第二話 『アプリズの継承者』 その12
500年の時を経ても、英雄の闘志に翳りはないようだ!!闇のなかで、『死将バハルムーガ』の鎧をまとった白骨が華麗に踊る!!モルドーア槍術の動きを感じさせもするが、どちらかと言えば、剣術の動きにも近い縦の斬りつけだった。
竜太刀を、その斬撃に合わせるようにして放つ!!
ガキイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンンンッッッ!!!
鋼がぶつかり、闇の中に赤い火花が散っていく。骸骨の眼窩に在る闇に……殺意に煌めく蒼い炎が生まれるのが分かった。
怒りと殺意と魔力を解放したアンデッドの眼は、殺意に燃え盛る蒼炎だ。競り合う鋼越しに、お互いの力量を探り合う。鋼を押し合い、火花を作り……間合いを開く。ヤツよりも、こちらの方が素早い。竜太刀による斬撃を叩き込む!!
しかし、押し込めていたわけではないからな。ヤツの左腕が動き、背中に隠し持っていた円形の盾で受け止められてしまう。
鋼が鳴った。強烈な衝突の歌が生まれる。もし、生身の人間族の骨ならば?あんな小さな盾で竜太刀の強打などを受けた瞬間、手首が折れて終わりだ。
ドワーフ族は違う?どうかな、肉がついているのならともかく、骨なんてものは、簡単にバキッと折れちまうもんだぜ。肉の剥がれ落ちた骨は、子供の指でもへし折れる。その程度のものだ。
それなのに、『バハルムーガ』は違うらしい。トリックがあるな。ヤツの骨は……内側から『強化』していやがるのさ。
しかし、補助魔術特有の魔力の流れを感じることがない。つまり、強化しているものは、魔術でも、呪術でもない。
ああ、そうかよ。コイツ……アンデッドということを活かして、自分の骨の中にミスリルを仕込んでいやがるわけだ。
とんでもない執念だな。自分の死体を、改造しやがったのか。骨に鋼を注ぎ込み、耐久性を上げやがった。そのおかげで、生前並みの耐久力を骨に宿せるというわけだろうか?
そのおかげで、数百年後でも戦闘能力を維持して、国に仕え続けられるのか……とんでもない忠義だ。王サマは感涙モノだろう。まったく、過保護なまでの愛国心だぜッ!!
『ぎゃがごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』
死霊が叫びながら、『雷矛ギーバル』で斬りつけてくる。オレは回転しながら鋼を躱した。床石を雷矛が打ち壊す。なかなかの威力だが、隙がある―――と、見せかけるトコロなんかが、ガルフ・コルテスそっくりだぜ!!
「……これだから、ベテランはッ!!」
竜太刀を構える。攻撃のためではなく、防御のための姿勢であった。『雷矛ギーバル』がその威力を発揮しようとしていた。
白い閃光が、視界を灼く。
床石に突き立てられた『雷矛ギーバル』から、無数の『雷』が放たれていた!!白い閃光に紛れながら、稲妻の群れがオレたちへと襲いかかって来やがる!!
竜太刀に『炎』の魔力を込めて、竜鱗の鎧に宿る『炎』属性に防御を期待する。オレはあえて踏み込んでいる。仲間の『盾』になるために!!
ズドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンッッッ!!!
爆発音が鼓膜を攻める。『雷』を体に浴びていた。竜太刀で受け切れない部分は、鎧に頼るほかない!!……それでも、全身に噛みつかれたような激痛と、筋肉が痙攣を無理強いされて体が強ばっていく。
……呪文無しに、これほどの威力を出すっていうのかよッ。しかも、武器が独自に吐き出したようだ。どういう意味かと言うと、所有者である『死将バハルムーガ』は魔力を消費しちゃいない。
ヤツはヤツで、魔術を放とうとしていやがるのさ。事実上、『魔術を連続で放てる』わけだ。自在に『雷』を吐く武器と、最強の魔術師であるヤツ自身のコンビネーションかよ!!
