第2話 恋する乙女の猛アタック
運命の昼休み。
本来なら教室でちゃっちゃと昼食を済ませ、机に突っ伏している時間だ。
しかし今日は屋上にいた。
何故かって?1話を見てこい。
とにかく、いつもとは少し違った昼休みを送っていた。
そしてその元凶は---
俺の目の前でティータイムを始めていた。どこにそんなかさばるものを入れる余裕があるのやら…
……じゃなくって、どういう状況だよこれ!というか呼び出してきたの向こうだよな⁉︎ 俺にこんな美少女を誘う度胸はないし、もしそうしたなら晴天の霹靂事だし。
ただ、このままぼーーーっと過ごしていては何をしにきたのか、いよいよわからなくなる。
仕方がないのでこちらから話題を振る。
「それで……
すると今まで上品に飲んでいた紅茶の入ったカップをソーサーに置いて、徐に口を開いた。
「え?特に用事なんてありませんよ?」
俺はもう頭の中、大混乱だ。
なぜ用もないのに俺を呼び出す必要があったのか。住む世界が違う人の考えはよくわからないぜ!
「あら……困らせちゃいました?ふふ……ごめんなさい。用がないっていうのは嘘です♪」
ほえぇ〜、日本最高峰は人を弄ぶテクニックも一流なのか……。金輪際関わらないようにしないと!こういう人たちの相手は面倒臭いこと請け合いだし‼︎
もはや柑菜瀬さんそっちのけでこれからの学校生活設計図を作成し始めていたが、そこはさすが一流小悪魔の柑菜瀬さん。更なる爆弾をブッパしてきた。
ほんのり紅くなったほっぺをこちらに向けて、言い放つ!
「じ・つ・は、私平生さんのことが好きだから今日ここに来てもらったんです♬」
……は?ナニイッテンダコイツ。
「私平生さんのことが好きです!一応言っておきますけどこれ、ちゃんとした告白ですよ?キャー恥ずかしい♡」
「2度も言わなくていいから。ちゃんと聞いてたから。だから一回落ち着こう、ね?」
目が点になっている俺を尻目に、またまたキャッ♡とか言いながら1人顔をさらに赤らめ、艶やかな頬に手を重ねていた。
うん、可愛い。この子が俺の彼女とか俺が死にそうですわ。付き合っちゃおうかな?
……ってならないのが現実です。
柑菜瀬さんの嬉し恥ずかしな声音とは正反対に、俺の気持ちは沈みきっていた。
面倒臭いのに目をつけられた……
しかもバカップルもガッツリ現場を押さえていて、言質は既に取られている。
どうやってこの状況を切り抜ければいいんだ‼︎
モウイイヤ。
面倒臭いことは取り敢えず先送りにする。これが世の中で切り捨てられる大人のやり方だっ‼︎
=====
5限目の授業中、俺は授業の内容を聴き流しつつ、一旦保留にしたお昼の時の回答をどうしようかと真剣に考えていた。
まず最初に、お昼に返事をしなかった数時間前の俺に拳骨をかましたい。
……っ⁉︎ 誰だ‼︎ 『そんなに悩むなら、付き合えばいいじゃんか』とか軽々しく言ったのはっ‼︎
そうだよその通りだよ‼︎ 俺だって何も考えずに付き合いてーよ!でも少し考えればわかるだろ⁉︎
相手はほんのり青いように見える
付き合うなんて言えば、次の日に俺がナイフで刺されるわっ‼︎ 流石に俺もまだ死にたくはない。
まずいまずいまずい!もうすぐ返答期限の放課後が来てしまう……!なんとかして振らなければ、俺の生命が危ないっ‼︎
藁にも縋りたい思いで頼ったのは光輝だった。(というか光輝以外に頼れる友がいない…ことはないけど今は1番頼りになりそう)
授業中なので、バレないように用件を書いた紙切れを丸めて光輝目掛けて投げつける。
光輝も早速気がついたようで、内容を確認してすぐに何かを書き始めていた。なぜかこちらを見てニヤニヤしてきたのでやたらと腹が立ったが。
そして今度は光輝が俺目掛けて紙屑を投擲!
