-第一章二十六節 ティターニアと妖精の友人と妖精の悪戯-



ティターニアの魔力を無事回復させてリトルガーデンの平穏を取り戻した


マサツグは、リトルガーデンを離れて湖の淵にある花畑へとフラフラ移動して


大の字で眠ってしまう。ゲーム時間内での完徹とは言え疲労感がマサツグに


襲い掛かり、更にリトルガーデンから一坪の日だまり花畑までの瘴気の負荷付き


往復マラソンに加えて元凶のフジツボ討伐と色々あった為、疲労はピークに


来ていたからである。そしてマサツグが眠りに就いてから六時間後…



「……zzzzzz……」



__ヒュウウゥゥゥン!…



「……ッ!…あ、居たのね!…マサツグ起きるのね!!」



マサツグが花畑で眠りに就いたのが約6時頃…それから六時間後と言う事で


ゲーム内時間では12時と言った頃、カチュア達がマサツグの元まで飛んで


来ると用件が有ると言った様子でマサツグに声を掛けては腹の上に乗って、


マサツグの胸を叩いて起こそうとするのだがマサツグは余程疲れているのか


全然起きない。



「…zzzzzzz……」



「……むぅ~~~!!!…


マ~サ~ツ~グ~!!!起きるのね!!


ティターニア様が来てるのね!!!」



__ペチペチ!…ペチペチ!…



「うぅ~~ん……休日位はゆっくり寝かせてくれよ…くまさん…」



「ッ!?…誰がくまさんなのね!?…


その熊さんはもしかして熊五郎の事なのね!?…」



全然起きないマサツグにカチュアが膨れっ面になっては何が何でも起こして


やろうと言った様子で顔の方に移動し、頬を叩いたりと色々な事をして


マサツグを起こそうと頑張り始める。それに対してマサツグは誰かと


勘違いした様子で寝ぼけては止めるよう訴え掛け、その一言を聞いたカチュアが


更に躍起になり始めると、カチュアと一緒になって着いて来たティターニアが


カチュアの仲裁に入る。



「あぁ!!…カチュア!…


まだ眠っていらっしゃるのなら無理に起こさなくても…」



「駄目なのね!!ティターニア様!!…


女王様が来ているのに起きないなんて言語道断なのね!!


