第44話:秋祭りの準備

 どうも、リオネッサです。

 昨日は熱を出していたそうです。

 起きたときから体が重いなーとは思ってたんだけど、まさか熱があったとは。

 お母さまは旅の疲れが出たのね、って言ってたけど、魔界に行ったときだってでなかったのに。むううう。なんか悔しい。ヴィーカだって寝こんだりはしてないのにさ。

 もちろんエルフィーにもアルバンさんにもものすごく心配された。

 魔王さまにも心配をかけてしまった。夕飯には回復していたから黙ってようと思ってたんだけど、エルフィーとアルバンさんが積極的に話していた。デスヨネー。

 お母さまの取り成しで今日一日中寝た切りという状況は避けられた。ありがとう、お母さま!

 それでも無理は厳禁ということで、畑仕事にはついて行けなかった。ちぇっ。

 その代わり、屋内で秋祭りの準備を手伝えることになった。

 秋祭りは秋の恵みに感謝して収穫を祝う祭りで、つまり収穫祭のようなものだ。

 夜になれば村中の家先に手作りランタンが置かれてきれいなのだけれど、その眺めが魔界にある森と似ているらしく、魔界人が迷いこんできてしまうことが昔はよくあったらしい。

 そんな魔界人に人間界の村だと気付かれずに帰ってもらうため仮装を始めたのが今でも続いている、らしい。今では魔界人が迷いこむことはほとんどなく、迷いこんできたとしても収穫したての特産品を売りつけるという強かな村になっている。

 お化けかぼちゃランタンは前日に作るので、今日は仮装衣装を作る手伝いだ。

 ヴィーカは妖精の女王様の仮装で、エルフィーは猫によく似たケット族の仮装で、オルフェオは屋根裏小人の仮装で、お父さまはなんと魔王の仮装をすることになってしまったそうだ。

 村の顔役だし、わたしが魔王さまのところへ嫁いだし、ということで村の会合でノリノリなみんなに逆らえず、了承してしまったそうだ。

 してしまったと言うか、させられちゃったんだろうなあ。お父さまって強く出られないところがあるし。


「ヴィーカとオルフェオは去年のを直せばいいし、そんなに手間はかからないよね?」

「そうね。その分エルフィーの衣装に力を入れちゃおうかしら」

「いいね。うんと力を入れよう」

「ふふ、そうね。それで、リオネッサはなんの仮装をするのかしら」

「えっ。あー……。わたしは結婚してるし、熱を出したし、見学ということに……」


 お母さまはにっこり微笑んだ。うっ、まぶしっ。


「去年も一昨年もその前も幽霊族の女の子、って設定で同じ衣装だったものね。今年は豪華にしましょうね。

 エルフィーとお揃いのケット族で、その女王にしましょう。リオネッサにもらった布をヴェールにすればそれっぽく見えると思うの。エルフィーと同じ白猫の耳としっぽをつくりましょうね。女王には羽根があるのだったかしら」

「あのー……、わたしは今年も幽霊族ということで……」

「リオネッサのおかげで衣装が豪華になるわあ、ありがとう。久々に私も仮装しようかしら。既婚者が仮装しちゃいけないなんてことはないものね?

 リオとエルフィーと私とでお揃いにしたら楽しいわよね」


 あう。これはもう止まらないぞ。

 三人でお揃いは楽しいだろうけど。これ以上ごねたらもっと派手な衣装にされそうだ。


「わかりました。ケット族やります。エルフィーとお母さまとお揃いなんてすごく嬉しいなー!」

「ふふふふ。わたしもすごおーく嬉しいわ」

「でも女王はイヤで」

「何か言った?」

「イイエ、ナニモ……」


 お母さまには敵わない……。

 エルフィーはかわいいからいいけど、わたしがケット族やってもなあ。しかも女王。お母さまがいっしょに着てくれるのはありがいけれども。

 こうなったらなるべく目立たない衣装になるようにしようっと。

 お母さまの言うとおりに作ってたらただでさえ女王って目立ちそうなのに、ぜったいハデハデになるだろうし。二人の衣装をハデにしてわたしを埋没させるしかないね。よし、やる気出てきた。

