第七話 『悪鬼獣シャイターンと双刀の剣聖』 その13


「行くぞ、ゼファーッ!!歌ええええええええええええええええええええええッッ!!」


『GHAAAOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHッッ!!』


 さて、戦の時間だッ!!


 オレはゼファーを急降下させるッ!!


 ハント大佐たちを狙っていた弓兵たちが、こちらに気づく。だが、竜の突撃のスピードを舐めてもらっては困るよ?上空に対して、注意力が散漫だった君らは、対応が遅れていた。何よりも……。


 こちらからだって、ガンガン攻撃はするのだからなあッッ!!


 武器と殺意をこちらに向ける以上、さっきまでのように殺さない努力をすることはない。積極的に殺していくまでだ!!


 ……すまないな、だが、これはリスペクトだよ。君たちを、『真の戦士』だと評価しているからこそ、容赦することは出来ないのだ。


 さてと……エルフさん二人と、魔王の『合体魔術』を披露だぜ!!


 森のエルフの王族であるリエル・ハーヴェルが、ベースを作っている。強力無比な魔力を用いて、ハイランド城の上空にかかる雨雲に魔術をかけていたのさ。西風を喰いながら、雨雲は無慈悲に唸り、夜空に雷鳴をちらつかせている。


「―――『始原の混沌よ。創造の雷光よ。聖なる大樹の管理者、ハーヴェルの名において命ずる……この雷雲に、我らの敵を砕く威力となって宿りたまえ』……」


 ああ、静電気で髪がちょっと浮かんでいるな。ゼファーのまとう『ブラック・ミスリル』の鎧が、バチバチ鳴って、放電しているよ……ッ。ミアは、雲をじーっと見つめながら、ニヤリと笑っていた。


「すごーい!!夏の嵐の時の雲さんだあああ!!」


「ほんと、そうだよなあ!!」


 くくく、さすが、オレのリエル・ハーヴェル!!これだけ莫大な量の『雷』を雲に集めるとはな?


 そして、リエルが集めたこの『雷』を……ベテラン魔術師のアイリス・パナージュが『術に変えていく』。魔力を集める係がリエルで、その魔力をぶっ放す係がアイリス『お姉さん』というわけさ。


 エルフ族ってのは魔術師の才能の塊のような人々で、古き時代の魔術も継いでいる。古い魔術というのは、自然環境に大きく依存したモノたちさ。魔力に任せて術を生み出す現在のそれとは異なる。


 『風』の魔術を放つときのコツとは何か?


 自然が吹かす風に乗せるようにして放つ。そんなイメージかな。環境がそろわなければ使えない魔術を、エルフたちは多く継承しているよ。


 自然崇拝的な暮らしは変わらないらしく、どの部族も自然環境に依存した魔術を継いでいる。だから、リエルとアイリスの部族は違っても、二人は魔術を組み合わせることが出きる。


 魔術の基礎設計が似ているからだとよ?……つまり、同じ言葉を話せるから、声かけあって仕事するようなもんさ。


 しかも。


 西風と雨雲という、最高の触媒を得てのことだ。自然派魔術の本領発揮だな。環境に依存した魔術……使用条件は多く、使うための状況は限られるが、その代わりと言わんばかりに威力は強い。


 だが、今はそれらがそろっている!この悪天候の空にリエルの魔力は満ちているのさ。こうすることで、おそらく人類が操ることの出来る最強クラスの『雷』を放てるだろう。


「―――『空を走る黒蛇よ、雲に宿り『雷』の雨となり、怒りのままに罪人たちを罰する戦槌となれ』……って、『術』は完成。ホントに、撃っても大丈夫かしら?これ、威力は高いけど、『無差別攻撃』の術なんだけど……つまり、当たるかどうか怪しいわ」


「ああ、安心しろ。オレの魔眼が放つ『呪い』に、任せてくれればいい」


 眼帯を外して、金色に輝く左眼でウインクするよ。安心してくれたのかね?アイリスはニヤリと笑う。さすがはオレの副官三号。


「……わかった。もし、民間人の大量殺人とかになったら、私のことを竜でよその国に運ぶように!!」


「まかせろ。どこでも好きな国に運んでやるさ!!」


「ええ。じゃあ、思いっきり、ぶっ放すわよ!!……行きなさい、殺戮雷牙ぁ……『アクト・ナーガ』ぁあああああああああああッッ!!」


 そして?