マサツグ!!マサツグ!!マサツグ!!マサツグ!!マサツグ!!…」



__ペッチ!…ペッチ!…ペッチ!…ペッチ!…ペッチ!…ペッチ!…



「んん~~~……」



ティターニアがオロオロとした様子でカチュアに大丈夫と伝えるのだが、


カチュアはティターニア自ら来ていると言うのに起きないのは無礼と


若干怒った様子で言ってはマサツグを起こそうと躍起になる。そして


マサツグの頬を非力ながらも往復ビンタで起こそうと軽い音を立てつつ


叩いて居ると、マサツグが眉間にしわを寄せながらその頬を叩いて来る


元凶を捕まえようと右手を伸ばし、カチュアを簡単に捕獲する。



__スゥ……ガッシ!!…



「むぎゅ!!…マ…マサツグ!!起きたのね!?」



「……そりゃあんだけペチペチされれば起きるっての…


お陰でまだ眠いわ…ふあぁ~~…あぁ!…」



マサツグがカチュアを捕まえ、カチュアが軽い悲鳴を上げてマサツグが


起きた事に声を掛けると、マサツグはまだ眠そうな表情をしつつ


カチュアのせいだと、目が覚めたと答える。そして欠伸をしては頭を


掻き毟りぼぉ~っとし始めると、マサツグに捕まったままのカチュアは


腕を振り上げてマサツグに文句を言い始める。



「…起きたのは良いからいい加減放して欲しいのね!……


私はお人形じゃないのね!!…」



「……てか何でお前もそんな簡単に捕まんの?…


俺より機敏に動けそうなもんなんだが?…」



「…それは!!……?……良く解らないけど…


気が付けば吸い寄せられる様に捕まってしまうのね…


マサツグの手…異様なまでに安心感が有ると言うか何と言うか…


…如何してなのね?…」



「それはこっちの台詞なんだが?…」



カチュアが必死に文句を言う中、マサツグはまだ眠そうにしながら自身の手に


捕まるカチュアを見詰めるとある疑問を持ち始める。そして思い立ったが吉日と


言った様子で寝惚け眼のままカチュアに何故簡単に捕まるのか?と呆れた様子で


質問をすると、カチュアは勢いのまま質問に答えようとするのだがふと自分でも


不思議と言った様子で暴れるのを止めて、少し考えた後自分が感じた事を正直に


話しては逆にマサツグへ如何してと質問をする。その質問を受けてマサツグが


戸惑った様子で返事をして居ると何故かティターニアが微笑みながら羨ましそうな


視線でマサツグ達を見詰めており、二人が気付かないままに悩んで居ると


カチュアが本来の目的を思い出した様子でマサツグに話し始める。



「うぅ~ん……ッ!?……ッ!!…


そうじゃないのね!!…ここに来たのは違う理由なのね!!」



「え?…」



「ティターニア様がマサツグに今回の依頼のお礼にって!…


プレゼントを用意したのね!!」



「え?…」



カチュアの台詞にマサツグが戸惑い声を漏らして居ると、カチュアは


ティターニアの居る方を指す様に腕を伸ばし、マサツグの視線を


ティターニアの方へと移させる。マサツグもそのカチュアの行動に従い


戸惑いつつも視線をティターニアに移すと、ティターニアは


マサツグの方へと飛んで移動して来ては綺麗な一枚の羽を差し出す。



「…どうぞこれを……」



「あ…どうも……あれ?…この羽根って……」



__キラキラ…キラキラ…



{はて?…何処で見たっけ?…


ついさっき見た様な…}



マサツグがティターニアから羽根を受け取ると、その羽根に見覚えが有るのか


マジマジと観察し始める。その羽根を日にかざすとキラキラと輝き七色の光を


反射させる…透明なアレキサンドライトオオアゲハの様な羽で、つい最近見たぞ?


