし」


今よりは確実に自由な時間は無くなるのだ。今のうちにと考えるのが当然だろう。


「……リンなら転移で好き勝手しそうだけどな……」


ファルビーラの言葉に、今度は大人達だけでなく兄のフィリクスやレングまでもがしっかり頷いていた。これにリンディエールは少し目を逸らし気味にして続けた。


「ま、まあ、出来んこともないかもしれへんな……」


間違いなく、学園という閉鎖的な場所を窮屈きゅうくつに感じるだろう。大人しくしていられるとは、リンディエール自身も思っていない。


「それでも、そこが目標や! 目標を立てるんは、大事やで! あ、そろそろデザート用意しよか」


切り替えの早いリンディエールは、さっと立ち上がって用意を始める。グランギリアにアフォガード用の紅茶を淹れてもらうように頼んだ。


悶々と考えている大人達は静かだ。やはり、長い間、幼いままになるというのは、良くないのではないかと。


しかし、そんな大人達もデザートの前に陥落。思考も一気に前向きになった。


「そうだわ。良い方に考えましょう! 小さなリンちゃんをいつまでも可愛がれるのよ! これは良いことだわっ」


ヘルナがそう口にすれば、ファルビーラ達男性組も確かにと納得する。そして、リュリエールがセリンに笑みを向ける。


「羨ましいわ、セリン。子どもでいてくれる時間は短くて寂しいものよ? それが長く続くなんて素敵だわ」

「あ……そ、そうね……それはとっても……良いことだわっ」


セリンは気付いた。今までリンディエールの母親としてダメダメだった自覚がある。それをやり直す機会なのではないか。夫のディースリムへも嬉しそうに目を向けた。


「ああ、そうだ。それは良いことだねっ」


そんな両親の様子を見て、リンディエールは顔をしかめた。


「何する気やねん……」

「甘やかす!」

「甘やかすわ!」

「「全力で!」」

「……」


面倒臭くなりそうだと、無言で息を吐けば、ヒストリアがぼそりと告げる。


《面倒臭いな〜、適当にあしらうか……と顔に書いてあるぞ》

「バレとる!?」

《リンは今更と思うかもしれないが、もう少し子どもらしくなっても、構わないと思うぞ?》

「子どもらしいって……どんなんや? よお分からんわ」


子どもって、どうやって遊んでいるんだろうかと、本気で悩みそうになる。言っているヒストリアもよく分からない。それでもと、一応は提案する。


《あ〜……わがままを言ってみるとか?》

「『玩具欲しい!』とか? 自分で作るわ。金の無駄や」

《……誰かと一緒に遊ぶとか……》

「ウチの遊びについて来れるん、Bランク以上の冒険者くらいやないとなあ」

《……ドレスやおしゃれ……》

「オシャレて……アクセ作るんは好きやで?」

《なら、それを一緒に》

「一人で集中せんと、良いもんは作れん! 半端なもん作るんやったら、材料と時間の無駄や!」

《そこで損得勘定するな!》

「これはウチのアイデンティティ! 個性や! 切り離せる思うなや!」


子どもらしくない所が個性。だから仕方がない。


《素直に甘えろ!》

「それがよお分からん言うとんねん! そこまで言うなら、ヒーちゃんが甘やかしてみい!」

《任せろ! これでどうだ!》


リンディエールの目の前に、瞬時に本が積み上げられた。


《古代の魔法一覧、全二十巻だ!》

「最高や! 分かっとるやん!」

《次に、伝説級の武器だ!》


カチャカチャと音を響かせて並べられたのは、剣や弓、鉄扇や明らかな暗器もあった。しかし、どれもカッコいい。リンディエールの琴線に触れるものばかりだった。


「ヒーちゃん!! ウチ、ヒーちゃんのためならなんでもしたる!!」


感激し過ぎて崩壊気味だ。


そこでヒストリアは目を輝かせた。


《よし、ならコレを着てくれ》

「構へん! なんでも来いや! 待っとってや!」


リンディエールはそれを広げる前に、畳まれたその服をそのまま抱えて家の中に着替えのために入っていく。


そう。甘やかすだけではないのがヒストリアだ。


そして、思わず勢いでリンディエールが着たのは、フリフリのアイドルが着る衣装。再現率が半端ない。


「ちょっ、ヒーちゃん!? なんやねんコレ!」


文句を言いながらも一応着るのがリンディエールだ。


《おっ、可愛いぞ! なら、一曲!》

「一人で!?」

《この曲で》

「さすがヒーちゃん! 音源も完璧!」


嫌がりながらも褒める。これがリンディエールだ。ノせてしまえばこっちのものだとヒストリアは知っている。


《マイクもあるぞ》

「抜かりナシかい!! やったるわ!!」

《いいぞ! リン! これなら世界を狙える!》

「当たり前や!」


そして可愛く、笑顔もキラキラで歌って踊った。最初は唖然としていた一同も、半ばまで来ればもうノリノリだった。ヒストリアも凝り性だ。レーザーライトで会場もカラフルに光る。その盛り上がりに応えないリンディエールではない。


全力でやって楽しかった。


そう、ヒストリアが言いたかったのは、若いままの姿を長く保てるということは『アイドルを長くやれるよな』ということ。


これも有りだぞと、とても満足げだった。リンディエールもうんと頷いた。


ちなみに、称号に『きらめき☆あいどる』が追加されたのに気付くのは、この数時間後だ。


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読んでくださりありがとうございます◎

少々立て込んでおります。

また一週空けさせてもらいます!

よろしくお願いします◎

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