猫はお昼寝中です

野中

第1話 盗賊の巣窟にいたら襲撃を受けています

丘の上。


煌々と輝く満月。


それを背景に、少年は鋼鉄の眼差しで宣告した。




「では、はじめる」




その、一言で。



天から降った。


火の玉が。


雨みたいに。



大地を、―――――命を蹂躙した。

唖然としてたヒトから死んだ。

実のところ、早々に死ねた彼らこそが幸運だったかもしれない。


複数の人体が、一瞬で炭化―――――蒸発。

痛みに悶える間もない。



刹那に数多の魂が冥府へ落ちた。



降った火が、どれだけ多かったか。

高温だったか。

速かったか。


思い知るには、それで十分。


判断が速い者たちは、いっせいに駆け出した。

すべてを見届ける前に。

火の雨を縫って。


少年の見た目をした相手が、化け物と知って。

恐怖に金縛りになったときに、命が散る。


勇敢とは程遠い。

鼠の気分だ。




幸か不幸か、私もその一人。




どうしてこうなったのか。

なんで夜中に、村の外へ皆が集まっていたか。

混乱の中、私は思いだす。








仲間が、一仕事終えて帰ってくる。








今回の獲物は上等―――――そう、報せが飛んできたから。

聞いた居残り組は、祝宴の準備すらして、出迎えたわけだ。

呑気に、油断し切って。


その、はずが。



私は臍を噛む。



ここは、盗賊の村だ。

とうとう、時が来たのだ。



蹂躙する側から、される側へ回るときが。



上等の獲物とだけ聞いてた相手。

そいつに、おそらく仲間は捕らえられたに違いない。


捕縛で済んだらまだ運がいい。

今、問答無用で死を与えるやりようから考えれば、既に彼らの命は果てている。




大気が、痛いくらいの静寂に包まれたのは一瞬。




いっきに、怒号と剣戟の音が膨らんだ。

いたのだ。

逃げず、立ち向かった仲間が。


これこそ、勇敢と言うべきか。


身の程知らずの蛮勇と言うべきか。


ただ、彼らの行動のおかげで分かった。

敵が少年一人ではなかったということが。

湧き起った足音と鎧の音から、襲撃者の人数が膨らんだのを察する。


これは、敵とすら呼べない。



私たちは、蹂躙される獲物。



必死で、私は逃げた。

できるだけ距離を、否、時間を稼ぐために。

ひとまず、村の中へ飛び込んだ。

だって。



逃げると言ったって。




どこへ。




第一私は、この村へも逃げてきた口だ。

なにも思いつかない。


逃げ切れるとも思えなかった。



なら?



私は、ひとまず姿を隠すべくひとつの家屋へ飛び込んだ。

間際にちらと遠くに見えた鎧や外套は。

驚きに、一瞬息を止めてしまう。


(ガユス軍?)


軍の、鎧だ。

確かに、ここは世界に名だたる大仙国ガユス。

もっと詳細を言えば、ガユスの東部に位置する迷夢の森辺り一帯の盗賊のアジトだ。


二年ほど前から、私はこの地の一室を借りていた。



つまり、盗賊の一味ってわけ。



盗みの仕事に、参加はしてはない。

どっちかって言うと、助けてた方。

ケガや病気の治療面で。


…うん、悪党たちを、ね。


ちょっと、医療と薬草の知識を持っていたから。

つまり、一味ってわけ。取り締まられ、粛清される側。

犯罪の見て見ぬふりもしてた。


取り締まられるのは、自業自得。



でも、おかしい。



たしかにここは盗賊のアジト。だからって、ここまで問答無用の掃討をする?

盗賊の取り締まりは警邏隊あたりの仕事の気がする。


国軍が出てくるほど、ここで巨大な犯罪が行われていたとは思えない。




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