 空が光にあふれたよ。ただでさえ魔力が高いと言われているエルフ族、その高位魔術者の共演だ。空を裂くような強烈な雷の奔流さ。


 ……そうさ、あきらかに暴発。本来なら、オレたちや民衆を焼き払うことになっただろうさ。


 ほら見ろ。四方八方に広がった『雷』が、王城の前に集まっている人だかりにも落ちていくぜ。アイリス・パナージュは戦争犯罪者に一直線? 


 いいや、そうはならない。


 『雷』の群れが民衆の上空で角度を変えるんだよ!!


 オレの魔眼が、『ターゲッティング』の呪いを敵の弓兵たちに仕掛けているからな。雷の毒蛇が、きちんと統制されて、行儀良く敵へと向かうのさ。空を走る毒蛇の群れが、こちらを狙っていた弓兵たちへと降り注いだ。


 ズガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンッッッ!!!


 雷撃の音が響いた。フーレン族の弓兵たちが、肉を裂くほどに強力な電流をその身に浴びてしまい、感電しながら黒焦げになっていた。


 くくく!エルフの魔術師に、魔王の力が合わさると、こんな高威力となるわけだな……。


 前もって『ターゲッティング』していた王城の二十数カ所に、『雷』が着弾したんだよ。弓兵を『上空』から探すのは難しくはない。彼らは武装を使いこなすために、わざわざ見晴らしのよい高い場所に潜んでいるものだから。


 下からは死角になりやすいが……上空からは簡単に見つかるもんだよ。弓兵は竜の弱点だが、弓兵の弱点もまた竜ということだな―――まあ、竜と戦いを望むということが、どれだけ愚かなことか、身をもって知れたのではないか。


 さて。オレたち三人の合体魔術が王城を焼いていく。着弾地点にいた弓兵たちが、強烈な雷撃に呑まれて黒焦げだな。


 そうだ……今からは容赦なく殺すよ。戦場で、高い位置にいる弓兵は、どんな勇者よりも脅威的な存在だからな。


 君たちを生かしておけば、いったい、どれだけ殺されてしまうか、分かったものじゃない。だから、まず最初に処分させてもらった。


 もちろん、リスクも多い選択肢だった。


 このおかげで、リエルもアイリスもバテている。オレは『ターゲッティング』だけだから……あと魔剣の一度か二度ぐらいは使えるよ。ホント、大技は疲れるよ。こいつが戦場で魔術が飛び交わない理由の一つだ。今夜は彼女たち、もう強力な魔術は使えないだろう。


 それでも問題はない。なぜか?この戦は、すぐに終わるからだ。


 オレたちが、アズー・ラーフマの首を取ればいい。ヤツさえ排除すれば、兵士が戦わなければならない理由も消え去る。


 弓兵の護衛を無くした王城に、ゼファーは向かう。ゼファーが目指している場所はどこかだって?……城の『屋上』だよ。城において、最も攻略しにくい場所は?言うまでもない、もちろん最上階だ。敵のVIPは、ここに集まっているにちがいない。


 他に隠れるとすれば地下だが……ラーフマのヤツが『夜逃げ』した時点で『国盗り』は成功だ。それはそれで勝利と言える。争いも少ないから、人道的なクーデターだな。


 ここで逃がせば、帝国に亡命しようとするかもしれないが、問題はない。こっちには『人狼』のジャン・レッドウッドがいるんだぞ?ジャンの『鼻』からは、絶対に逃げ切れないさ。


 どうあれ、オレたちは『最上階』から攻める。『一番おいしいところ』から、喰らっちまおうってわけだ。絶対に、いるはずだぞ。この階に、アズー・ラーフマはな―――。


 王城の白い岩壁が肉薄してくる……ゼファーは集中していたよ、翼で空を叩くタイミングを計っているんだ。ああ、そうだぞ、ここだ、ゼファー!!


 理想的なタイミングで、ゼファーは翼を動かした。もちろん尾を振ることでも重心移動を創り出す。急降下のベクトルが急変し、減速と軌道変化は同時に成功したよ。ふわりと浮かぶような軌道になり、王城の白い壁を、衝突ギリギリ寸前で飛び抜けていく。


「あはははは!!」


 我が妹・ミアが笑うよ。そうだ、楽しかったよな。こういう、あとちょっとでぶつかりそうな軌道を飛ぶのは、サイコーにワクワクする。スリルとスピード感が味わえるもんな?障害物が、ぐわりと浮き上がる感じが嬉しいよ。


 一度、地上に激突しそうなほどに低く飛び、それからフワリと浮かび上がる。高速で接近しながら、城塞やら崖なんかに飛びつくための技巧だよ。こいつをやれば、足爪という竜にとって最も頑強な部分で城塞に当たりに行けるんだ。


 敵がいる場合は、この蹴りと爪で殺しちまうが……今回はいない。最初に『合体魔術』で一掃してやったんだから。だから、ここに取りつくのは楽勝さッ!!


『ちゃくち……ッ!!』


 竜の足爪が、ガギギギギギギイイイイ!!とその白い石材を削っていく。


 ほう?……爪が完全には入っていないようだな。いい材質だ、さすがは王城。なかなかに固い。固い……が、すでに攻めるべき場所の目星はつけてある。オレたちだって、のんびり上空で遊んでいたわけじゃないってことだよ。


 目玉を使って、獲物をしっかりと観察していたのさ。


 この東側の屋上は、かーなり、『老朽化』が進んでいやがる。おそらく、雨漏りがしていたんじゃないかね?あそこの直下の部屋か廊下あたりはさ。


 ならば利用するべきだ。


 どうせ崩すなら、壊れかけた場所にするべきだよ。オレたちはプロフェッショナル、仕事は効率化した方がいい。ムダな体力、ムダな魔力、ムダな作戦時間。それらを削ぎ落としていくことで、戦術というものは洗練されるのさ。


「ゼファー、分かっているなッ!!」


『うん、さっきみた、『きれつ』を、ねらうッ!!』


 ぶおんと長い尾を振って、ゼファーは体勢をコントロールする。その動作の反動を使いながら、方向をも変えるのさ。華麗なターンだよ。爪が入らないなら、スベって遊ぶ。幼い竜の思考はいつだって柔軟だった。


 白い石材をにらむぜ。上空からは、たしか、このあたりに良さそうな場所が見えたんだがな?白く磨かれた平面の石材に……裂け目のように細い亀裂が入っている場所は……。


 ―――ああ、見つけたぞ。


 大きくはないが、屋上の石材に入った『亀裂』さ。白くて分厚く、良く研磨された石だが……時間の経過には勝てない。一度加工してしまった自然物は、不滅の耐久性を大きく損なうもんだよ。加工した場所は、どうしても脆くなる。


 いい職人技で磨かれているとは思うが……時間とは、残酷なものだな。さてと、『獲物』を見ちまったんだ、オレとゼファーの目がギラギラするのは当然のことだよなァ!!


「あれだ!ゼファーよッッ!!やっちまえええええええええええええええッッ!!」


『GAAOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHッッ!!』


 竜の歌と共に、巨大な『火球』が放たれる!!竜の劫火を丸めて、その内部に圧縮した『風』を混ぜたモノだった。言わば、魔力で作った爆弾みたいなものさ。それが、長年の風雨と健在としての負担に蝕まれた部分へと放たれる。


 亀裂部分に対して、直撃だ。


 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンっっ!!


 爆音と熱波が夜を走り抜けていく。ああ、いい火力だぜ。竜の作った威力の余波に赤い髪を揺らしながら、オレはゼファーの力強さに感動していた。ほら、見ろよ?強烈な圧力が発生して、その部位を思いっきり押し下げていくぞ!


 このとてつもない重圧に、石材のひび割れが耐えきれなくなり、ガゴンッッ!!と、大きな音が響いていたよ。音と共に、その崩壊は起きていた。石材が崩れていき、ヒトが余裕で飛び込めるような穴が開いた。


「いいサイズの穴ね。さすがは、私のゼファー、よくやったわ!!」


『うん!ぼく、がんばったよ、『まーじぇ』ッ!!』


 オレたちは口々にゼファーを賞賛しながら、その背中から飛び降りていった。行き先なんて決まっているよ。あの『いいサイズの穴』から、王城の最上階を襲撃さ。一番おいしいとこを狙う。魔王らしい傲慢な食事の仕方だな。


 さあて、魔王とその家族と副官三号が、侵入するぜ!!玄関と最上階から同時に襲撃されるという経験は、さすがにお前のような熟練の悪党でも初めてなんじゃないか、アズー・ラーフマよ?これから、貴様の首を斬り落としに行くぞ。

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