第59話
「これは……いったいどうなっておるのだ……っ!?」
椅子から立ち上がったルイは、広場に入り乱れる近衛騎士団とロビン·フッド盗賊団を見て怯えていた。
彼女の傍にいたリシュリューは、ミレディへすぐに宮殿に待機させている衛兵を集めるように指示を出していた。
そして、直接広場へ向かおうというのか、その場からミレディと共に立ち去ろうとしている。
それを見たルイはリシュリューのことを泣きそうな声で引き止めた。
「まてリシュリュー!? お前がいなくなったなら誰が余を守るのだ!?」
この混乱に乗じ、女王を亡き者にせんと盗賊たちが襲ってくるかもしれない。
リシュリューに声をかけたときのルイは年相応に見えた。
いつもの高貴な言葉づかいではあったが、まるで夜のトイレを怖がる子供ように震えながら訴えている。
「心配はいりません、ルイ女王」
だがリシュリューは言う。
ここへは盗賊たちは来れない。
それは近衛騎士団たちが、ルイ女王の傍にネズミ一匹通さないからだと。
「私はこれから衛兵を集めてきます。もうしばらくのご辛抱を」
「まて!? まってくれリシュリュー!? いかないでくれっ!?」
叫ぶルイを置いて、リシュリューはミレディと共にいなくなってしまった。
ルイは怖さのあまり椅子の後ろに隠れ、ただ泣きそうなくらい怯えてる。
彼女は椅子を盾に――いや、椅子にすがりながら、このまま何事も起きないように願うだけだった。
だが、神はそんなルイの願いに応えてはくれなかった。
すがり付いていた椅子を破壊し、黒光りした鉄の矢が彼女の目の前を突き抜けていく。
「うわぁぁぁ!? ころされちゃうころされちゃうよっ!」
自分が矢に狙われていると知ったルイは、地面に屈んで両手で頭を押さえる。
少しでも的を小さくした――ということではない。
ただ彼女は恐ろしさのあまり自然とその姿勢になってしまっていたのだ。
無情にもそんなルイに、鉄の矢は雨のように降り注いだ。
彼女は逃げ出すこともできずに、ただ縮こまっていると――。
「ルイ女王! ご無事ですかっ!?」
力強い女性の声が聞こえた。
ルイが顔を上げると、そこにはこれから処刑されるはずのオリヴィアの姿が。
「よかった。どうやらお怪我はないようですね」
ホッとした表情で安心しているオリヴィアだったが、彼女とは反対にルイの顔からは血の気が引いていた。
「オリヴィア……その体は……」
それはルイを庇ったため、オリヴィアの体には無数の鉄の矢が突き刺さっていたからだ。
オリヴィアの体からは、矢を受けたところから血が流れ始めている。
幸い、矢が突き刺さったままなので、出血自体は大したことはない。
だが、ルイは生まれて初めて見た血を流す人間を前にして、恐怖で思考が安定していなかった。
「オ、オリヴィア!? どうして余を助けたのだ!?」
「当然でございます。私はこのメトロポリティーヌ王国に身も心も捧げた人間。ならば命を捨てルイ女王を守るのが務めです」
ルイには理解できなかった。
恐怖で思考が安定しないのもあったが、自分を処刑しようとした国の女王を命懸けで守るなど、あり得ないと思ったからだ。
体に無数の矢が刺さったままオリヴィアは言う。
「この国はルイ女王がいなければ成り立ちません。亡き先代の王……父上殿のためにも、もっと自信を持ってくださいませ」
「余がいないと……この国は……」
オリヴィアの言葉を聞いたルイは、その場に立ち尽くしてしまっていた。
自分はただの神輿であり、担がれているだけの存在。
いつかは誰かに主の座を奪われ、殺される――。
だから国をまとめることができるリシュリューを頼った。
リシュリューの言う通りにしてきた。
そのほうが王国のためになると信じていた。
自分がこの国にできることは、ただ何も言わずに頷いていることだけ――ずっとそう思っていた。
だが、こんな飾りでしかない女王を命懸けで守ってくれる者がいた。
ルイ女王がいなければ成り立たないと言ってくれた。
オリヴィアの言葉は、ルイにとってかつてないほどの衝撃だったのだ。
「くっ!? 危ない! ルイ女王、お下がりください!」
それでも矢の雨が降り止むことはなく、オリヴィアとルイに襲い掛かる。
だが、オリヴィアは剣を振って矢を叩き落としながら、立ち尽くすルイを守る。
このままではオリヴィアは命を落とす。
自分などを守ったせいだと、ルイが思っていると――。
「やめろロビン·フッド! それ以上はやらせないよ!」
南の村の出身の田舎者――銃士に憧れるシャルル·ダルタニャンが、小さな馬で屋根から屋根を飛びながら叫んだ。
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