第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』 その141


 接近した化け物の懐のなかで、竜太刀に煉獄の熱量を呼ぶ。黄金色に輝く灼熱の炎の螺旋が生まれる。荒ぶる竜の劫火と、ヒトの業火が融け合いながら、火力を上げていく。


『ぐうううっ!?』


 牛どもの膨らんだ瞳がうごめき、こちらを睨みつけてくる……無数の瞳の視線を浴びながらも、破壊の赤熱を走らせる螺旋は暴れた!!爆炎の放つ熱が、オレと化け物どもの皮膚を焼く!!


 荒れるアーレスの魔力を感じながら、連鎖する爆炎の螺旋を醜い怪物に叩き込むッ!!


「『魔剣』ッ!!『バースト・ザッパー』ぁあああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


 黄金の灼熱が、牛頭の群れとヒトの頭が融け合った醜い肉塊を爆撃したッ!!


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンッッッ!!!


 爆熱が、牛の頭を焼きつぶしながら吹き飛ばす!!……巨体ゆえの弱点というモノも出てくるものだ。爆発の威力、灼熱も爆風も化け物の巨体には有効であったよ。黄金色に暴れる熱量に、その巨体は抗う術はない。


 爆炎に呑まれた化け物は、千切れて爆ぜながら宙に舞う……。


 並みの魔物であるのなら。


 これで終わっていたところだが。


 『オー・グーマー』はどうやらそういうカテゴリーに収まってはくれないらしい。


 高く吹き飛んだ肉塊は、焼け焦げながらも大地に転がる。『バースト・ザッパー』の直撃を受けたのだからな。その肉体の損傷は悲惨なものであるが、魔力は先ほどよりも、大して減弱してはいない。


 いくつもあった頭部が吹き飛び、その全体を黒く焦がしているのだが……蠢く。また生えて来やがったぜ。牛の頭が、黒く焦げた肉塊そのものを内側から食い破るようにしながらな。


『ヴモオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!』


『モオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!』


 ……再生が始まる?


 いいや、ヒトからの逸脱は深まっていくな。かつては確実にアルノアというヒトであった物体は、もはや原形とどめてはおらず……虫のように、今では手足が六つあった。


 焼け焦げた肉塊から新生した『オー・グーマー』は、おそらく、より『古王朝のカルト』が崇拝していた異形の存在に近づいていた。


『ブルルルウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!』


 焦げた血を鼻から吹き出しながら、四つ足であり、二つの腕をもち、腹にも肩にも胸からも牛の頭を生やした怪物がいた。皮膚がなく、赤い血の色をした皮下組織が剥き出しだが、やはりウロコのように骨の欠片が鎧の代わりとなってヤツを守っていた。


 ……『バースト・ザッパー』のダメージを回復し終えたというのか?……なかなかタフな生物じゃあるが。


「お前は、まだアルノアを残しているのか?」


『……私は……まだ、消えてはいないぞ……私は消えない。『オー・グーマー』と一体化している……私は……私は……私は……誰だ……?』


 『バースト・ザッパー』は確かに破壊していた。少なくとも、アルノアであった部分を大きく壊しているようだ。罪悪感を覚えることはない。敵と認定した相手には、そんな感情をくれてやる必要はなかった。


『ヴモオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!』


「ソルジェ兄さん!!来ます!!」


 ……ああ。分かっているよ。オレは油断をしてはいない。足を止めたのも、わざとだ。反撃を誘うために誘った。『オー・グーマー』の突撃を躱しながら、少しばかりの意地悪をする。


 流すような動きで斬撃を打ち、『オー・グーマー』の骨のウロコに守られた左腕を斬ってやる。断ち切ることは出来なかったが、強度を推し量ることは出来たな。斬れなくはない。硬さはつい先ほどの状態よりも変わってはいない。


 むしろ。


 大きく皮膚を失った以上、刃が深く通りやがるという意味においては弱体化していたな。こちらの攻撃は効いている。少しずつだが、『オー・グーマー』と化した、この哀れな男を追い詰めつつあった。


 オレへの突撃を回避された『オー・グーマー』が、その骨が多く見える赤い脚を使ってブレーキを踏み、素早く方向転換しようとする―――だが、遅いな。オレは飛び掛かり、竜太刀を叩き下ろした!!


 ズシャアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!


 深々と『オー・グーマー』の肉と骨が斬られる……しかし、異常な再生能力は、ヤツの斬られた腰部分の傷からも頭部を生やす……いいや、というよりも。


「損傷部分から、牛の頭が生えてきやすいのかもしれません!!」


 ……オレより賢いヤツは、オレが予想をつぶやくよりも先に、告げてくれるんだよな。


「そ、それが分かったからと言って、何につながるとも限りませんが……」


「ノー。情報は多い方がいいであります」


「そうだ。どんなことでも、攻略のヒントにつながるものがあるかもしれん。気づいたことは口にしろ、ククル」


「は、はい!!」


 ククルの返事を聞きながら、一拍以上、遅れたタイミングで放たれた『オー・グーマー』の裏拳をかいくぐる……速くなっている?それに、手指がずいぶんと長い爪であるかのように伸びているな。


 より戦闘に適した形状にへと至ろうとしているのだろうか。『オー・グーマー』そのものになりたかったのか、アルノアよ?


 ……もしも、そうだとしたら、この醜すぎる姿になるという屈辱を許容できる理由を、オレは見つけることは出来そうにない。




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