と言った様子でマサツグがジィ~っと見詰めて居るとある事に気が付く。それは


妖精の羽である事であった…妖精の羽は如何やら一人一人が被らないよう違う


蝶や虫の羽をモデルに使っているらしく、その羽根だけで誰の羽なのかを


特定出来る様になっている。例えばカチュア…カチュアは蜻蛉の様に薄く長い


羽根をしているのだが、ポリンはモンシロチョウと羽根は小さく丸い…その他の


妖精の背中から見える羽根もテントウムシだったり、カブトムシだったり、


更にはハチと意外と種類が豊富。中でも多く見受けられたのが蝶の羽系統なのだが、


この羽根だけは覚えが有ると言った様子でマサツグが見詰め、ふとチラッとだけ


ティターニアの方を確認するとそのティターニアの背中からは同じ羽が生えて


居る事にマサツグが気付く。



{……ッ!あぁ~!!思い出した!!…あの時羽を広げていたっけ!…


道理で見覚えが!……って、あれ?…まさか……}



「ティターニアさん?…この羽根ってもしかして…」



マサツグが受け取った羽根がティターニアの羽と良く似て居ると言う事に


気が付き、やっとモヤモヤが無くなったと一人スッキリするのだが直ぐに


違和感を覚え始める。ティターニアがこれを渡して来たって事は今は


如何なっているのだ?…と、もう一度ティターニアの背中を確認しようにも


羽根は仕舞われており確認が出来ず、マサツグが恐る恐るティターニアに


羽根について質問をすると、ティターニアは何故か照れながら頷き返事を


する。



「……はい…私の羽です…


……あの…出来ればそんなにマジマジと見詰めないで下さいませ…


恥ずかしい…です…」



「あ、そうなんですか………ッ!!…


ティターニア!!まさか自分の羽を!!!」



「え?…ッ!!…あぁ!!…違います!!違います!!…


確かにその羽根は私の羽で!…でも違って!…ッ!!…


私の羽はこの通り!!…」



__バッ!!…



恥ずかしいと言っては両手で自身の顔を隠して耳を赤くし、それを聞いて


マサツグが戸惑いつつも返事をするのだが、直ぐに心配した様子で


ティターニアに詳細を尋ねるのだが、ティターニアはマサツグの言葉を聞いて


慌てた様子を見せると違うと訂正し始める。しかし完全にテンパってしまって


いるのか言い訳にならず、最終的にティターニアはハッと思い付いた様子で


マサツグに背を向けると自分の羽が満足について居る事を見せて事無きを


得ようとする。そしてマサツグもそれを見てホッと安心して見せるとマサツグが


何を心配したのか理解した様子でカチュアがマサツグにツッコミを入れる。



「マサツグ!…幾ら何でもそんな恐ろしい事はしないのね!?…


怖すぎるのね!?…」



「だから慌てて聞いたんだろうが!…


はあぁ~びっくりした……」



「も…申し訳ありません!…驚かせてしまって…


我々妖精達には年に一度羽が生え変わる時がありまして、


その羽根は昨年の私の羽です…


それをお持ちになって頂ければこの迷いの森の魔法の影響…


私の魔法を無効にしリトルガーデンに辿り着けるようになります。


貴方様は私達妖精達を救って下さった命の恩人です!!…


その友人の証としてその羽根を送ろうと考えた次第なのです…


…もし何か貴方様が困った事があれば我々を頼ってください…


私達に出来る事は少ないかもしれませんが…それでも!!…


貴方様のお力になれれば私達も喜ばしい事なので!……」



    -------------------------------------------------------------------------------


                 妖精女王の羽


                   レア度 S


      妖精女王の生え変わりの羽。幾ら抜け落ちた羽根とは言え


      その羽根に宿る魔力は絶大で、羽根を媒体に極大魔法を


      放つ事が出来る位の容量を持っている。これを持っていれば


      迷いの森で迷わずに妖精の国…「リトルガーデン」に辿り着ける。


    この羽は妖精女王の信頼を勝ち取った者に送られる、最上級の勲章である。


    これを手に援軍を願えば妖精達が助けてくれるかも?…


              重要アイテムに付き放棄不可。


    -------------------------------------------------------------------------------



{最上級の勲章と来ましたか!…


……とんでもない物を受け取ったな…}



カチュアのツッコミにマサツグが戸惑いつつ、違った事にホッと胸を


撫で下ろして居るとティターニアがその羽根の詳しい説明をマサツグに話すと


同時に、如何言う物なのかの説明も話し始める。初めての人間の友人として


マサツグが認められ、その証として羽根を送ると言われるとここでその羽根が


アイテムとして機能したのか説明文が表示される。その文章に書かれてある


最上級の勲章と言う言葉にマサツグが若干戸惑うも、大事にアイテムポーチの


中に仕舞うとティターニアが徐にモジモジとし始める。



__モジモジ…モジモジ…



「……ん?…如何かしました?…」



「あっ!…い、いえ!…その…あの!……ッ~~!!!…


…あのマサツグ様?少しお願いをしても良いでしょうか?」



「……?…はいはい?…」



急にモジモジとし始めたティターニアにマサツグが気が付くと不思議そうに


尋ね始め、そのマサツグの問い掛けにティターニアがしどろもどろと言葉に


詰まった様な葛藤している様な…顔を赤くして戸惑いを見せて居ると、意を


固めた様子でマサツグにお願いをし始める。そんな反応を見せるティターニアに


マサツグが何事かと思いつつも返事をし、その要件を聞こうとするのだが


ティターニアは何故か顔を赤くしたまま俯いてはボソボソと聞き取り辛い声で


喋り始める。



「……して……欲しいのです…」



「……今何と?…」



「ッ!?……ッ!!…


私を……として……欲しいのです…」



「……あぁ~っと……ッ!」



__スッ…ガッシ!……ポンッ!…



ティターニアは間違いなくマサツグにある事をお願いしているのだが断片的に


しか聞き取れず、何を如何して欲しいのかが分からない。仕方が無いので


マサツグがティターニアに何と言ったのかを不思議そうな表情で尋ね返すと、


ティターニアはショックを受けた様子で顔を赤くしては再度意を決した様子で


マサツグにお願いごとを口にする。しかしその声もやっぱり断片的にしか


聞き取れず、マサツグが困惑した様子で悩み始めると直ぐにハッと思い付いた


のか徐にティターニアに手を伸ばしては優しく掴んで自身の右肩に乗せ、


耳元で喋るようティターニアに話し掛ける。



「ゴメン!…やっぱりはっきり聞こえないから耳元で頼む!…」



「ッ!…は、はい……


{先ほどやって貰ったのだけど…}」



「ん?…まだ駄目か?…」



「ッ!?…い、いえ何も!!……ッ!!…では!…」



マサツグの計らいにティターニアがビクッとした反応を見せるもマサツグの


言葉を聞いて理解を示すとボソッと何かを残念そうに呟いて見せる。その声が


マサツグの耳に入るとマサツグは聞き取れないと耳を更に傾け、ティターニアが


慌てた様子で何でもないと答えると三度決意を固めた様子でお願いを口に


し始める。だがそのティターニアのお願いと言うのは如何にも奇妙なもので、


マサツグがそのお願いを聞いて固まってしまうと聞き間違いかと悩み始める。



何故なら…



「あ…貴方様のその手で私をギュッと!…全身を手で握って欲しいのです!!…」



「………へ?」



耳元でもその声はか細く、羞恥に耐えるも消えてしまいそうな声で危うく


聞き逃しそうになり、何より全身を握ってくれ等と言う奇妙なお願いにマサツグは


困惑する。握る?…え?…如何言う事?…寿司みたくって訳では無いのは確か…


でも他に握るって……サイクロプスみたいに?…アレを受けたいって事?…


…何故?…そんな困惑がマサツグの頭の中で飛び交い真意に悩んむ奇妙な


感覚に襲われていると、ティターニアは詳しいお願いの理由をマサツグに


話し始める。



「実は……私があの広場に落ちそうになった時…


マサツグ様にこの身を受け止めて頂いた時!…


何とも言えない充足感と幸福感に包まれた感覚を覚えたのです!…


あの大きな手で包まれてみたい!…激しく握られてみたい!!…


そんな卑しい考えがずっと!!…


あんな感覚を覚えたのは生涯で初めてです!…」



「お…おう……卑しい?…」



「ですから如何か!…如何か一度だけでも!!…」



「べ…別に構わないけど……本当に大丈夫?…」



顔を赤くして目を潤め、両手を重ね合わせてマサツグに乙女の表情を見せるも


内容はまさかの奇妙な物。そんなお願いと願望にマサツグが終始困惑するのだが


ティターニアのお願いを聞くとティターニアを右手で掴み、自身の前に持って


来ると左手のカチュアを放して両手でティターニアを包むよう握る。その様子を


カチュアが戸惑った様子で見詰めるのだが、マサツグが最終確認をティターニアに


取るとティターニアは顔を赤くし目を閉じては小さく頷いて見せる。既に両手で


包まれて居る事に幸福感を覚えて居る様な表情を見せるティターニアにマサツグが


戸惑うながらも、潰さないよう手に力を入れ始めるとティターニアが声を


漏らし始める。



__……ぎゅぅぅ~……



「ッ!…あぁ~♥…」



「えぇ~……」



「ティ!…ティターニア様!?…」



ティターニアが声を漏らすと同時に恍惚の笑みを浮かべ、その表情にマサツグが


戸惑いっぱなしでティターニアを握って居ると、カチュアが戸惑った様子で


ティターニアの無事を確認し始める。ティターニアを握るマサツグの手の周りを


グルグルと飛び回って戸惑った様子を見せる中、マサツグもティターニアを


受け止めた時の事を思い出してはある事に気が付き心の中でツッコミを入れる。



{えぇ~~……


翌々思い出してみれば確かあの受け止めた時は手を開いて受け止めたと思うけど?…


握った覚えは無いが?…}



「マ…マサツグ何をしているのね!?


ティターニア様を解放するのね!!!」



「え?…あ、あぁ!?…」



マサツグが一人あの時の事を思い返しては如何してこうなった?…と疑問を感じ、


カチュアが慌てた様子でティターニアを開放するようマサツグに訴え掛けると、


マサツグは戸惑いの声を漏らす。そしてティターニアの方に振り向くと然程長い


時間力を入れて握っていないのに、風呂にでも入って居る様な惚けた様子で


ダランとした表情を浮かべるティターニアの姿が目に映ってはピクピクと


痙攣している様子も見て取れた。



__ピクピク!…ピクピク!…



「あぁ!?…ティターニア様!?……ッ!!!…


マサツグこれは如何言う事なのね!?…反逆なのね!?…」



「えぇ~!?俺が悪いのかよ!?…」



「カ…カチュア?…わ…私は大丈夫です…


ただ余りの幸福具合に体が…あぁ♥…」



マサツグが慌てて手を放し落とさないようティターニアを両手で抱えるのだが、


ティターニアはマサツグの手の上で横になったまま痙攣しては起き上がる様子を


見せないでいた。その様子にカチュアが激怒するようマサツグに文句を


言い始めてはマサツグが慌て始めるのだが、ティターニアが倒れた様子のまま


仲裁に入ってはカチュアがティターニアの心配をし、ティターニアはある事を


確信した様子で話をし始める。



「ティ…ティターニア様!?…本当に!?…


本当に大丈夫なのね!?…」



「え…えぇ…大丈夫です…ですがこれでハッキリとしました…」



「な…何が?…」



「あぁ♥…間違いありません♥…


このお方は間違いなく…我々妖精達を駄目にする力をお持ちになっています…♥」



「如何言う事!?…」



ティターニアが一人痙攣しながら何かを悟った様子で話し始めてはカチュアが


心配した様子でティターニアに質問をし、その質問に恍惚とした笑みを浮かべては


マサツグを何かしらの駄目にする系の物として話し始める。その話を聞いてすかさず


マサツグがツッコミを入れるのだが、カチュアが何故か納得した様子で便乗すると


ティターニアの話に乗っかり始める。



「ッ!…あぁ~!…だから私も直ぐにマサツグに捕まっちゃうのね!!」



「いや関係ねぇよ!?…てかカチュア!!…


その納得の仕方はおかしいだろうが!!……はあぁ~……


とにかくこの状態で放置する訳にも行かないから一旦は広場に向かうか…」



カチュアの言葉にこれまたマサツグがすかさずツッコミを入れ、更に色々と


納得する所じゃない!と二重にツッコミを入れては一人溜息を吐く。そして


完全に溶けているティターニアを安静にさせようと両手にティターニアを


抱えたままゆっくりと立ち上り、リトルガーデンの広場に向かい歩き出しては、


カチュアがマサツグの肩の上に乗って来る。明るい内に湖の外周を歩いて


昨日はハッキリと瘴気で見えなかった湖の全体像も大分瘴気が抜けたのか


湖がハッキリ見えると同時にリトルガーデンの中央の樹もハッキリと見える。


そんな事を眺めつつマサツグがティターニアを両手に乗せて歩くのだが、


昨日のマラソンが効いているのか足に違和感を覚える。ゲームの中で筋肉痛?…


等と考えつつも広場に辿り着くとポリンが慌てた様子で広場内を飛び回っており、


マサツグを見つけるなり一目散に飛んで来る。



「…あッ!…マサツグ様ぁ~!!!ティターニア様を知りませ!…うわぁ!?…


ティ…ティターニア様!?…一体何が有ったのですか!?…」



ポリンがマサツグの方に飛んで来るなりティターニアの居場所について尋ねようと


声を掛けるのだが、マサツグの両手からはみ出るよう抱えられ笑みを浮かべたまま


グッタリしているティターニアの姿を見つけて更に驚き戸惑う。その反応から


してカチュアとティターニアは周りの者達に声を掛けずに出て来た事が伺える


のだが、いざ行方不明のティターニアが帰って来たらグッタリして帰って来た事に


ポリンも慌てるだろうとその様子を見てマサツグが理解して、ポリンの問い掛けに


マサツグが苦笑いをしながら困惑する。



「あぁ…あははは……本当に何が有ったんだろうか?……」



「え?……と、とにかくティターニア様をこちらに!!…


あぁ!…でも!!…」



__プルプルプルプル…



マサツグからの返答に理解できない様子でポリンが戸惑うもとにかくティターニアを


安静にさせようと考えたのか、ポリンがティターニアを引き取ろうとするのだが


ポリンの手は本で塞がり、カチュアの方に視線を移すがカチュアもさすがに一人では


ティターニアを運ぶ事が出来ないと意思表示をするよう首を左右に振っては、


ポリンを困惑させる。



「……ッ!!…使いの者を呼んで来ますので少々お待ちを!!…」



__ヒュウウゥゥゥン!…



「テンパってんなぁ…」



何故グッタリしているのか分からないポリンが一人慌てては取り乱し、


とにかく人手が居ると困惑した様子で他の妖精達を呼びに行きその様子を


見ていたマサツグがボソッと呟いて居ると、数分後ティターニアは自分のドール


ハウスへと抱えられ連れて行かれる。その様子を見てマサツグが何処と無く


某キノコ王国の姫様が連れ去られるシーンを連想してしまうのだが、漸く


解放されるといつの間にかマサツグの眠気も完全に消えてしまっていた。


そうしてマサツグは一人広場を後にするとクエストを無事終えた事をギルドに


報告する為、帰り支度を広場で始める。するとその様子にカチュアが突如


暗い表情を見せてはマサツグに話し掛け始める。



__カチャン…カチャカチャ…



「ッ!…マサツグ…


もう行っちゃうのね?」



「ん~?…あぁ、そうだな…瘴気の件とか…


今回のクエストの報告とかしないといけないからな…


…おまけに帰りの馬車は無さそうだし…色々と準備を…」



「…あの時、私が出した依頼書の報酬を覚えているのね?」



__ピタッ!………



カチュアが町に帰るのかと寂しそうにマサツグへ尋ねてはマサツグが肯定し、


今回あった色々な事を報告をしないと…と準備をしながらカチュアに答えて居ると、


カチュアは今回ここまで来るに当たった依頼書の報酬の話を持ち出しては緊張した


様子を見せる。そしてその話を聞いたマサツグもピタッと準備をする手を止めて、


若干驚いた様子で振り返りカチュアの様子を確認すると、そこには俯き小刻みに


震えるカチュアの姿が見れると同時に、思い詰めた表情をする様子を見て取れる。


そんなカチュアの様子にマサツグがやっぱりか…と悟った様子でカチュアを


見詰めて居ると、カチュアは話を続ける。



「実はあれ…私が報酬って意味だったのね…」



「………で?」



「ティターニア様が助かるなら…


この国が助かるなら私は自分の命をその助けてくれた冒険者さんに


捧げるつもりだったのね…例え売られようとも…


モンスターの囮として扱われても…


この国の皆を助けられるのならそれで良いと思ったのね!…


で、その冒険者さんがマサツグみたいな優しい人で良かったのね!…


今後の私の妖生も安泰!!…これで心置きなく…」



カチュアはあの時自分が書いた依頼書の報酬は自身であるとマサツグに話し出し、


マサツグは如何言う事なのかと尋ねるようカチュアに声を掛けると、


カチュアは何故報酬を自身と書いたのかの理由を話して、その依頼書に書いて


有った通りマサツグに付いて行く事を約束する話しを進め始める。自分の


これからの生活はマサツグのお陰で安泰だ!と無理に作った笑顔で顔を上げては


カチュアが冗談を言うのだが、やはりその様子からはここから離れたくないと


いう気持ちがヒシヒシと伝わって来る。そんなカチュアの様子を見てマサツグが


軽く溜息を吐くとカチュアの言葉を遮る様に一言カチュアに返す。



「…はあぁ~…何を言ってるのか知らんが?…


お前をここから連れて行く気はサラサラ無いぞ?…」



「え?……」



「お前自身ここから離れたくないって言ってんのに


何故無理やり連れて行かねばならんのだ?…


お前を瓶に詰めて置けば倒れた時復活させてくれる訳でも有るまいに?…


それに折角友達になった奴を嫌な目に合わせるとか…何処の畜生だっての!!…」



マサツグはカチュアを連れて冒険をする気は無い!とハッキリ口にすると、


その言葉にカチュアが戸惑った様子でマサツグを見詰め、マサツグはカチュアの


様子からちゃんと気持ちを汲んだ様子で話し始めては帰る支度を再開し、


某三角形伝説のゲームのネタを持ち出してはカチュアを友達と言って嫌な目に


遭わせたくないと言葉を掛ける。この時マサツグの嫌な目と言うのは色々有り、


友達にそんな目に遭って欲しくないと言う意味だとカチュアも分かった様子で


戸惑ってはマサツグに報酬の話を続ける。



「え?…で、でも…冒険者さんに助けて貰うには報酬が必要って…」



「あぁ~?…それはギルドから貰えばいいだけの話で……って、有耶無耶のまま


受けた様なもんだから報酬は無しか…」



「ッ!!…だったら尚更!!…」



マサツグに報酬を払わないといけないと感じているのかカチュアは必死に


なるのだが、マサツグがいらないの一点張りで押し通してはギルドから貰うと


言い始める。しかしギルドからの正式依頼として受け取ったは良いものの、


報酬などの細かな設定をして居なかった事を思い出しては報酬は無い物だと


ハッと気が付いた様子で頭を掻き、それを聞いたカチュアがやっぱりと


言い始めるとマサツグが若干苛立ちを覚えた様子で再度いらないと言い出す。



「いらねぇっつってんだろ?……あぁ~…だったらあれだ!!


初回無料って奴だよ!…大体報酬が欲しくてこの依頼を受けた訳じゃ無いんだ!…


俺がこの依頼を受けたのは興味本位と…お前が俺を説得したからだ!!」



「ッ!?…」



「お前が必死に俺を説得して!…


俺が可哀そうに思えて来たから受けただけだっての!!…


そんだけの話!!だから気にすんな!!…


それにその時点でも報酬の話はして居ないだろ?…


だったら尚の事無かった事にしておけ!!…報酬はいらない!!…


……てかもう貰った様なモンだし?…」



マサツグはカチュアに何処かの会員登録みたいな事を言っては無料と言い聞かせ、


真にこの依頼を受けた理由をカチュアの説得を聞いてと更に言い聞かせると、


カチュアは驚いた様子でマサツグを見詰める。その騒ぎを聞いてかドールハウスから


他の妖精達が出て来てはマサツグとカチュアの様子に何事かと戸惑った様子を見せ、


マサツグが報酬の件はもう気にしなくて良いと言ってもう女王様から貰ったと


ばかりに羽根を手にし、一言漏らし始める。そうしてマサツグが無理やりカチュアを


言い聞かせ、報酬の件…カチュア自身はいらない…付いて来なくて良いと言うと、


カチュアは一人その場で涙を流し始め、マサツグにいらないと言われて泣いて


居るのか?…はたまたここから出て行かなくて良いと喜びで泣いて居るのか


分からなくなる。



「……ヒッグ!…グス!…ううぇぇぇ!……」



「ッ!?…だああぁぁぁ!!!…何で泣き出す!?…


泣くんじゃねぇ!!俺が泣かしたみたいになってんじゃねぇか!?…」



「グスッ!…う、うるさいのね!!…ふえ!…スン!…


いらないって!…グス!…言われた女の子の気持ちが…スン!…


分からないのね!?…」



「あぁ~…生憎男なので分からんな…」



泣き出したカチュアにマサツグが戸惑ってはカチュアの方に振り返り、


泣くな!と声を掛けるのだがカチュアは涙を流しながらマサツグに


文句を言い始める。誰のせいで泣いて居ると思っているとカチュアが


自身の気持ちを理解するようマサツグへ求めるのだが、マサツグは


普通に戸惑った様子で理解出来ないと自身の顔の前で手をはためかせると、


その行動にカチュアが号泣しながら怒り、マサツグに向かい突貫し始める!



「ッ!?!?…ッ~~~~!!!!…ん゛ん゛~~~~!!!!…」



「だあああぁぁぁぁ!!!何だってんだよ!?…」



マサツグがカチュアの突進を受けると子供の様に腕を振り回して叩かれ、


マサツグが戸惑いながらもカチュアの攻撃を受け止め準備を進めて居ると、


熊五郎が手土産を持った様子で広場にやって来て、マサツグとカチュアの


やり取りに戸惑い、ティターニアも運ばれた後復活したのか自身のドール


ハウスのバルコニーから姿を現すと、マサツグ達の様子に気が付き微笑み


掛ける。そんな慌しい状態の中マサツグが何とか出発の準備を終え、


アイテムポーチを背負い直すといつの間にか周りには他の妖精達、熊五郎、


ポリンにカチュア、ティターニアとマサツグを送り出す状態でスタンバイ


していた。



「…よし!…やっと終わった!……ッ!!…」



「マサツグ様…


今回は我々の依頼を聞いて頂き、誠にありがとう御座いました。


貴方はもうこの国の一員です…また何時でも遊びに来てください!…


私達はいつでも貴方様を歓迎いたします!!…」



「マサツグ様!!これを!!!…」



__パタタタタッ……カサッ!…



    -------------------------------------------------------------------------------


                 妖精達の手土産


                 レア度 unknown


       妖精達の贈り物で何が入っているのか開けるまでお楽しみの


       禁断の包み。中には役に立つものが入って居たり、


       良く分からないものだったり…色々アタリハズレがあるものの


       一部のファンからは縁起物として人気がある。


       たまにモンスターが落としたりするのだが、本当に妖精が


       作ったかどうかが分からず…真相は闇の中とされている。


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{ッ!…あっ!これ…傘持って踊ったらデカい樹になる木の実が入ってそう…}