雷矛がどれだけの回数、『雷』を放てるのか分からないが、アレだけの出力の『雷』を術者が身構えることなく放てるとなると、戦場でも魔力を使い果たして気絶しちまうような心配は少なそうだ。
戦場で魔術を乱発することさえ可能で、恵まれた体格で武術も上手い。さすが、伝説の英雄サマってカンジだよ。
骸骨の眼窩で踊る、蒼炎が巨大に燃えた。竜太刀を受けて、崩れかけている盾に魔力が集まる。盾から、火球でも撃ち出すつもりなのかもしれない。器用なことだ。防御しながら、攻撃も可能か。
だが、そちらが連続魔術ならば、こちらは連携攻撃だ。
あえて『雷』の嵐に身を晒したのは、守るためでもあるし―――攻めさせるためでもある。その眼窩で暴れる蒼炎の視界から、仲間たちを隠すためだ。
オットー・ノーランがオレの右側から飛び出して行く。魔術を込めた『死将バハルムーガ』の盾目掛けて、棍による強打を放つ。盾の中央から射出されようとしていた火球が、天井に向かって打ち出されていく。オットーの攻撃で、盾が跳ね上げられた結果だよ。
天井が爆裂による破損していた……爆音と後頭部で感じる熱量で理解することが出来た。とんでもない威力だったよ。まともに浴びていれば、竜鱗の鎧を持ってしても深手は避けられなかった。
『死将バハルムーガ』は、オットーを睨んでいるようだが、その矛は、今だ感電しているオレの体目掛けて振り下ろされてくる。視線と行動を乖離させる。ガルフ・コルテスに出来て、オレには出来ていない柔軟性だ。
しかし……我々の前衛は、二人ではない。三人いるのだ。
「はあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
裂帛の気合いをまとい、ロロカ・シャーネルのがオレの左側から現れる。彼女の槍は精密な突きの技巧を宿してた。稲妻のように速く、突き出されて、矛を握る『死将バハルムーガ』の右戦腕を刺し貫いた!!
篭手を貫通して、骨を刺し……内部の鋼にも槍の鋼が食い込んでいる。オレを切り裂くための斬撃は完全に静止していた。ロロカ先生の突きも見事なものだが、彼女の突きを喰らっても、受け止めてしまう豪腕ということも恐ろしい。
……生身ならば、腕が吹き飛んでいたぜ。彼女の突撃をモロに喰らっても、深手にならない。それが、アンデッドとしての空虚さの利点かもしれないな。
「……骨に、鋼が……ッ!!」
『雷矛ギーバル』が青い光りを放ち始める。
「ロロカ、下がれ!!」
「はい!!」
ロロカ先生が、素早くその場から後退した。『雷矛ギーバル』が、再び稲妻を周囲に解き放つ。雷撃が暴れて、オレたち前衛部隊に『雷』の魔力が襲いかかる。だが、リエル・ハーヴェルは動いていた。
「―――『烈火の猛犬どもよ、我らに立ちはだかる敵に、残酷なる執念のままに喰らいつけ』!!……『ブロークン・ケルベロス』ッ!!」
三つの豪炎の巨弾が、戦いの部屋を駆け抜ける。オレたち前衛の上空を一つ、右と左からそれぞれ一つずつだ。うねる豪炎は、『雷矛ギーバル』が撃ち出した『雷』を浴びながら、それらを反射するように歪めてしまう。
雷撃が歪んで裂けていたよ。オレたち前衛は『炎』の魔力を体内で練り上げながら、それぞれの鋼に隠れるように身を固めていた。
リエルの放った『ブロークン・ケルベロス』が『雷矛ギーバル』を封じてくれているが、それでも放たれた雷撃は、オレとロロカ先生とオットーを攻撃してくる。体はかなり痛いよ。三人とも、苦悶の表情ではあるが……さっきの雷撃よりも、かなり楽だ。
痛いが、体は動く。
……動くのならば?
