第6話 茜色のひらめき

「昨日はごめんなさい! わたし、藍さんにひどいこと言ってしまって……」


 わたしは藍さんに会って開口一番、謝罪をした。


「いいのよ。悪いのは私だし…………それに、あなたのおおよその事情はアオイさんに聞いたわ。私に怒りがわくのも当然よね」


 藍さんは相変わらずの少しやつれた顔をしていた。


「でも、あなたはもう一度ここに戻ってきてくれた。茜さん、あなた、いい子なのね。」


 初めて、藍さんの笑った顔を見た。見ているだけで落ち着くような、温かい笑顔。やつれていても、つつまれるような安心感がある。

 わたしもお母さんに、こんな温かさを感じていたのかな。


「それじゃあ改めて、二人に依頼をするわ。私の息子・紫音を見つけて、私に会わせてください」

「ああ」

「はい!」


 …………で、気合が入ったところで、どうやって探せばいいんだろう?


「アオイ、藍さんががんばって探しても見つからなかった紫音くんを、一体どうやって探すの?」


 ヒソヒソ声でアオイに話しかける。


「そのことだが、ボクはすでにシオンの居場所を探し当てている。アカネ、キミが昨日この場から走り去っていったあとにね」

「……ええ!?」

「本当なの!?」


 わたしと藍さんは近所迷惑になりそうなくらいの大声で驚いた。もっとも藍さんは幽霊だから近所に聞こえるのはわたしの声だけだけど。


「一日で……一体どうやって?」

魂清請負人ソウルパージャーを舐めないでほしいね。ボクの能力(チカラ)を駆使すれば人だろうと幽霊だろうと細かいプライベートまで丸わかりさ」


 ……とても得意げだ。というかつまり、アオイは昨日の夜からずっとわたしに何も言わずに内心ほくそえんでたのか! 悔しい…………。


「それで、紫音の居場所は!?」


 藍さんが身を乗り出して尋ねる。


「ここから遠い町の児童養護施設で暮らしているらしい。ボクも直接行ったわけではないから、今から行って確かめよう」

「……これ、わたしいらなかったんじゃない?」


 昨日のいろいろは一体なんだったんだろう…………。


「いや、ここからキミが必要だ、アカネ。とてもじゃないが歩いて行ける場所じゃないからね。電車を使う」

「……あー。そういえばアオイは無一文の家出少女だったもんね……」


 自分の活躍の場に納得がいかないまま、わたしたちは電車に乗り込むのだった。


 ***


「紫音くんを見つけたら、前にわたしにしてくれたみたいに幽霊を見られるようにして、藍さんとお話させてあげるんだよね?」


 わたしたちは二人分の切符を買って三人で電車に揺られながら児童養護施設へ向かっていた。


「いや、それはできない。生者と死者が認識し合い言葉を交わすというのは、本来あってはならないことだ。ボクやアカネも死者の手助けという正当な理由以外でむやみに力を使ってはいけない。それに……」

「それに?」

「いや、とにかくボクがアカネ以外に力を貸すことはこの先ないだろう」

「そっか…………。たしかに改めて考えれば死者が見えるって、大変なことだもんね」

「……でも、アオイの能力(チカラ)が貸せないんじゃ、藍さんは…………」

「私は大丈夫よ。ただ紫音が今どうしているのか見ることができれば満足だから。ありがとうね、茜さん」

「そうですか……うーん」


 でも、なんだかすっきりしない。藍さんの気持ちを伝える手段が何かあれば…………あ!


「そうだ、手紙! 藍さん、紫音くんにお手紙を書きましょう!」

「……手紙を?」

「はい! 今になって遺書が見つかった…………みたいな感じで。藍さんに手紙を書かせるくらいできるでしょ、アオイ?」

「ん……アイが直接書くのではなく、筆跡をなぞる方法なら可能だね」

「はい決定! 書きましょう、藍さん。きっと気持ちは届きます!」


 藍さんの言葉をわたしたちが口で伝えるより、きっと何倍もいい。手紙は、藍さんがいなくなってもこの世に残り続ける。それは、紫音くんの心にずっと寄り添い続けられるから。


「わかったわ。ありがとう、アオイさん。茜さん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る