第9話

 そんなある日、父親である国王陛下が部屋に入ってくるなり「シャルロット! 魔術適正を確認するぞ!」と話かけてきた。


「お父さま、おはようございます」


 私は、父親である私の父親であるクレイク・ド・クレベルト国王陛下の表情を見ながら言葉を紡ぐ。

 国王陛下は、嬉しそうな表情をして私の頭を撫でてくる。

 頭を撫でられたのは子供の頃だけだったこともあり、ホッとするだけでなく、すこし照れくさい。


「あ、あの……お、お父さま」


 私は頭を撫でられながら上目遣いに父親を見る。

 すると国王陛下は、優しい笑顔を、私に向けてきていた。

 けど、その笑顔を見ると私は思ってしまう。

 別の世界に存在していた私が、今、この場にいるなら、この体の本来の持ち主はどうなってしまったのだろうか? と……。

 だからこそ、国王陛下が私に向けてくる笑顔が、実の娘である彼女に向けられていると思うと、とても心が痛む。


「どうしたんだい?」

「えっと……魔術適正というのは何なのでしょうか?」

「おお! そうであった!」


 国王陛下は、私の頭を撫でることを止めると、直径10センチほどの水晶球を私い見せてきた。

 色は無色透明で、水晶球はとても透き通っている。


「シャルロット、これに手を触れてみなさい」

「――はい。それで、お父さま、これは?」

「ああ、これは魔術適正を計る水晶だ。魔術の適正を計るのは本来であるなら10歳からが通例なのだが、王族や貴族などは早い内から行っているのだよ」

「早いうちからですか?」

「子供の頃の方が魔力量の上昇が良いとされているからだよ?」

「そうなのですか――」


 魔力量は、増やせると……。

 私は、国王陛下が差し出してきた水晶球を両手で受け取る。


「水晶に魔力を込めてみなさい」

「魔力ですか?」


 私は首を傾げる。

 本来のシャルロットなら知っていたかも知れないけど。


「――ごめんなさい、お父さま。……私、魔力の使い方を覚えていないです」

「シャルロット、すまないな。父を許してくれ……記憶を失っていることを考慮していなかった」

「――い、いえ! お父さまが気になされることはないです! 私が全部悪いんですから!」

「……そうか……」


 国王陛下は、寂しそうな目をしたあと、私を両手で抱き上げるとベッドへと下ろしてから、「シャルロット、今から魔力の使い方を教えるから両手を私に向けてくれるか?」と、私に話かけてきた。

 

「――は、はい!」

「慌てなくてもよいからな?」


 どうやら、私が何も覚えていないことを、お父さまは気にしているようで、とてもやさしく声をかけてきてくれる。

 すごく私好みの低音なボイスに、甘いマスク。

 そして男性とは思えないほど細く長い眉に、鼻筋が通った顔立ち。

 さらに極めつけは、透きとおるまでの空色を連想させるかのような蒼穹な瞳に均整の取れたたくましい肉体。

 どれをとっても私の好みにぴったりで!


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