第13話
トールとスミはレーヴェストを追うにあたって、まずは情報を収集することにした。
そのために
一番近くとはいっても、
「よし、あと少しだ」
街道の先に見えた大きな壁が見えてくる。
昔、大規模な戦争が続いた影響で、このあたりの大きな街はみな高い外壁に囲まれていた。
「だが、私はともかく、おまえはどうやって街に入るつもりだ?」
スミはすでに人間の姿への変身を済ませている。
隻眼はそのままで、全身を金属の鎧で覆い、腰にはサーベルを差している。
体格のいい厳格な騎士のような風貌だ。
長く波打った髪が一角獣だったときの面影を残している。
スミの指摘に、トールはズボンから指輪の形をした魔具を取り出す。
「それならまかせろ、じゃんじゃじゃーん。『
「おまえの魔具では変わるものを選べないのだろう?」
「それはアヴェニールに貸した『
これはちゃんと人間に変身できる。
こっちはもともと、俺が影武者用に作っといたヤツだ。
だから、外見だけだが、かっくいい昔のオデ様の姿に戻ることができる」
トールが自慢げに説明する。
「そうか。だがその指輪をどうやってはめるつもりだ?」
指輪は人間用で、どうみても
試しに小指にねじ込もうとするが上手くいかない。
その様子をみていたスミがじれったそうに「貸せっ」と、指輪を取り上げる。
「あっ、あにすんだ」
「別に指にはめなくとも発動するのだろう?」
「指輪の内側に触れて、
いっとくがオデ様の股間のエクスカリバーにはサイズがたりないぜ?」
「誰がそんなことをするか」
スミはおもむろにトールの鼻に手を伸ばすと、指を立て穴をあける。
「ぎょべっ」
そして再生が始まる傷口に指輪を押しつけた。
指輪は傷口にその一端を飲み込まれ、そのまま鼻にぶらさげられた。
「はまったぞ」
「おう、サンキュ~って、なにすんだテメー」
「いつまでもマゴマゴとしているからだ」
「だからって、いきなり指輪を鼻ピーにするとかありえねーだろ」
「ならば、いつまでもここで手をこまねき、アヴェニールを諦めるか」
「んなわけあるかい、あのおっぱいを思う存分むしゃぶりつくためにも行くぞ。
もちろんあのスカした野郎をぶん殴ったあとにな」
トールの意気込みを聞いたスミが足を止める。
そして、少し言いにくそうにトールの誤解を解く。
「その件だがな、タイミングを逃して言い損ねていたが……レーヴェストは女だぞ」
「マジで? レーヴェストって男の名前じゃねーの?」
驚いたトールが確認する。
スミがそういった冗談や嘘を言う男ではないことを知っているが、それでも信じがたかった。
「国による風習のちがいは知らんが、普通は男の名だな」
「浸かると女に変わる温泉にでも入ったのか?」
「そんなもの存在するか。
男のフリはしていたが、まあ、その……わかるんだ」
わずかにスミの鼻の穴が膨らんでいる。
「ということは処女か、でかしたムッツリロリコーン!」
余計なことを言ったかも知れないと後悔するスミ。
「略奪の楽しみが増えたぜい。
これで我が王国のおっぱい所蔵量は二倍になるぞ。
それじゃさっそく街に入ろうぜ。『トール様輝いてる~』」
それが
「…………」
「どうだ、懐かしいだろ、俺の格好いい姿だ」
得意顔でポーズを決めるトールであったが、その姿はおせじにも格好いいとは言えなかった。
大柄で弛んだ身体に、性格の悪そうな顔。
サイズは多少あまり気味になったものの、服装や『愚者の黄金』もそのままだ。
「……鏡を見てみろ」
ズボンから鏡を取り出し確認すると、そこには予定していたものとはまるで違う姿が写っていた。
「なんじゃ、こりゃ!?」
「顔に見覚えがある気がするな。
随分と古い記憶だが……ひょっとしてドロスか?」
「ドロス? あー、あの陰険じじいか。
そうか思い出したぞ。
魔具にはめ込んであった、オデ様の姿を記憶させた魔石を、別の魔具に転用すんのに外したんだった」
「それで、代わりにドロスの姿を記憶した魔石をはめ込んでおいたと?」
「ああ、ムカつくことがあったから、あいつの姿でイタズラでもしてやろうと思ってな」
頭をかきながらトールが応える。
「私も思い出したことがある。
以前、ドロスに妙な事をされてな。
後日、本人を問い詰めたが知らぬ存ぜぬとな」
「へー、まぁもう時効だから気にすんな」
「やはり、アヴェニールを探すまえにおまえとの決着をつけるべきかもしれんな」
「ところでよー、スミ。
おまえの変身って服とか鎧ってどうなってるんだ? おまえ一角獣のときはゼンラーだろ」
街へ向かう途中にトールが尋ねる。目立つ魔具はズボンの中にしまってある。
「私の変身は武具込みで行われているからな。
そもそも魔法だから術としてのの系統も根本的にちがうのだろう」
理論を理解し組み立てなければならない魔術とちがい、魔法はなんとなくで使える融通の利く力である。
その分、不確定要素が混じることもあるが、問題になることはまずない。
「へー。まぁ、おまえが服着ていようが、全裸だろうが、どうでもいいんだけどな」
「なら、最初から聞く必要はないだろう」
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