第071話 いっぱい食べてや〜
闇ギルドの関係者が屋敷に入り込んでいたと聞いて、ブラムレース王やクイント達も目を丸くする。
それが、リンディエールが死にかけたという、まだ幼い頃の事と察していても、驚くものだ。
事情を知らない子どもたちやリュリエール王妃は首を傾げいる。そんな中で、フィリクスが誰にと指定することなく、問いかけた。
「それはいつのことですか?」
ギリアンとシュルツに向いた視線を受け、二人はディースリムとセリンへ目を向ける。その二人は気まずげに目を逸らした。落ち度があったことを自覚しているのだ。
だから、答えたのはヒストリアだった。
《リンが五歳の時だ。嫌がらせのために、君を誘拐しようとした者が居たらしい》
「私を……」
《問題ない。計画した者も既に捕らえられているからな》
「そうですか……ならいいのですが……」
ヒストリアは、これによりリンディエールが一度は誘拐され、殺されそうになったのだとは明かさなかった。
これにディースリムとセリンがほっとする。だが、その態度をフィリクスは見逃さない。今、ここでは
《今は俺とリンの警戒網で、この領内には怪しい者は入れないようにしている。安心するといい》
「そんなことが……すごいですね。ありがとうございます」
《気にするな。少しでも住み心地のいい場所を目指しているだけだからな》
そうして、一通りの挨拶が終わった所で、食事だ。
「出来たで〜」
リンディエールの声に振り向いた面々は、いつの間にか出来ていた大きなテーブルの上に用意された料理の数々に唖然とした。
「……今まで何も無かったのに……」
第一王子のマルクレースの呟きに、皆が無言で頷く。
だが、すぐにフィリクスは納得の声をあげた。
「リンだけでもこれくらいのことはしそうだし、グランやプリエラがいるから、まあ、出来なくはないのかな」
「……へえ……」
慣れたフィリクスには
《リン達に慣れすぎるのは危険だぞ。君達はもうじき学園に通うのだろう? きちんとリンの周りは非常識だと頭の隅には置いておくようにな》
「……なるほど」
「たしかにそうですね」
マルクレースはそれもそうだなと頷き、フィリクスも笑って同意した。
「なんや? どないしたん?」
「うん? リンやリンの周りの人は、すごいことが出来るんだなって話だよ」
「そんなすごいことはしてへんけど、まあ、ええわ。早よおせんと、冷めるで!」
「そうだね。行こう、マルク」
「ああ。ユーア、レイシャ行こう」
「っ、はい」
「リンちゃんの手作り……楽しみ」
仲良く兄妹で手を繋いでテーブルへ向かう王子、王女に続いてフィリクスとスレイン、レングが歩き出す。
子ども達が動き出したので、大人達も移動を始める。
その間に、リンディエールは大きな給仕用の台車を引いてヒストリアの側に移動していた。
「ヒーちゃんもいっぱい食べてや〜」
《毎度言うが、そんなに食べられないからな?》
ヒストリアはその体の大きさに見合った量を食べない。食べてもよく食べる冒険者の大人の男性の食べられる量までだ。
リンディエールと食べる時は、多少大きめに作るが、一般的な量を出している。
「ほんま、見た目と違おて少食やよなあ。馬鹿みたいに作らんでええのんはええんやけど、こう……納得いかん感じがなあ」
《まあ、器とかがな……少し使いにくくはあるが》
「食べとるように見えんもんなあ」
体に合わせたお皿をリンディエールとしては使ってみて欲しいのだが、そうなると今度は食べる量に合わない。困ったものだ。
《俺が人化出来ればな……》
そう苦笑して、ヒストリアは自身の足にはまる枷に視線を落とした。
これにリンディエールはいつものように気楽に笑って見せる。
「心配せんでも、十年以内にはウチが外したるでな!」
《リン……いや、そう急がなくていい》
リンディエールがこれに答えようと、息を吸い込んだ時、レイシャの落ち着いた声が響いた。
「その鎖……外れないんですか?」
今まで気にしないようにしていた大人たちも、痛ましげにそれに目を向けていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回は一週空きます。
よろしくお願いします◎
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます