序章 『ザクロアの休日』 その5
素敵な夜だったよ。みんなでわいわいしながら、料理を味わった。みんなが作った料理たちは、カラフルに映ったし……なによりも温かかった。唐揚げはジューシーで、トンカツはサクッと揚げられた。
ミニ・カツサンドは、宇宙創世の神秘を垣間見れる味だと、ミアは涙を流しながら評価してくれていたよ。
リエルのパスタは数種類あった。色々と準備の整った、このキッチンならではだな。いくつかの深皿に、色々な形のパスタが注がれていた。パスタは色々な形があるから、ワクワクするよね?
ストレートなパスタから、曲がっているのとか、くねっているのとか。平たいのもある。平たいパスタにトマト系のソースを絡めて食べると、美味いよな。トマトの味が、パスタに広がる。喉ごしも好きだ。豪快に食べていると、胃袋に幸せが、ドーンと落ちる感じがするよ。
こいつにミニ・カツを載せると!!背徳的な美味さとなるのさ。
ああ、唐揚を刻んで、魚醤をかけて、あっさりとコッテリを兼ねそろえたコラボも素晴らしい。パスタが、それらのどちらをも受け止めてくれる。うん、リエルのパスタへの感性は素晴らしいな。ついに魚醤まで使いこなすようになるとは……。
おそらく、シャクディー・ラカの巨大レストランで食べた料理に、魚醤が使われていたからだな。あそこで思いついたんだろう。オレがジーロウに腕相撲で勝利していた背後で、パスタと合う味だと想像していたのさ。
『ジャールタン』のムニエルも、美味しい。素朴な味だが、白ワインが欲しくなる味だったよ。臭みが少ないのは、汽水で暮らしていたからか?まあ、ほとんど山暮らしだろうけれどね。
あと、興味深いのは、肉の甘みが強いことか。海の魚は、やや塩気を感じさせる。塩を使わずとも、そのまま焼き魚をむさぼれるものだが―――この『ジャールタン』は、ソースが必須となるほどに、甘さがある。
食性が影響しているのかもしれん。『ジャールタン』は何を食べて、肉に甘みをためるのか?不思議だ。リンゴでもかじっているのか、果物っぽい甘みを持つ肉だった。ソースを使わずとも、甘みを活かす方向の調理に向く。酸味を加える味も合いそうだなと、ロロカ先生と会議する。
酢漬けにしてもいいかもしれん。『ジャールタン』の骨が、酢で融けすぎたりしなければいいんだが……なんであれ。この魚は、いつかオレもチャレンジしたい食材だな。
さて。
今夜は酒を呑まない。白ワインを勧められたが、酔っ払いたくないんでね。アルコールよりも、家族との思い出優先。寝酒は、呑むかもだけど。まだ、いいのさ。
だから、酒のかわりにスープがオレのノドを潤すのさ。ああ、カボチャのスープはいい。カミラの故郷の味だ。甘くて、やさしい。濃厚だが、たしかに野菜を感じさせる。あと、カブのスープもな。いいね、胃袋にやさしい。シメにちょっと飲みたいよ。
食物繊維を求めてか、女子たちは、カミラのカラフルなサラダにも引き寄せられていた。
ちょっと胃にもたれる食事ではあるから。
カミラは、オレたちの胃袋のために、あえて地味なサラダをたくさん作ったのだと、オレは推理しているよ。彼女は、どこか遠慮がちに思えるほどに、オレたちを想ってくれているからな。
いつも影のように支えてくれるんだ。まあ、夜は積極的だけど。
しかし……さすがはカミラ。女子らしく、カラフルな色彩のサラダだな。オレは、きっとここまで、パプリカを活かせない。味を重視してしまうからね?他のことに気が回らなくなる悪癖があってな……。
でも。色合いが、食事に魔法をかけるってことを、思い知らされる。
料理と並ぶだけで、そのカラフルさが、他の料理を引き立ててくれる。このサラダがないと、色彩に不足を覚えたかもしれないが―――カミラのサラダがあるから、そんなことはない。
ああ、カツサンドよ。
君の悪口ではない。君はうつくしいキツネ色をしているよ?
白いパンに包まれた君は、雪降る野山を走るキツネのようだ……こちらを、あの黒い瞳で、じーっと興味深そうに、じーっと見つめてくる、あの賢きフワフワ尻尾に似ているじゃないか?
うん。歯でかじると、外はさくさく、中は、ふわっとジューシー。ザクロア豚め。またいい仕事をしてやがるぜ!!
……たっぷりと時間をかけて、オレたちは空腹を満たしていったよ。
胃袋だけでなく、なんだか心まで満腹になる。
食後の一休みをしていると……リエルがこっそりとみんなが食べた皿をキッチンに運んだ。カミラがつづき、ロロカ先生も向かう。オレも行くよ。ミアも……ひとりぼっちのソファーはさみしいから、ついて来た。
皿洗いは皆でやると早いよ。
「皆でやらなくてもいいんだがな?」
「率先して動きリエルちゃんが、美しくてね?」
「う、うつくしいのは、知っている!だ、だから、皆の前で、言うでない!?」
照れるようなコトではないが、エルフ乙女の心は複雑なんだろうね。オレたちは皿を洗い、ミアは皿を拭く係。カミラはお皿をしまう係。ロロカ先生は、フライパンと鉄鍋を洗っていたね。うん、役割分担がスムーズ。さすがは、猟兵……いや、さすがは家族。
さて。
片付けも終わったし……。
「風呂だな」
「やったー!!」
ミアが叫ぶ!食事と労働のあとは、たのしいたのしいザクロアの温泉だよ。
リエルが顔を赤くする。
「こ、混浴か……また?」
「ああ。いいじゃん。それにヴィクトーが魔法を使ってくれているんだろ?」
「魔法?」
「ああ。なあ、ロロカ?きっと上手いこと準備があるんだろ?」
「はい。湯浴み着があるから、大丈夫ですよ、リエル。ソルジェさんのもありますから、家族皆で湯につかっても、色々と大丈夫です!」
大丈夫。
魔法の言葉だな。そう、男だって、女子の全裸が見たいだけの動物じゃない。もちろん見たいよ?この美少女たちの全裸をね?
でも、いいんだ。
ミアもいるしね。
エロすぎるのはダメだよ。
「な、ならば、安心だな!!」
「そうっすねえ……っくし!」
カミラがくしゃみしている。そうか、今夜も冷えてきているからな。というか、あのハイランドが異常に温かいからね。あの気候は、かなり変だ。風の吹き方からすれば、もう少し南の森林地帯は、涼しくても良さそうなものだが……。
地理学をさらに極めれば、何かに気づけるのかもしれないが、オレはあの温かさを、『ゼルアガ/侵略神』の仕業だと確信しているよ。『呪法大虎』とやらにでも質問すれば、面白いハイランドの秘密を聞けるかもな。
まあ、それはいい。
「さっさと湯につかって、温まろうぜ?」
「は、はい!」
そして。オレたち、このロッジの隣にある『温泉』に向かうのさ。ああ、外、クソ寒い。耳まで冷えて、赤くなりそう!雪で足をすべらさないように!とロロカ先生から適切なアドバイスを受けながら、オレたち移動さ。
おお。
囲いを開けると、湯気がふんわりと熱量を伝えてくる。いい感じのお湯だ!脱衣場は、男女には分かれていない。でも、いいさ。女子たちから使えばいいし。
オレは外に出た。紳士だからね!
幻想的な夜空は寒い。
呼気が白さを宙に描くよ。
でも、ユニコーンと竜が寄り添って、しずかに眠る光景を見られた。ファンタジーな題材を探す画家が、この場に偶然、通りかかったら、きっと感動しちまうよ。筆が画板をよく走るんじゃないかな?
「よーし着替えた!いいぞ。ソルジェ!」
「おう」
まあ、さすがに寒いから、オレも脱衣場に入って、すぐに服を脱ぐ。男ようの湯浴み着を着込んで、パラダイスに向かうんだ!!
女子たちが、白い湯気の向こうで、湯につかっているよ!!
オレはかけ湯して、その楽園につかる。ミアが寄ってくる。
「お兄ちゃん、お外、寒かった?」
「ああ。寒かったけど、ゼファーと『白夜』が並んで寝ているのを見ると、癒やされた」
「うふふ。『白夜』はゼファーと並んで寝るのが、好きですもんね」
オレも君と並んで寝るのが好きだから、その気持ちがよく分かるよーな気がするよ。
ああ、やっぱり、ロロカ先生ってば、オレのヨメたちの中でも、圧倒的な巨乳なんだから。湯浴み着が、ちょっと浮いている。お湯に浮かぶおっぱいのせいで。
「ソルジェよ。ジロジロ見てはならん。紳士たれ、だぞ!」
「ん。ああ、すまんすまん」
リエルに注意されて……オレ、リエルを見た。恥ずかしそうに耳まで赤くしているね。オレと目が合うと、そのエメラルド色の瞳が、揺れる。でも、逃げない。オレの視線が彼女の胸を見る。
うん。ロロカ先生ほどじゃないけど、スレンダーなくせに、そこの発育はしっかりしている。ああ、知っているさ。君の全てを。形も色も、あと味も……。
「じ、ジロジロ見てはいかんと、言っておるだろうが!」
リエルがオレにお湯をかけた。そして?