そこに書いてあったのは〜〜〜、、、
『末長くお幸せに〜w』
……?……。……⁉︎……‼︎
たった一文だけだったが、真剣に悩んでいた俺にとっては起爆剤に等しいものだった。
「よっしゃー光輝!喧嘩なら今すぐ買ってやる!表でやがれーーー‼︎‼︎」
渾身の怒鳴りを披露するが、光輝は怯むどころか笑いながら指で前を指していた。
そちらを見るや否や自分の置かれた状況を悟った。
「……平生くん」
「……はい」
「廊下で頭を冷やしておいで」
「……はい」
授業中であることも忘れて激怒した俺は、当たり前だが廊下に立たされた。
TPOは弁えないとねっ。あと、今のご時世に生徒を立たせるとか……。あの教師、後で体罰として訴えてやる!(心の中で)
=====
授業中に発狂した俺は授業終了後、生徒指導室にてこっぴどく叱られた。おかげで解放された時には5:30を回っていた。
まぁ、あれだけ憂鬱だった柑菜瀬さんからの呼び出しの時間はとっくに過ぎているので後顧の憂いなく家に帰れるというものだ。ある意味ではよかったのかもしれない。
帰り支度を済ませたまま放置された荷物を取りに行くために、人の気配が殆どしない廊下を進む。
夕陽が窓から差し込む中、紅く染まった教室にはなんと---
誰もいなかった。
当たり前と言っては当たり前なのだが、何分告白されたばかりだったのでそういうことも意識してしまう。
それに約束をバックレしてしまったので、罪悪感もあった……はずだ。
とにかく約束の時間は過ぎてしまっていた以上、残された選択肢は変えることだけだ。
帰り道の途中ふと小腹が空いたので、コンビニ寄ることにした。
何か季節限定の新商品お菓子とか並んでないかな〜
……などと安価な考えでコンビニに立ち寄った数分前の俺をタコ殴りにしたい。
何を隠そうたまたま入ったコンビニで、柑菜瀬さんが丁度レジに並んでいるところに鉢合わせしてしまったのだった。
=====
小腹を埋めるお菓子を買って出ると、予想どおり柑菜瀬さんが待っていた。
「奇遇ですね〜。平生くんもこのコンビニを利用するってことは近くに住んでるのですね。また1つ平生くんのこと、知っちゃいました♪」
か、帰りてー…
だが、返してくれる気配はなかったので、仕方なく話題を提供する。
「それで……、なんで僕のことを気にかけるんですか?僕の記憶では好きになってもらういわれはないんですが」
今まで気になっていたことをようやく聞くことができた。
ほら見たことか!やろうと思えば俺にだってできるんだ‼︎
え?『たかが質問ひとつで何有頂天になってんだ』って?
いいじゃねーかよ。人の喜びのツボはそれぞれなんだからよぉ(汗)
いつも通りの1人押し問答をしていると、ようやく先程の質問の答えが返ってきた。
「一目惚れに理由なんて必要ですか?」
「それは……、一目惚れに理由なんてないでしょ」
急にそんなことを聞いてくるのはどうしてだろう?
俺の答えに満足がいったのか、微笑んで言葉を続ける。
「ふふっ…つまりはそういうことです♬」
なるほど、要は俺に一目惚れしたということか。
……全く訳がわからん。何を拗らせたら俺に一目惚れする結果に行き着くのだろうか。
取り敢えずこのまま付き合ってしまっては、俺の明日を生きる希望が絶たれてしまうので断る以外に選択肢はない。
「それで、お昼のことだけど……。お断りさせてください」
答えを柑菜瀬さんに言った後になって気づいたが、フったらフったで『柑菜瀬さんを振るとか何様だよ、あいつ』とか言われるのでは……?考えすぎか。きっと考えすぎだ、そうに違いない。
「そうですか...。お友達からというのもなしですか?」
おおう…。ヤベェよ。これほどの美少女が上目遣いをすると一瞬で理性を持ってかれてもおかしくないレベルだ。
俺から理性を奪ったら、いよいよ霊長類の仲間入りだからやめて欲しいものだ。
理性を保つため、ツーっと視線を逸らす。
「まぁ、それくらいならいいけど…」
すると、さっきまでの態度とはまるで変わって、年相応な喜びを全身で表現していた。
簡単に言えば、嬉しくて飛び跳ねている感じだ。
学校では見たことがない彼女の一面に思わずときめいてしまった。が、考えが変わることはない。
「ねぇねぇ、早速なんだけど…お友達として連絡先を交換しましょう!」
