#29 少年に慰められる

「キットは馬鹿だなぁ」


 俺はこの日、リュシル少年に慰められていた。

 先日のエルフの件を話したところ、ケラケラ笑ったあとで、俺が少し落ち込んでいるのを察すると頭をなでてくれたのだ。

 子供に頭を撫でられるのは恥ずかしいが、少し癒された。

 リュシルくんは優しい子だ。


「なにがいけなかったんだろうか」


「エルフが人とまともに話すわけないじゃん」


 そういうものなのか、人嫌い?


「でも、人間の仲間と組んでたんだ。パーティメンバーと話せるなら、会話できるだろ」


「へー、そいつほんとに人間?」


「そう言われると、自信ないな」


 確かに見た目で判断しただけで、ちゃんと調べたわけじゃない。


「今度は彼と話してみようか。そうすればエルフと話すヒントをもらえるかも」


「がんばれキット。弱いやつは努力でカバーって父ちゃん言ってたぞ」


 リュシルくんの父ちゃんも辛辣だな。

 ちなみに、リュシルくんのお父さんは税務官らしい。

 公務員だが税の支払いを拒む人間から力でとりたてる、バリバリの武闘派でもあるそうだ。

 こっちの税務官すげぇ

 

「父ちゃんは強いねぇ。俺は俺なりに頑張ってみるよ」


「おう。で、キットはエルフから何聞きたかったんだ?」


 あー、そこは話してなかったか。


「精霊について教えてもらいたかったんだ」


「精霊なら俺だって知ってるぞ!」


 なんで俺にきかないの!とばかりに鼻息荒くするリュシルくん。

 そういえばリュシルくんは中級魔法使いであった。

 受付のお姉さんが知らなかったから、あえては聞かなかったが何か知っている可能性はある。

 ごめんごめんと謝ってから、改めてリュシルくんに知りたかったことを聞いてみた。

 精霊に魔法を頼むにはどうすればいいのか。

 どのように言えば調整してもらえるのか。

 魔法のための魔力はどこから調達するのか。


「……わかんない」


 すごく悲しそうにリュシルくんは呟いた。

 自分なら答えられると意気込んでいたばかりに、できなかったことが悲しくて仕方がないのだろう。

 自分としてはダメもとだったから、知らなかったとしても特別残念というわけでもないのだが。

 

「俺、先生にきいてくる!」


 なんでも先生は上級魔術師だそうな。

 自分よりもものすごく魔法に詳しいのだとリュシルくんは主張した。


「よし。じゃあなにかわかったら教えてくれ」


「おう、待ってろ。すぐに聞いてくるから!」


 イスからぴょんと飛び降りると、リュシルくんは大通りのほうへ駆け出した。

 先生のところに向かったのだろう。

 そんなに急がなくてもいいんだけどなぁ。


  *


「……先生も知らないって」


 それから30分後のことだった。

 駆け足で聞いてきてくれたのだろう。

 そんなに待つこともなく、結果がわかった。

 やはり、精霊に関することは一般的じゃないらしい。

 

「王都にいかないと本もないって言ってた」


 万事休す。やはりエルフに聞くしかなさそうだ。


「ねえちゃんは今王都にいるんだ。ねえちゃんなら何かわかるかも!」


 なんでも、近いうちにこの街に帰ってくるそうだ。

 知らなかったとしても今日お姉さんに通信を飛ばして調べておいてもらうと、リュシルくんは言う。

 

 この世界では、街と街とを魔法使いのメッセジャーがつないでいる。

 映像や言葉を伝える魔法で必要な情報を常時やりとりしていて、専用の施設に赴いて手続きをすれば、情報の伝達が可能だ。その情報の伝達を彼らは通信と言い、よく会話にでてくる。

 料金は手紙程度なので大したことはないが、正直そこまでしてもらわなくてもという感じだ。

 しかし、その旨をリュシルくんに伝えると


「ジュースのお礼だから気にすんな!大丈夫、ねえちゃん俺に優しいし。頼めば調べてくれるから」


 元気よく、調査を請け負ってくれた。

 ふむ、無理に断って気持ちを削ぐほうがよくないかもしれない。

 素直に好意に甘えておこう。


「わかった。無理ない範囲で頼むな。」


「まかせろ!」


 彼は気持ちよく請け負うと、またもピョンとイスから飛び降り、駆け出してしまった。

 だから、そんなに急がなくてもいいんだけどなぁ

 しかし、こんなにも頑張ってくれる彼は、この街で一番の味方かもしれない。

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