15話 帰路
ここは、三日目の京都散策の集合場所に指定されていた道の駅。
忠長は人気のないトイレ裏で自衛隊から貸与されているスマホを見ていた。
画面上を踊る彼の指が一つのメールを捉える。
送信者欄には〝612e19190670baa21af25f6b892eaef7〟と書かれている。
「群団長、か。十中八九昨日の事だろうが……」
そう言い、メールの本文を開く。
『008a6a776e657878d3317bfc00f776b1』
「……暗号文か。流石にここじゃ復号できねぇな。ソフトもないし」
ため息を吐いた彼は、スマホの電源を消し、制服の裏ポケットへと仕舞い込んでバスへと歩いて行った。
☆★☆★☆
帰りの車内、忠長は行きと同様に唯華に構われていた。……のだが、それとともに彼はとても困惑していた。
「……唯華さんや、お前、もしかして寝てるのか?」
そう、喋り疲れた唯華は忠長の肩に頭を乗せて寝てしまったのだ。
「……はぁ、まぁ、いいか。遥香とさほど変わらんし」
小さく呟くと、研修開始の朝に渡された説明書を開く。
(いままで忙しくてなかなか開けられなかったが……これ、無線機の説明以外にも風紀委員自体の説明もあるんだな。取り敢えず、無線機の型式から……と。F7Eってことは、FMのデジタル複数チャンネル電話方式か。風紀委員、混線に強い
半複信とは、法律上では単信と複信が混在している通信方式とされているが、実際には単信方式として扱われているのが現状だ。というか、有資格者である中の人的にも単向通信方式や単信方式、半複信方式、複信方式の違いを完璧に理解できていない時点で法律上の定義と一般的な定義との乖離が激しいことを物語っているだろう。いや、本当に、マジで。
うおっほんっ。
なお、本来の意味での単信方式は、法律では、単向通信方式に該当し、主にテレビやラジオなどの、A局は送信、B局は受信しかできない一方通行の通信方式のことを指す。
また、なぜ忠長が「言葉を被せないように」と思ったのかを言えば、少し長くなる。
電波の型式をかなり大雑把に分ければ
その為、同時送信をしないような配慮が必要なのだ。
因みに、AMは同時送信された電波を受信した場合に於いて、不鮮明ながらも「誰かが同時に話している」という事実が分かるため、航空管制などの「聞き逃すことの出来ない重要な通信」、言い換えれば誰かが話している状態でも緊急事態を報せなければならない局などで使われている。
閑話休題
(えーっと、風紀委員の無線には
彼はそのままバスが到着するまで説明書を読み続けるのであった。
☆★☆★☆
(なお、注意喚起音には以下の四種類がある。連続した短音三回を二回鳴らす組み合わせ。短音一回と長音一回を二回鳴らす組み合わせ。音階の異なる長音二回を鳴らす組み合わせ。音階の異なる長音二回を三回鳴らす組み合わせ。それぞれ、CPから発報されたもの、自動音声が発報したもの、風紀委員本部が発報したもの、風紀委員本部が緊急性の高い内容であると判断した際に発報されるものである。これらが鳴った際には、緊急時以外の無線の発報は控えるように、と。……ふぅ。警察のシステムを踏襲している感じだな。というか、警察と連携してるんだな。意外だ)
「はぁ~い! みなさぁ~ん! 寝てる人を起こしてくださぁい! もうすぐ着きますよ~!」
望奈美の声に顔を上げ、隣で寝息を立てている唯華の体を揺らす。
「ほら、唯華、起きろ。もうすぐ着くぞ」
「んっ、むぅ……あれ……?」
「起きたか? もうすぐ着くぞ」
「う、うん」
少し頬を紅くしている唯華を後目に、忠長は突然流れてきた空電音と注意喚起音に耳を傾ける。
『風紀委員本部から各局。PS3の活躍により、111番整理番号26番に於ける傷害窃盗事件の容疑者を確保した。以上を以て、指令番号30番にて発令した学園都市内緊急配備を終了する。当該指令番号56番、担当は皇。なお、回信は省略する。各員各局、お疲れさまでした。以上、風紀委員本部』
『COから風紀委員本部。感明どう?』
『風紀委員本部からCO。感明良好です。おかえりなさい。どうぞ』
『ただいま。111番整理番号26番の内容と結果、教えてくれない? どうぞ』
『本部了解。それでは……チャンネル1番にてお待ちしています。どうぞ』
『チャンネル1番、了解』
『以上、風紀委員本部』
だんだんと近付いてくる駅舎を後目に、忠長は今日の夕食を考えるのだった。
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