 手始めにエルフィーのフリルを増量しておこう。ヴィーカのもこっそりと足しておいて……お母さまのも……。

 これでわたしの分の布はなくなったはず……。


「あら、布が足りなくなっちゃいそうね?」

「ええそうですね! でもエルフィーのもヴィーカのもお母さまのも足りてるから問題ありませんね!」

「布ならたくさんあるから足しましょうねー」

「あっ、ハイ」


 おみやげで大量に贈った布が裏目に出るとは……! ナンテコッタイ! やっぱりお母さまにはかなわないなあ……。

 その後、お母さまの監視を何度かかいくぐろうとしたけれど、ムダだった。

 向かい合わせで座ってるしね……。そりゃばれるよね……。

 エルフィーとヴィーカとお母さまはいいとしてわたしまでムダに豪華に……。誰が得するのコレ……。


「これならきっと魔王フリッツ君も喜ぶわね~。

 可愛い奥さんと可愛い子どもが可愛いケット族の恰好をしてるんだもの。かわいい×かわいい×かわいいでかわいいが無限大ね!」

「そ、そうかなあ……」


 正直、お母さまがなにを言ってるのかあんまり理解できないんだけれども、楽しそうだからいっか。

 魔王さまが喜ぶのかなあ、このかっこう。

 途中でちょくちょく休憩をはさみながらもそれぞれの衣装が仮ぬいまで仕上がった。エルフィーたちが帰ってきたら寸法が合ってるかどうかを確かめて本縫いだ。

 それまではやることがないのでのんびりお茶を飲みながら世間話や準備するものについておしゃべりをしていたらレアおばさまやってきた。大量の布の束を抱えて。


「今年もお願いしマース!」


 ラシェに来たばかりのころにウケていたという天界なまりで、いつもの調子で布の山を差し出してくる。

 そう。おばさまは裁縫が苦手だった。

 それなのに凝った衣装にしたがるので、フルミネ家の衣装はほとんど裁縫の得意なお母さまのお手製だった。

 黙っていれば美人なゼーノや、渋くてかっこいいおじさんに凝った衣装を着せたくなる気持ちはわかるけれど、それで毎年きれいな細い指に刺し傷をつけるのは世界の損失につながるのでは、と思っている。

 楽しそうなおばさまを見たらなにも言えないんだけどね。


「今年は魔王君からたくさんおみやげもらったおかげで衣装に力を入れられるわ」

「ありがたいわよね」


 楽しそうに談笑するお母さまとおばさま。ほんとに楽しそう。

 机の上にはゼーノとおじさんが着ることになる衣装の設計図が広げられている。

 恐ろしいことにゼーノの衣装はわたしたちにも負けないくらい布を使いそうだ。

 いったいなんの仮装をするんだろう。まだ怖くて聞けてない。

 おばさまはゼーノに話をとおしたのかな。ゼーノが力いっぱい拒否する未来が見えるような気が……。

 これって止めておいたほうがいいのかなあ……。いいよねえ。あとでぜったい八つ当たりされるもん。なんで止めなかったー! ってぜったいに言われる。

 ゼーノですら止められない二人をわたしが止められるわけないのに。

 でも言うだけ言っとかないとね。ちゃんと止めたって事実が大事だと思うんだ。


「おばさま、今年は何の仮装なんですか? おじさんは鬼人で、ゼーノは………ケット族カナー」

「ウフフ、ハズレよリオネっちゃん。これは魔界の花園にいるというエンメルガルトなの!」


 ばあーん! と効果音が付きそうな勢いで設計図を掲げたおばさまはこの上なく楽しそうだった。後光が差しそう。

 エンメルガルト。

 それは常春のヴァーダイアを治める領主の一人で、緑の女王とも呼ばれる植物系魔界人の頂点に立つ人だ。

 そう。女王。

 いちおう言っておくけど、ゼーノは男だ。黙っていればきれいな顔をしているけれど、男だ。間違いなく。

 そっかー……。ゼーノは今年も女装かー……。

 設計図を見るに、広い肩幅やのど仏など男の特徴をばっちりうまく隠せる仕様になっている。

 うーん、今年も美女になりそう。ヨカッタネー。


「おばさま、ゼーノは男だし、もう子どもじゃないし、本人も嫌がってるし、今年からはおじさまといっしょに鬼人の仮装でもいいんじゃないかなー、なんて思うんですけど……」

「ふふふ。あの子が似合ううちは止める気ないわ~」

「ゼーノってばほんとによく似合うものねー」

「ねー」


 仲良く笑いあって衣装を、エンメルガルトの衣装を縫い上げていくお母さまとおばさま。

 やっぱり止められなかったよ……。ゴメン、ゼーノ。

 その後、完成したエンメルガルトの衣装を見たゼーノが暴れたけれど、おじさんに取り押さえられた。


「お前が一日我慢すればしばらくレアの機嫌がいいんだぞ! 耐えろ!」


 と説得され、バターにでもなるのかと言いたくなるくらい汗を垂れ流しながら、ものすごく嫌そうに了解していた。

 うん。秋の風物詩。

 これを見ると秋祭りが近づいてきたって感じがするなあ。


 ちなみにゼーノの衣装はわたしたちの中で一番豪華になりました。

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