ティターニアが改まった様子でマサツグにお礼を言っては笑顔でまた来るよう


声を掛け、妖精全員がマサツグの寝ている間に集めたのか手土産を用意した


様子で持って来ては三人がかりでマサツグに手渡し始める。その手渡された


お土産はと言うと見た感じは酔っ払いが持っているお土産の寿司折であるが、


葉っぱで包んでありまるで中にどんぐりや胡桃が入っていそうな包みであった。


それを見てマサツグが何となく庭先に植えたらデカい樹が生えると奇妙な期待を


持つのだが、次に熊五郎から手渡された物を見るとその考えも消えて無くなる。



「あっしからはこれを!!…」



__デン!!…



「ちょッ!?…鮭ぇぇ!?…」



     -------------------------------------------------------------------------------


                季期(とき)知らず


                  レア度 S


       文字通り戻って来る季節を間違えて戻って来てしまった鮭。


       この場合は帰って来る大陸を間違えてしまっている訳なのだが


       細かい事は気にせず、鮭の中でも特別珍しいとして人気があり、


       更に普通の鮭より脂が程よく乗っており身もしっかりして居ると


       美食家達の間では幻の魚として扱われている。


     -------------------------------------------------------------------------------




「へぇ!…ここに来る途中で良いのが居たのでこれをと!…


良かったら持って行ってくだせぇ!!…良い感じに脂が乗っていやすよ!?…」



熊五郎からは手渡された物は荒縄で持ち手が付けられた鮭丸々一本…


それもついさっき取って来たと言わんばかりにビチビチと跳ねており鮮度抜群!…


春なのに?…季節はずれの鮭?…等と考えてしまうが深くは考えず、


一応アイテムとして持てる様なのだがアイテムポーチに入るかな…と不安を


覚えつつも熊五郎から鮭を受け取ると熊五郎は満足げに胸を張る。そんな様子に


マサツグが笑って居るとティターニアが魔法を唱え始め、マサツグの足元に


魔法陣が現れる。



「…《かの者に帰る道を!…リターナー!!!》」



__パアァァ!!…



「ッ!?…おぉ!?…」



「この魔法が貴方様を森の出入口へ導く事でしょう…


……これが私が出来る最後のお礼です…少しでも貴方様が楽を出来ますよう…


……最後にもう一度言わせて頂きます…本当にありがとう御座いました!!」



__わあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!…



マサツグの足元に現れた魔法陣が光ると周りから突如光の球が現れ、マサツグを


囲う様に辺りを漂うとマサツグの体が宙に浮き始め、ワープの準備を整える。


その突然の光景にマサツグが喜びと恐怖を感じているとティターニアが最後に


お礼の言葉をマサツグに言っては下げなくて良いと言っていた頭を下げ、妖精達が


見送りの言葉を投げ掛け始めるとマサツグは若干困惑する。そしてマサツグが


宙に浮いたままワープの瞬間を待って居るとカチュアがマサツグの名前を


突如呼んでは飛んで来る。



「……ッ!!…マサツグ!!…」



「ッ!…カチュ…」



__ヒュウウウゥゥゥン!!!…チュッ!…



「……え?…」



「…えへへ♪…バイバイ!!…なのね!」



マサツグがカチュアに呼ばれて反応し振り返ろうとして居る頃には既にカチュアは


マサツグの顔の前に向かって飛んでおり、マサツグがカチュアの名前を呼ぼうと


振り返った瞬間カチュアがグッと一気に近付いて来ると勢いそのままマサツグに


口付けをする。その口付けを受けた瞬間マサツグが呆気に取られた様子で


戸惑っては目を点にし、キスをしたカチュアはと言うと悪戯っぽく笑みを浮かべては


マサツグに別れを告げる。そのキスにマサツグが戸惑って居るとワープは始まり


マサツグは森の入口に飛ばされるのだが、最後の最後で妖精にしてやられた


マサツグはただ迷いの森の前で立ち尽くしては何が有った?と困惑した様子で


自身の唇に手を当てるのであった。


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