先ほどまでの落ち着いた、丁寧な話し方はどこに行ったのやら…。おそらくは素はこの話し方なのだろうなぁ〜。
急なテンションの切り替わりに終始圧倒されていた俺は、言われるままに交換したのだった。
……帰り際、夕陽をバックに手を振っている姿は美しいを超えて幻想的だった。美術コンクールに出品したら間違いなく金賞ものだ。
=====
自宅にて。
俺は今までの人生で1番悩んでいた。
具体的には、明日から防刃チョッキを着ていくか否か、についてである。
『悩むところおかしくねっ⁉︎』と思うかもしれないが、そこは以前話した通りだ。
これほど激しく悩んだのは『きのこ派か、たけのこ派か』以来である。
どちらにしても、明日はいつも通りに終わらないことを覚悟していた。
……結局、何事もないことが保障された生活が1番安心できるんだぁ。
=====
翌日。
結局防刃チョッキは昨日のうちに手に入らなかったので、着ていくことは断念した。
いつも通りの時間に教室の扉を開けると、目新しいものを見るかのように視線が集中し、静まり返った。
こ、好奇心の視線が痛い……
一斉に向けられた視線を意図的に無視しようと、思考を今日の授業の予習に切り替える。
しかしそれを邪魔するかのように、隣の席に奴が現れた‼︎
「よう、翔人!昨日はご苦労だったな‼︎」
やはり光輝だった。
「おいてめー。昨日の怨み、今すぐ晴らしてもいいんだぞ。ああん?」
昨日怒られたのも、今日のこの教室の空気も、全て光輝が原因で間違い無いだろう。
……そう考えるとより一層腹が立ってきた。こいつ、ろくなことしねぇよな。
「まぁまぁ落ち着けって。それで、柑菜瀬さんとはどうなったんだよ?俺と桜の意見としてはお似合いだ、ってなったけどな」
ほう…これは一度、こいつらと俺への認識に関する会談をしないといけないようだ。
ただまぁ、それは追って連絡するとしよう。
今はこのスゲー居づらい空気を浄化するのが先決だ。
「逆告白されたけど断った。特に接点があった訳じゃ無いからな。ただ頼まれたんで友達になって連絡先は交換した」
ただ昨日あったことをありのままに伝えたのだが、何故か光輝は腹を抱えて笑っていた。
「あっはっはっはっは‼︎ 翔人らしくて安心したわ〜!ここでOKしてたらお前、今日が命日になってただろうからな」
やはり命の危機だったようだ。だが口ぶりからするに交際不成立だったことで首の皮1枚はどうにかつながったようだ。
その後、月姫も合流してしばらく雑談に華を咲かせていると再びクラスの喧騒が凪いだ。
このパターン…どこかであった気が……
恐る恐る入り口の方を見ると、台風の目…もとい柑菜瀬さんが立っていた。
「あのぅ、平生さんはいらっしゃい……。あっ‼︎ いますね。失礼します。」
もはや以前とは違ってぐいぐいと教室に入ってきては、一直線に向かってくる。
や、やめろー!これ以上俺の取り留めのない日常を破砕するなーーー‼︎
心の叫びも虚しく、彼女はとうとう俺たち3人が集まっていた机にたどり着いてしまった。
「昨日はありがとうね、翔人君。私のために時間を貰っちゃって」
「それはもう今更なんじゃ…って、今なんて?」
俺の聞き間違いだろうか?何かが昨日と違った気がする……
「えっ?昨日はありがとうって…」
「違うそっちじゃない」
「でも私、それ以外言ってないよ?翔人君…?」
聞き間違いなどではなかった。自分の聴覚の心配は無くなったものの、これまた頭が痛い問題だった。
題して、『柑菜瀬さん、1日であいつ(俺)との仲が進展しすぎじゃね?問題』だ。
いよいよクラスの男子の視線が殺気に変わり始め、グサグサ身体と心に突き刺さってくる。
すると、クラス全員の気持ちを代弁するかのように月姫は口を開いた。
「柑菜瀬さん、翔人くんと昨日何があったの?」
いきなり核心を突く質問だったために、柑菜瀬以外の全員(廊下にいる奴も含む)が固唾を飲んで答えを待つ。
「昨日…ですか?翔人君に告白して振られましたよ?そのあと友達になってもらいましたが」
この爆弾魔めっ‼︎
……さようなら、俺の安心安全スクールライフ。これからよろしくサバイバルスクールライフ!(泣)
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