オレが目を開けたら?
もちろん、ミアがワクワクしているに決まっているよね。
そうさ、お湯かけ合戦がスタートだ!!ミアがはしゃぎながら、お湯をかけてくる!!お兄ちゃん、劣勢だ。だから?……カミラの背後に回るんだ。ああ、タオルに髪が包まれているおかげで、いつものポニーテール以上に見えるよ、君のうつくしいうなじがね?
白く陶器のようななめらかなそれ。君の肌はうつくしい。それに、元気な田舎娘っていう感じの健康的な肉体美は好きだぞ。感度もいいもんな。オレ、そんな君の背後に回るよ。
「え?そ、ソルジェさま!?」
「カミラちゃん、覚悟!!」
ミアがそう言いながら、カミラにガンガンお湯をかけるんだ!
「あはははは!!」
「うわああ!!は、はんげきっすよ!!」
カミラがお湯をかけ始める!!パワフルだからね、カミラは。ミアが押されていく。だが、ミアはお湯のなかへと潜るのだ。サブマリン・ミアの静かな潜行が開始だよ。
そして、そのままリエルの背後に浮上する。カミラがターゲットを捕捉する。ニヤリと笑った。
「え?ま、まさか!?」
「二人まとめて、沈むっす!!」
カミラが腕をスイングして、お湯を揺らす。波が起こり、リエルとミアを呑み込んだ。
うむ、こうして……短気な正妻エルフさんがお湯かけ合戦に参加するよ。ああ、大騒ぎだね。だから、オレ、三人の女子がはしゃぐその場から遠ざかり、安全圏でお湯を楽しみリラックスしているロロカ先生の側に行く。
「あら、ソルジェさんはアレに参加しないんですか?」
「うん。彼女たちの湯浴み着が乱れる姿を見物するのも楽しいし」
「まあ、エッチなんですから」
「男だから仕方がなしさ。オレがスケベなの、よく知っているだろ」
「ま、まあ、そうですけど……っ」
いつかの夜を思い出してくれているのか、ロロカ先生は赤くなる。うん。オレ、セックス依存症の気があるらしいから、スケベなんだよ。でも、夫婦4人で温泉ってのも最高。もちろん妹がいてもね!
「はあ。いい湯だなあ」
「ええ。いい湯ですねえ」
「長旅、おつかれ」
「いいえ。ソルジェさんこそ。ハイランドでは、大変でしたでしょう?」
「『虎』たちは、皆、武術をこなす連中だから、雑兵一人と戦うのも楽しかったよ。でも……色んな不幸を見ちまった」
「ええ……そうですね。マフィアに支配された国……弱者は多くの涙を流したことでしょう」
「うん。そうだった。でも、終わったよ、『白虎』の幹部はあらかた殺し、その首魁も消した……」
「いいお仕事をなさいました」
「そうだな。でも、これからが大変だが」
「大丈夫ですよ。アリューバ半島に、我々、『自由同盟』の『私掠船団』を築ければ、情勢はかなり安定しますから」
「帝国海軍の拠点を潰さなくちゃだがな」
「ええ。そのための策は考えてありますよ」
「なら……今夜はのんびりしようぜ?」
そう言いながら、オレはロロカの肩を抱き寄せる。彼女の『水晶の角』を見る。うむ、夜空の下で、ほのかに輝いている。水色の光を見ていると、心が癒やされるよ。
「ソルジェさん……」
と、オレの名前だけつぶやいて。彼女がオレの腕に体重を預けてくれる。ああ、愛する女性の質量を、腕に感じられる。それが、男にとってどれだけ幸せなことなのか分かるか?ロロカ先生は、女子だから、きっと分からない。
でも、愛する男の腕に抱かれる女子の幸せも、女子にしか分からないから、引き分けだろうな。
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