速攻を仕掛けるのさ。ヤツが盾に再び魔力を注いでいやがるからな。コイツの魔力は強大だし―――それに、さっきの『炎』を放った時に気がついた。コイツは、部屋の壁に刻まれた紋章から、魔力を呼び込んでいやがる。
アレは、『死将バハルムーガ』の呪術を外に放つためだけの装置ではない。今は、むしろその逆に機能している、このダンジョン全体から魔力を集めていやがるのだろうさ。それゆえに、魔力が切れることなど、おそらくヤツには無いだろう。
連続魔術を無限に使われていたら、オレたちと言えどもジリ貧だ。守っていてはならない。攻めるのみだ!!……痺れる体を無理やりに突撃させて、ヤツに刺し貫くために突きを放つ!!
『バハルムーガ』は、竜太刀の突きに対応出来なかった。オレの突撃を悟ったロロカとオットーが、フェイントをかけてくれていた。三者同時に動かれてしまえば、いかなる達人だとしても隙が出来るものだ。
『バハルムーガ』は、初めて鋼の味を知っていたのさ。ミスリルの分厚い鎧を貫かれて、かつては心臓があった部分を竜太刀の先端が貫いていた。生きていれば、これで即死だった。
しかし、アンデッドの空虚の骸には、心臓も肺腑も大血管もありはしない。致命傷にはならないが……心臓がある場所を貫かれるという『儀式』は、『死将バハルムーガ』に敗北を思い知らされる形にはなった。
骸骨の深い眼窩で踊る蒼炎が、揺らぐのが分かったよ。魔力が、削がれる。生まれて初めての『敗北』だったのだろう。しかし、それを恥じることもない。オレたちを、たった一人で相手して、生き残ることなど最初から不可能だ。
そう。
生き残ることは不可能ではあるが、最初から死んでいるこの敵には、これは決定打にはなりえない。精神力と魔力が削がれ、魔術は一端消失するが……ヤツは無敗の誇りよりも、使命感の熱量で肉体を再起動させる。
『雷矛ギーバル』を振り回し、オレに打撃戦を挑む。矛と、盾による殴りつけという、『モルドーア・ドワーフ』の野蛮な連続打撃で、オレに挑んでくるのさ。今その時は、魔力を放たない。
『儀式』的な敗北で、ヤツを縛る呪いの力そのものが低下しているからだろう。全ての魔力は、今、攻撃のためではなく、ヤツの呪いを修繕するために使われているということさ。
……こちらも、『雷』を浴びたせいで、動きに精彩を欠いているし、ヤツの打撃は重い。骨の内部に、鋼を仕込んでいるからこその重量だろう。生きていた頃と同じような重量はあるさ。
竜太刀と、矛と盾の二刀流が、闇のなかで衝突していく。お互い手数だけは多いが、体が回復するのを待っている状況だ。決め手にはならん。
しかも、この勝負、オレたち生者の方に分が悪い。こちらの体力と魔力は有限だし、一瞬の勝負で勝ろうとも……ヤツはこのダンジョンの闇に融ける魔力を啜り、常に修復していくのだからな。
やはり長期戦は、こちらに不利だ。だからこそ、オレと乱戦しながら、足を使い回り込もうとして来やがる。
連携を取らせないつもりだ。こちらを削っていく戦術。生者であれば、出来ぬ戦い方だ。命あるものは戦いのなかで大きく戦力を回復することはない。それを計算している。コイツには、知性めいたモノが残っていやがるらしいな。
……そこまで、相手の考えが分かっていて、このオレが悪あがきの一つもしないと思うなよ?鋼をぶつけ合わせながらも、仲間たちに命じる。
「リエル、ミア、ギンドウ!!壁にある紋章を、ぶっ壊していけ!!そいつが、コイツに魔力を供給しているんだッ!!」
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